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【22-69】災害予測の分野で大きなポテンシャル秘める人工知能

裴 宸緯(科技日報実習記者) 2022年12月15日

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画像提供:視覚中国

 膨大なデータに対して学習・分析、スマート処理を行うとともに、それをベースに、自動で判断、または人間の判断をサポートし、早期警報システムの信頼性とリアルタイム性を高めることができるというのが人工知能の優位性だ。
----王 暾 四川大学教授、地震早期警報・マルチハザード早期警報応用情報技術四川省重点実験室室長、成都高新減災研究所所長

 最近、あるメディアの報道によると、韓国の光州科学技術研究所は、森林火災リスクを1週間前に予測できる人工知能システムを開発した。開発者によると、この人工知能システムは地表付近の温度や湿度、風、累積降水量といったデータを測定して、森林火災が発生する確率を計算することができるという。

 技術が発展するにつれて、人工知能を活用した自然災害予測が現実となりつつあるようだ。例えば、米国スタンフォード大学の研究者が開発した人工知能モデルは、微小粒子状物質による大気汚染の状況を予測して、米国西部地域の野火やスモッグの変化状況を追跡することができる。英国カーディフ大学の研究者が開発した人工知能プログラムは、海底地震により発生した海洋音波を分析して、津波が発生する可能性のある時間を予測することができる。

 人工知能を活用して、どのように自然災害を予測するのだろう?その予測は、人間が自然災害に対応するうえで、どのように役に立つのだろう。科技日報は、四川大学の教授で、地震早期警報・マルチハザード早期警報応用情報技術四川省重点実験室の室長を務める成都高新減災研究所の王暾所長を取材した。

予測の前提として整った理論モデルの構築が必要

 人間は、急速に発生する直接的な脅威には非常に敏感であるのに対して、ゆっくりと進展する潜在的な脅威を識別するのは苦手だ。しかし、人工知能の登場により、人間は自然災害を予測し、防災対策を講じるためのツールを手にした。

 王所長は取材に対して、「人工知能の予測を含めて、一般的に『予測』とは、『当てずっぽう』ではなく、観測データに基づいているものだ。衛星画像や地上の基地局などを通して、科学研究者は、自然災害がもうすぐ発生し、自然災害発生のリスクがあったり、自然災害が発生しているが、まだ深刻な被害は出ていなかったりする状況下で、速やかに早期警報情報を発表して、損失を最小限に抑えることができる」と話す。

 そして、「先進的通信技術と観測設備を頼りに、科学研究者は自然災害がもうすぐ発生する時や、災害が発生したばかりで、まだ深刻な被害は出ていない時のシグナルを受け取ってから、人工知能を活用して、こうしたシグナルを処理し、災害状況を判断し、早期警報を出すことができる。例えば、森林火災発生初期の場合、人工知能は衛星画像と他の情報を通して、火災発生地点の位置を特定し、火災の大きさを判断することで、速やかに関係当局に通知して、対策を講じることができる。今年9月に発生した四川瀘定地震の早期警報や大部分の山火事、都市の水害早期警報は、いずれも人工知能技術を駆使している」と説明する。

 現時点での技術レベルでは、科学研究者は人工知能を活用して、大部分の自然災害をモニタリングし、早期警報を出すことができるものの、人工知能は、「人間の脳」を超えているわけではない。人工知能が正確に予測することができるのは、人間が整った理論モデルを構築できることが前提となるのだ。

 王所長は、「捜索範囲が広く、計算能力が高いというのが人工知能の優位性だ。しかし、災害を予測する中で、こうした能力があるだけでは不十分で、理論モデルによって『どのように予測するか』という問題を解決しなければならない。理論モデルを構築せずに、人工知能に『独自』に災害予測をさせることにチャレンジした科学研究チームもあるが、成功していない」と説明する。

人間の識別能力向上をサポート

 現在、人間の自然災害のモニタリング方法はますます進んでおり、自然災害に対応する手段もどんどん多様化している。それでも、モニタリングの精度が自然災害の予測においてやはり非常に重要で、人間は自然災害をモニタリングする際に、妨害に直面することが多い。

 王所長は、「例えば、科学研究者は衛星を通して森林の光っている場所をモニタリングする方法で、森林火災をモニタリングすることができるが、人間の場合、衛星画像を見るだけでは、それが火災なのか、それとも太陽の光が反射しているのかを直観的に判断することが難しい。また、科学研究者は地震波をモニタリングすることにより、地震早期警報を行うことができるが、発破や建築現場の作業などでも地震波は発生する。いかに速いスピードでそれらを識別して、妨害を排除するかが、自然災害モニタリングにおいて、解決すべき大きな問題だ。そこで、人工知能といった技術を通して、人間の活動や他の要素によって発生する妨害シグナルを排除し、誤報を減らすことが必要となる」と例を挙げながら述べる。

 そして、「膨大なデータに対して学習・分析、スマート処理を行うとともに、それをベースに、自動で判断、または人間の判断をサポートし、早期警報システムの信頼性とリアルタイム性を高めることができるというのが人工知能の優位性だ。そのため、人工知能は、妨害シグナルを識別する上で大いに期待できる。膨大な事例を学習することで、人工知能はどれが妨害シグナルかを速やかに判断することができる。そのため、科学研究者は時間とエネルギーを節約し、自然災害予測の効率と精度を高めることができる」と説明する。

 成都高新減災研究所は、人工知能を活用して地震波をスマート分析しており、ここ11年にわたり、地震の誤報「0」を実現してきた。同所が四川省自然資源庁や成都理工大学といった機関・大学と共同で開発したシステムは、人工知能を活用して、地滑りのシグナルをスマート分析することで、地滑りの誤報率を大幅に低下させた。

 このほか、人工知能は複雑なシグナルの分析と集約作業を担うこともできる。可視光線や赤外線といったマルチバンド情報を分析・融合することで、人工知能は特定の地域の総合的状況をスピーディーに識別することができる。「例えば、山火事の発生地点の地形状況や土地の使用状況、植生状况を判断したり、短時間内に猛烈な雨が降る都市で水害が発生する可能性、浸水の程度などを判断したりできる」と王所長。

見通しが明るい人工知能の自然災害対応への応用

 人工知能を応用して自然災害に対応する分野の今後の見通しについて、王所長は、「人工知能が急速に発展しているおかげで、科学研究者は複雑でこまごまとした計算作業から解放され、より複雑で、重要な任務に集中することができるようになるだろう」と、自信を見せた。

 人工知能の高速な計算能力を活用することで、災害発生後の救助活動の効率も向上すると期待されている。例えば、高分解能衛星画像は、救助隊員は短時間に被災地の被害状況の一次情報を取得することができるほか、被災地情報と救援物資のニーズをマッチングさせ、人工知能は最も効率の良い救助ルートを設定することができる。さらに、モニタリングした二次災害などの変量を、救助計画に組み込み、救助ルートを適時修正したり、救助物資を割り振ったりすることもできる。

 ハイテクの介入により、まだ被害状況がはっきりしていない間に、命の危険を冒して、被災地の第一線に向かう必要がなくなり、人間の命と安全を最大限保証することができる上、救助の効率も高めることができる。

 災害発生後の救助能力向上以外にも、災害連鎖の早期警報の面でも、人工知能は応用の大きなポテンシャルを秘めている。自然災害が発生した後、二次災害が次々と誘発されるケースが多く、そのような現象は「災害連鎖」と呼ばれている。王所長は、「例えば、ある場所が激しい雨に見舞われてダムが決壊し、下流で洪水や地滑りが発生することがある。災害連鎖は変化が目まぐるしく、影響要素は極めて複雑だ。現時点では、災害連鎖の早期警報は往々にして経験に基づいて出されている。将来、相応の人工知能モデルを構築することができれば、災害連鎖予測の精度が向上すると期待されている」と説明する。

 もちろん、人工知能が今後、災害早期警報においてさらに大きな役割を果たすようになるためには、科学研究者が災害に対する認知レベルを継続的に向上させ、人工知能早期警報モデルを継続的に改良することも必要だ。王所長は、「科学研究者は今後、自然災害に関する研究をさらに強化し、さらに多くの変量を十分に検討し、さらに精度の高い災害早期警報モデルを構築して、人工知能といった新技術の優位性を発揮させ、それが人間の安全保障事業にもっと良い形で寄与するようにしなければならない」との見方を示した。


※本稿は、科技日報「人工智能怎様做到対災害"先知先覚"」(2022年11月16日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。