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【23-04】配送時間を短縮し、人件費を削減 ドローンが物流業界の未来を変える

駱 香茹(科技日報実習記者) 2023年02月01日

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画像提供:視覚中国

 ドローン配送の普及には、国の法律や都市の関連設備、安全保障、技術といったレベルの問題を解決する必要があり、社会全体で取り組むべき問題でもある。都市の地域計画にそれらの関連機能を組み込むのが最も理想的なことだ。

楊 炯 北京航空航天大学無人システム研究院エンジニア

 我々にとって、スマート宅配ボックスから荷物を取り出したり、デリバリーを注文したりするというのは日常茶飯事となっているものの、宅配物やデリバリーの配送までドローンが担うようになるという世界を想像できるだろうか?

 低空飛行する大小さまざまなドローンが飛び交い、荷物を輸送し、スマホで配送状況をチェックすると、「あなたの宅配物/デリバリー商品はドローンが配送中です」と表示される日がもうすぐやって来るかもしれない。

 中国交通運輸部(省)などの当局がこのほど通達した「交通輸送スマート物流基準体系建設ガイド」には、ドローン配送関連の基準が複数含まれている。中国民用航空局(以下「中国民航局」)は最近、深圳市、重慶両江新区を含む第2弾となる民用自動運転航空機試験エリアと民用自動運転試験拠点の命名を行い、無人航空機の模索を持続的に推進している。このほか、同局が発表した「民用無人航空機発展のロードマップV1.0(意見募集稿)」は民用無人航空機の今後の詳しい計画をしている。

空撮にとどまらず様々な技能を身に付けているドローン

 ドローンの用途というと、多くの人がまず「空撮」を連想するだろう。しかし、ドローンは単なる「空を飛べるカメラ」だけだろうか。

 デリバリープラットフォームの「美団」や宅配大手の「順豊」、EC大手の「京東」、「中国郵政」などは、デリバリーや宅配物の配送だけでなく、PCR検査の検体や観光地の物資、医療用品などの輸送にもドローンを活用しており、様々な技能を身に付けている。

 美団のドローン業務の責任者・毛一年氏によると、2022年8月時点で、同社は深圳の商業圏4ヶ所でドローン配送を導入しており、配送ルートは10以上のコミュニティとオフィスビルをカバー。住民約2万人にサービスを提供することができ、既に7万5000件の実際の配送を実施した。このほか、2022年5月から、浙江省杭州市ではPCR検査の検体輸送にもドローンが活用されており、9月19日の時点で、延べ640万人分の検体を配送したという。

 順豊ドローン都市/農村運営の責任者・方源氏は「従来の宅配物の輸送のほか、当社は医療コールドチェーンや緊急時対応、セキュリティパトロール、特色経済、観光スポットへの配送などにもドローンを活用し、輸送効率をさらに向上させている」と説明する。

「速くて正確」というのが、多くの人のドローン配送に対するイメージと期待で、それがテスト事業において現実になりつつある。

 毛氏は、「現在、当社の通常のデリバリー配送は、3キロ以内なら28~30分となっている。しかし、ドローンを活用すると、受注から配達完了までの時間が15分に短縮でき、3キロ以内なら15分で配達完了を実現している」と説明する。

 ドローンは都市内のデリバリー配送のほか、山や川、湖、海を越えて、生鮮食品を輸送することもできる。

 9月23日に、陽澄湖の上海ガニの水揚げが解禁となった。同日、順豊はドローンを活用し、湖の真ん中で捕れたばかりの上海ガニをわずか5分で岸辺まで輸送していた。従来の輸送方法なら20~30分かかるため、輸送効率は6倍近く向上したことになる。

「中国の松茸の里」である四川省雅江県のキノコ農家は、松茸を収穫するために、山を毎日24キロ登り下りしなければならない。しかし、順豊のドローンを導入したことで、輸送時間が30分に短縮して、新鮮な松茸をスピーディーに山の下に降ろすことができるようになったほか、人が苦労して輸送することも必要なくなった。

 ドローン配送が、物流業界の未来を変えようとしている。2022年6月、中国国家郵政局の戴応軍副局長は記者会見で、「ハイレベルサービス能力の構築を加速させる。配達時間の指定や送り先住所変更、配達時間変更といった便利なサービスなどの発展を支援し、ドローンと自動運転車を総合的に活用し、無接触配達展開を奨励する」との見方を示した。

関連施設の研究開発が低空物流ネットワークの構築をサポート

 ドローンによる輸送の常態化を実現するためには、物流の各チェーンが共同で取り組み、「低空の1枚網」を構築しなければならない。

 北京航空航天大学無人システム研究院のエンジニア・楊炯氏は、「ドローンプラットフォームの技術は既に成熟している。しかし、積み降ろしや配達、地上での転送、空域のコントロール、昇降の管理、ステーションの建設、安全保障などを含む関連技術はまだ成熟していない」と説明する。

 そして、「現時点では、完全に自動化された、非常に良い地上の積み降ろしステーションはなく、今後の発展が必要だ。ステーション建設という観点から見ると、相応の都市改造は難しい。このほか、安全を保証するために、ドローンのための時空状態管理システムを構築し、各ドローンに無線標識を搭載し、地上でそれを探知できるようにしなければならない。そうすることで、各ドローンの位置を確認することができる」と指摘する。

 これは、現時点では荷物を積んだドローンを飛ばすことはできても、荷物の積み込みと輸送の過程における一連の問題を解決することが必要であることを意味する。

 2022年6月、深圳市計画・自然資源局が発表した「深圳市の物流配送ステーション建設計画ガイド」は、「物流配送ステーションを建設する際、今後の技術発展を考慮し、無人配送車やドローン配送、地下パイプライン配送などの施設のために空間を合理的に残しておかなければならない」としている。

 しかし、計画を実際に実行するのは決して簡単なことではない。

 毛氏は、「ドローン業務を実施する過程で、実際のシーンへの応用、インフラの安全性と信頼性の確保、ユーザー体験の向上といった分野で克服すべき課題が山積みだ。こうしたことを克服するために、当社は努力を続けている。ユーザー体験という点で、我々は非常に厳しい教訓を残した。一つ目のコミュニティでサービスを提供し始めた時、当社の発着場と、ある住民のベランダの距離が約30メートルと近かった。でも、その家の子供が昼寝をしなければならないため、全てのプロセスを再考しなければならなかった。そのために技術的模索を重ねた」と説明する。

 さらに、「当社は既に、ドローン、自動化発着場、ドローンスマート調整システムなどの研究開発がほぼ完了した。今はオールシーン、全天候型の都市低空物流ネットワークの構築に力を入れている」としている。

 方氏は、「ドローンやその運営管理プラットフォームの自動化、スマート化の水準をさらに向上させ続けなければならない。例えば、ドローンの高精度位置情報取得、スマート運営調整、分布型遠隔管制塔などの関連技術がある」と説明する。

従来の物流に「取って代わる」のではなく「補足する」

 ドローン配送が発展するにつれて、「ドローンが広く応用されるようになると、デリバリー配達員や宅配便配達員の多くが失業するのでは?」と心配する人も出ている。

 しかし、実際には、現在のドローン配送と従来の物流は相互補完関係にあり、互いに相いれない関係ではない。ドローンが従来の物流を補足するということで、取って代わるわけではないのだ。

 楊氏は「ドローンは従来の物流を補足する存在になると予測している。ドローンは特殊な設備で、コストが高い。でも、飛ぶことができるというのは特殊な能力だ。例えば、普通の物流を『正規軍』に例えるなら、ドローンは『特殊部隊』ということができるだろう」との見方を示す。

 ドローンは混雑した地上の道路を避け、目的地にスピーディーに到着することができるため、自然の優位性があると言える。そのため、通常の物流がカバーできない場所に、ドローンの姿が見られる。

 現在、ドローンは都市において短距離の緊急輸送任務を担えるだけでなく、救急医療物資を迅速に現場に輸送することができるほか、山地や観光地、辺鄙な場所といった特殊なシーンでも力を発揮している。そのような場所へのダイレクト配送が可能であるため、配送時間短縮や人件費削減にもつながる。

 方氏は、「現時点では、ユーザーに直接配送するというよりも、当社のドローンは主に、現存の地上運営体制にサービスを提供し、配達員がスピーディーに、さらに良いサービスをユーザーに提供できるようにサポートしている。ユーザーが普通の宅配便料金で、ドローンによるクイックサービスを利用でき、ユーザー体験と配達員の仕事の効率の『ウィンウィン』を実現している」と説明する。

 毛氏は「都市の末端3キロの配送体系において、配達員、自動配送車、配送ドローンといった複数の輸送方式が地上と空中が一体化した配送体系を形成するという状況になるだろう。うち、自動化設備の最も重要な存在価値は、輸送能力を補足し、配達員と協同することだ。このような体系において、自動配送車は重い荷物の配送に適しているのに対して、ドローンは急ぎの荷物の配送に適している」との見方を示す。

ドローン配送の今後の行方は?

「民用無人航空機発展のロードマップV1.0(意見募集稿)」は、民用無人航空機発展の段階的目標について、「2025年に、都市における短距離低速軽・小型物流配送無人航空機器を段階的に成熟させる」、「2030年に、都市における短距離中・小型高速物流配送無人航空機器を段階的に応用する」、「2035年に、都市における中・長距離の中・大型高速物流配送無人航空機器を段階的に推進する」としている。

 毛氏は、「最終的にはドローン配送の大規模な推進が実現すると確信している。今後1~2年以内に、単一都市の複数の商業圏で協同運営を実現し、3~5年で、中国全土の複数の都市の複数の商業圏で協同運営を実現したい。将来的には、少なくとも100都市以上で、低空物流を展開できると考えている。ただ、5~10年はかかるだろう」との見方を示す。

 楊氏は、「ドローン配送の普及には、国の法律や都市の関連設備、安全保障、技術といったレベルの問題を解決する必要があり、社会全体で取り組むべき問題でもある。都市の地域計画にそれらの関連機能を組み込むのが最も理想的なことだ」と指摘する。


※本稿は、科技日報「無人機帯物流行業飛向未来」(2022年12月2日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。