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【22-74】既存業界のイノベーション活力を放出する「VR+」

劉 艷(科技日報記者) 2022年12月23日

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画像提供:視覚中国

 バーチャル・リアリティ(VR)は、各業界がデジタルトランスフォーメーションを実現するための下支えとなる重要技術だ。工業製造や医療・健康、教育・研修といった分野で、いずれもVR技術を活用してデータの可視化整備を展開することができる。VR技術は各業界に新スタイル、新業態をもたらしている。
 ----張小燕 中国電子情報産業発展研究院副院長

 2022年世界VR産業大会で発足した中国国家VRノベーションセンターは、中国のVR技術のブレイクスルー実現と産業チェーンの川上・川下企業の協同発展を推進することを目的としている。

 中国工業・情報化部(省)の王江平副部長が語ったように、新世代情報技術の集大成としてのVRは、社会の各業界にエンパワーメントする能力が次第に際立つようになっており、産業の発展は現在、新たな爆発期に突入している。

 VRの各業界での応用を踏み込んで推進するべく、中国の工業・情報化部や教育部、文化・観光部、国家ラジオ・テレビ総局、国家体育総局が最近共同で策定した「VRと業界応用融合発展行動計画(2022--26年)」(以下「行動計画」)が通達され、トップレベルデザインの面で、中国のVR産業の発展ルートと目標に関する明確な計画・支援が再び示された。

政策のサポートにより産業発展戦略のチャンスを掴む

「行動計画」は、「VR(AR、MRを含む)は新世代情報技術の重要な先端方向で、デジタル経済の重要な先見的な分野で、人類の生産・ライフスタイルを大きく変えようとしており、産業発展戦略におけるチャンス期がすでに形成されている」と明確に言及している。

 工業・情報化部・電子情報司の徐文立副司長は、「『行動計画』は、産業の面では、VRの中核的なソフトウェア・ハードウェアを通してブレイクスルーを実現し、産業チェーンの強靭性を増強する。業界の面では、VRの業界における応用・融合イノベーションを通して、エコロジカル発展の新たな構造を構築する。そして、新技術・新製品のアップグレード・応用を通して、素晴らしい生活を願う人々のニーズを満たすことが最終目標だ」と説明する。

「行動計画」が制定している発展目標は、2026年に、3D化、VRと没入型ムービー・ミュージックを融合するキーテクノロジーの重点的なブレイクスルーを実現し、新世代ヒューマノイドVR端末を継続的に充実させ、産業エコロジカルをさらに整備し、VRが経済・社会の重要な業界分野における大規模な応用を実現し、比較的強い国際的競争力を持つ中堅企業、産業クラスターをいくつか形成し、技術、製品、サービス、応用が共に繁栄する産業発展構造を構築することを目指している。

 そして、目標達成のために、「行動計画」は、(1)キーテクノロジー融合革新の推進(2)オール産業チェーンの供給能力の向上(3)マルチ業界・マルチシーンでの応用加速(4)産業公共サービスプラットフォームの強化(5)融合・応用の基準体系の構築―――という5つの重要任務を打ち出している。VR産業が「応用を通して産業を促進し、産業によって応用を拡大する」という好循環へと突入するよう促進し、産業の発展において、現在直面しているコンテンツと応用の不足というボトルネックを解消することを目指している。

 中国電子情報産業発展研究院の張小燕副院長は、「前周期の政策と比べると、『行動計画』は1つの共通認識を明確にし、2本の主線を引き継ぎ、注力ポイント3点を明示している」と説明する。

「1つの共通認識」とは、VR技術と製品が加速的に世代交代し、産業の大規模応用へのステージへと突入していることを指す。「2本の主線」とは、(1)VRハードウェア製品とコンテンツ供給を継続的に充実(2)キーテクノロジーを強化して産業チェーンのウィークポイントの補強、を指す。「注力ポイント3点」とは、(1)VRの各業界における融合・応用を深化(2)産業が推進する事業の足掛かりを明確化(3)地方にコア競争力を持つVR産業クラスターを展開、を指す。

 張副院長は、「VRは、各業界がデジタルトランスフォーメーションを実現するための下支えとなる重要技術だ。工業・製造や医療・健康、教育・研修といった分野が、VR技術を活用してデータの可視化整備を展開することができる。VR技術は各業界に新スタイル、新業態をもたらしている。VRの各業界における応用促進を加速させることで、VR産業チェーンの各部分が加速的に成熟に向かうよう推進され、デジタル経済発展の新たな原動力が構築されるだろう」と強調する。

幅広い技術マップをカバーするVR

「行動計画」は2026年に工業生産、スマートシティといったVR応用の重点分野においてブレイクスルー実現を目指している。

 チューリング賞受賞者である中国科学院の外国人院士のジョセフ・シファキス氏は、「VRとAR(拡張現実)は補完し合う概念であるため、よく一緒に取り上げられる。VRは今後、遠隔学習・娯楽、工業シミュレーション、EC、リアルシーン再現という4大応用分野で重要な役割を果たす」との見方を示す。

 工業シミュレーション・検証への応用を見ると、VRはコンポーネントライブラリから、バーチャルプロトタイプを構築して、生体工学を応用した製品の設計・検証を行うことができる。例えば、VR環境において、車両や飛行機、建築物といったプロトタイプの動きをテストできる。

 リアルシーン再現への応用を見ると、VRは、視覚や聴覚、物理的刺激と協調して、シーンをシミュレーションし、人間が緊急事態や危険な状況を、没入型体験ができるようにしてくれる。例えば、宇宙ミッションや消火、環境災害、軍と警察の訓練などがある。その種の応用は、専門的な人材や卒業生のスキルを評価するのにも役立つ。

 ジョセフ・シファキス氏は、「VR市場の大規模、かつ急速な成長を促進する要素には、(1)スマホと連動するVRヘルメットとVRと互換性のあるパソコンといった低コストVR消費デバイスの登場(2)十分の速さのブロードバンドネットワークと計算能力といったキーテクノロジーの融合能力(3)センサーやカメラ、マイク、スマホ、ゴーグルといったデバイスとの連結に完全没入型技術を採用できる‐‐の3つがある」としている。

 デジタル技術が実体経済にエンパワーメントするのと同じように、VRも数多くの業界と深く融合しなければ、その潜在的価値を最大限発揮することはできない。

「行動計画」は、VR産業発展の目標の中で、具体的な数字も挙げている。2026年に、中国のVR産業(関連ハードウェア、ソフトウェア、応用を含む)の全体規模を3500億元(1元は約19.6円)以上に拡大させ、VR端末の販売台数を2500万台以上にする。

 中国工程院の院士である趙沁平氏は、「VRは幅広い技術マップをカバーしており、今後は、極めて大きな発展の余地がある。『VR+』が既存業界のイノベーションの活力を放出し、現有の技術と応用に大きな影響をもたらし、業界のアップデートを推進していくだろう」との見方を示す。

 シンクタンク・賽迪智庫は、2025年には中国のVR産業の規模が2500億元を超えると予測している。VR技術の実体経済にエンパワーメントする役割が次第に放出されるにつれて、2025年には、1兆元規模の市場を牽引するようになる可能性がある。

今後の発展のために必要な優良コンテンツの構築

 中国のVR産業は近年、加速的に発展しており、強大な発展の活力を示している。

 産業エコロジカルの面を見ると、コアテクノロジーが進歩し続け、端末の性能が加速的に向上し、投資者・融資者マインド、アクティブ度が新たなピークに達している。2021年、中国のVR分野の投資・融資規模の増加幅は100%を超え、関連企業の数は1万社以上に達した。

 業界の応用の面を見ると、VRの新シーン、新スタイル、新業態が続々と登場し、工業、文化、教育といった分野の典型的なケース、注目点もどんどん現れており、複数の所で花が咲く良好な発展動向を見せている。

 国際競争力の面を見ると、中国製のVR製品が増加の一途をたどっている。今年9月末、テクノロジー企業・字節跳動(ByteDance)傘下のウェアラブルデバイスブランド・PICOが発表した新しいVR一体機は、ベルトと電池を含まない重さがわずかコーラ1本程度となっている。国際的な統計機関のデータによると、世界のVRヘッドマウントディスプレイ出荷台数ランキングで、PICOは上位に立っている。

 地方の産業・経済の面を見ると、VRは展開の焦点となっている。中国電子情報産業発展研究院の張立院長によると、江西省はVR産業を、新経済発展、新原動力育成の重要な足掛かりとしており、産業チェーン全体に企業400社以上が集まり、産業の規模は600億元を超えている。また、国家VR製造業イノベーションセンターが同省南昌市に設立され、VR産業のイノベーション、クラスターの先進地となっている。また、北京や上海、深セン、青島、南京といった地域でもそれぞれの特色を備えたVR産業クラスターが形成されている。

 数年の発展を経て、中国のVR産業は技術革新を基礎としたエコロジカルをおおよそ確立しているものの、コンテンツの構築が依然として、産業界で特に注目される話題となっている。

 張副院長は、「現時点では、VR分野のコンテンツはゲームがメインで、良質な業界の応用コンテンツが不足しているという問題が依然として存在している」と指摘する。これに対し、「行動計画」は、高品質のVRコンテンツの同時発展を推進し、コンテンツと端末が互いに促進し合うプラスの循環の産業エコロジカル形成を促進するとしている。

 張副院長は、「VRハードウェアとコンテンツの供給を継続的に充実させ、イノベーションによって駆動し、応用と緊密に結び付け、質の高い供給によってリードし、新たなニーズを作り出す必要がある」とし、VR産業の今後の発展について、「高品質で、大衆化された、ハードルの低いVRコンテンツの同時発展を推進し、コンテンツと端末が互いに促進し合うプラスの循環の産業エコロジカルを作り出す必要がある」との見方を示す。

 PICOの周宏偉総裁は、「VRは真により幅広い大衆市場に浸透するには、引き続きコンテンツがもたらす体験による必要がある。そのため、業界はさらに幅広い協力が必要になる」と指摘する。


※本稿は、科技日報「"虚擬現実+"釈放伝統行業創新活力」(2022年11月28日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。