科学技術
トップ  > コラム&リポート 科学技術 >  File No.23-05

【23-05】「ダブルカーボン」の実現に力を発揮するマイクログリッド

陳 曦(科技日報記者) 劉 暁艷(科技日報通信員) 2023年02月02日

image

画像提供:視覚中国

 マイクログリッド建設により、新エネルギーを効果的に活用し、各種分散型電源に接続し、運用する時の主要な問題を解決することができる。マイクログリッドの計画・設計は主に、総合的なエネルギー利用、資源分布、現有のネットワークの状況などに基づいて、最適のシステム構築案を決定し、電力利用の経済性、信頼性、環境保護の要求を満たすことだ。

 浙江省寧波市初の高山太陽エネルギー貯蔵協同マイクログリッドプロジェクトが最近、本格的に稼働開始した。システムが稼働開始した後、自動で余った電力がネットワーク上に送電される。また、内蒙古電力集団初の「電源・送電網・負荷・エネルギー貯蔵一体化」マイクログリッドモデルプロジェクトが最近、額済納(エジン)旗で本格的に着工した。同プロジェクトは中国初の独立した運用能力を備え、短絡容量が小さく、電圧階級が低く、カバー範囲が広い「電源・電力網・負荷・エネルギー貯蔵」が一体化した新型電力システムプロジェクトだ。

 中国共産党第20回全国代表大会の報告は、「新型エネルギー体系構築計画の加速」を打ち出した。中国のマイクログリッド建設が発展するにつれて、マイクログリッドが中国の電力網の構造を変え、中国のエネルギー革命の過程で大きな役割を果たすようになるのだろうか?

小さくても必要な機能が全て揃うマイクログリッド

 天津大学電気自動化・情報工程学院の冀浩然准教授は、「マイクログリッドとは、分散型電源、エネルギー貯蔵、エネルギー変換装置及び負荷、監視・保護装置などが一体となった小型電力システムのことだ。マイクログリッドは規模が小さくても必要な機能が全て揃っている、自動コントロール、管理を実現した自立システムで、発電、配電、電力利用の機能が完全に整っており、ネットワーク内のエネルギーを効果的に最適化できる」と説明する。

「マイクログリッド」と呼ばれているのは、従来的な大規模電力網と比べると規模が小さいからだ。では、大規模電力網の建設が十分成熟している今、マイクログリッド建設を進めるのは、なぜなのだろう?

 現在「ダブルカーボン(中国語:双炭。カーボンニュートラルと二酸化炭素(CO2)排出量ピークアウト)」という目標は、中国のエネルギー発展の新たな段階における主な目標だ。エネルギー需要と環境保護という二重のプレッシャーがかかっているのを背景に、中国内外で、各種再生可能エネルギーの分散型発電関連技術の分野に目を向けるようになっている。

 太陽光発電や風力発電といった分散型電源は、間欠的で、ランダム性が強く、環境の影響を受けやすい。そのため、それら電源自体の調整能力だけでは、パワーバランスの要求を満たすことはできない。現有の研究では、分散型電源は、マイクログリッドの形で電力網に接続し、大型電力網と互いに支え合うというのが、分散型電源の効力を発揮する効果的な方法となることが分かっている。

 冀准教授は、「マイクログリッド建設により、新エネルギーを効果的に利用し、各種分散型電源に接続し、それを運用する時の問題を解決することができる。大規模電力網と連結するかしないかによって、マイクログリッドは、『ネットワーク接続型マイクログリッド』と『独立型マイクログリッド』の2つのタイプに分けることができる」と説明する。

「ネットワーク接続型マイクログリッド」は通常、ネットワークと接続され、大規模電力網の安定した電圧と周波数により、エネルギーの双方向の交換を実現することができる。そして、大規模電力網に故障が発生した場合、マイクログリッドは、独立して運用するスタイルに切り換え、重要負荷への電力供給を保証することができる。「独立型マイクログリッド」は大規模電力網と接続されておらず、それ自体の分散型電源とエネルギー貯蔵システムにより負荷に電力を供給し、通常は内部のディーゼル発電機やエネルギー貯蔵システムといった安定した電圧と周波数を利用しなければならない。

大規模電力網の「ミニ版」ではないマイクログリッド

 どちらも「電力網」と呼べるものの、マイクログリッドは従来の大規模電力網の「ミニ版」ではない。

 冀准教授は、「マイクログリッドは機能や構造、運用方式などの面で、従来の電力網とは大きな違いがある。マイクログリッドは分散型電源をメインとし、エネルギー貯蔵システムとコントロール装置を利用して調整し負荷需要を満たす。そのため、通常、マイクログリッドの容量が小さく、電源が分散している上、負荷に近く、分散型エネルギーの現地での利用を実現し、現地のバランスを取ることができるほか、大規模電力網とエネルギーを交換し、互いに補助し合うことができる」と説明する。

 マイクログリッドには複数の構造があり、柔軟性が高い。そのため、現地の環境の特徴や資源分布に基づいて、各種分散型エネルギーを十分に活用し、独特のネットワークフレーム構造を構築し、特殊なユーザーの電力供給ニーズに応えることができる。

 このほか、マイクログリッドは独立したネットワークの運用をサポートし、大規模電力網で故障が起きた場合、迅速に大規模電力網との繋がりを遮断し、それ自体の能力により、重要負荷への電力供給をすることができる。

 冀准教授は、「マイクログリッドには複雑な動的運用の特性とエネルギー管理といった課題があるため、今後はマイクログリッドの発展のためには、計画・設計や保護・制御、エネルギー管理、シミュレーション分析などの技術の向上が主に必要になる。マイクログリッドの計画・設計の際に、運用コントロール策の影響を考慮する必要があることが多い。なぜなら、両者の間には高いカップリング性があるからだ」と説明する。

 マイクログリッドの計画・設計は主に、電力利用の経済性、信頼性、環境保護の面などの要求を満たすために、総合的なエネルギー利用、資源分布、現有のネットワークの状況などに基づいて、最適のシステム構築案を決定している。マイクログリッドの保護・制御を通して、システムの故障を迅速に識別し、各種分散型電源と協調して、システムの安全で安定した運用を保証することができる。

 一方で、マイクログリッドのエネルギー管理は、より高いレベルで、システム内の各装置の管理と制御を実現している。従来の電力網のエネルギー管理システムとの違いは、工学技術者が、マイクログリッド内部のデータをリアルタイムでモニタリングする必要があるほか、外部情報ともリアルタイムで照らし合わせて、合理的なマイクログリッド運用案を制定しなければならないことだ。マイクログリッドのプロジェクトを実際に実施する前は一般的に、実験・シミュレーションテストなどを詳しく行わなければならない。そのため、シミュレーション分析の精度と速度を高めることで、実際の装置の運用特性をより真に反映し、マイクログリッド建設に良好な実験の基礎を提供することができる。

辺境地域の電力利用をめぐる難題を解決

 マイクログリッドの登場により、辺境地域や海の島といった地域の「電力利用」をめぐる難題を解決できるようになっている。

 辺境地域は通常、面積が広く、人口が少ない。また、大規模電力網から離れていて、アクセスが不便であるため、従来の配電網の形式では往往にしてコストが高くなり、持続的な発展が難しい。しかし、辺境地域は再生可能エネルギーが豊富で、それほど多くの電力を必要としないため、マイクログリッド建設には有利な条件が揃っている。

 また、中国は海の島が多く、人口も少なく、全体的に電力使用量が少ない。また、大規模電力網と接続するためには、長距離にわたって送電網を建設しなければならない。さらに、大陸から遠く離れている島の場合、海底ケーブルも敷設しなければならないため、多額の資金を投じる必要があり、メンテナンスコストも高くなる。一方、海の島にマイクログリッドを建設すれば、豊富な風力エネルギーや太陽光エネルギーなどの資源を十分に活用することができ、送電網から離れている海の島の電力をめぐる問題を効果的に解決する方法となる。

 冀准教授は、「実際には、マイクログリッドは一部の都市にも非常に適している。都市は人口が多く、電力利用ニーズも高いため、電力システムのピーク時の調整や出力調整が際立つ問題となる。しかし、自家の屋根にソーラーパネルを設置し、エネルギー貯蔵装置も設置することで、ユーザーレベルのマイクログリッドシステムを建設することができる。そうすることで、電力を自家で利用し、余った電力を送電網に送電して、電力システムのピーク調整・周波数調整を行うことができる」と説明する。

今後発展の余地が大きいマイクログリッド

 中国はここ数年、マイクログリッド業界の発展を支援する複数の政策を打ち出して、マイクログリッドプロジェクト・建設の推進に力を入れてきた。

 中国には現在、200以上の完成したマイクログリッドプロジェクトがある。また、理論研究、実験室建設、モデルプロジェクト建設などの面で一連の成果が挙がっている。例えば江蘇省塩城市大豊区の風力発電海水淡水化マイクログリッドプロジェクトでは、世界初の大規模風力発電機から孤島に直接電力を供給する運用・制御システムが研究開発され、既に応用されている。また、天津のエコシティのマイクログリッドプロジェクトでは、「エネルギー消費ゼロ」を実現し、発電量と利用量のバランスが年間を通して取られている。

 このほか、中国の分散型発電ユニットの数が年々増加しており、マイクログリッド市場が大きく成長している。そして、今後も市場が持続的に拡大し、その発展の余地が大きいと予測されている。

 冀准教授は、「電力網体系全体において、マイクログリッドは、『中継ぎ役』となり、分散型電源と電力網を結び合わせる効果的な方法となるほか、一部の地域では、独立して電力を供給する重要なルートともなる。マイクログリッドは、スマートグリッドの雛形で、それを建設することで、配電力網の最適化・調整を簡素化し、システムの局部的なエネルギーの最適化を実現し、分散型電源の浸透率を大幅に高めることができる。また、マイクログリッドは、独立して運用することもできるため、大規模電力網で故障が起きた場合、重要な負荷に電力を供給し続けることができ、より安全で信頼性の高い電力供給を提供する」と説明する。

 膨大な数で、形式も多様化している分散型電源の接続・運用をめぐる問題を解決するのがマイクログリッド技術だ。新エネルギー構築という面で、マイクログリッドは、その利用率を大幅に高め、太陽光発電や風力発電といった新エネルギーの発展の応用プラットフォームを提供し、電力システムの新エネルギー利用と制御能力を高め、再生可能エネルギーの変動の影響を小さくし、再生可能エネルギーを最適化した利用と電力網のピークカット・ピークシフトに役立ち、クリーンで、効果的な新エネルギーが産業的優位性を発揮できるよう促進し、市場を拡大し、エネルギー構造のモデル転換を推し進め、「ダブルカーボン」の目標達成を加速させると期待されている。


※本稿は、科技日報「微電網:為実現"双炭"目標発揮"微"力」(2022年12月6日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。