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【23-17】「発電せずに管理する」仮想発電所

張 曄(科技日報記者) 2023年04月19日

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(画像提供:視覚中国)

 ここ数年、新型電力システムの建設推進に伴い、電力生産や需要のランダム性がさらに高まっている。最近登場した仮想発電所(VPP)は、新エネルギー電力の極めて大きな変動性を最大限抑制して安定させ、新エネルギーの利用率を高め、従来の電力システムにおける発電所間や供給・需要間の物理的境界を打破するものとなっている。

 中国国家電網傘下の国網上海市電力公司経済技術研究院が筆頭となって申請した「仮想発電所資源配置・評価技術規範」がこのほど、中国国家標準化管理委員会によってプロジェクト立案を承認された。これは、仮想発電所分野における中国初の国家標準関連プロジェクトが立ち上がったことを意味している。

 フレキシブルなエネルギーリソース需給問題の解決は、新型電力システム構築の際に攻略しなければならない難題となっており、仮想発電所は同システム構築の重要な足掛かりであり、典型的な実践でもある。その関連標準を定め、打ち出すことで、仮想発電所構築が現在直面する多くの問題において、綱領性のある指導的役割を果たすことになる。

フレキシブルなピークカット・シフトが実現可能に

 2022年8月、米電気自動車(EV)メーカーのテスラは、電力不足が最も深刻なカリフォルニア州で、「仮想発電所」を通じて州内各地に散在している同社ユーザーの家庭用蓄電池「パワーウォール」(PowerWall)に蓄えられている電気を、最も電力が不足している場所に送る試みを行い、約2300人が参加した。分散している「パワーウォール」から供給された電力量は最大16メガワット(MW)に達した。

 これは多方面が恩恵を受ける試みで、ユーザーは余った電気を供給して、1キロワット(kW)当たり2ドル(1ドル=約134円)の利益を上げることができる。また、仮想発電所を活用することで、電気使用量のピーク時間帯に電力網にかかる大きな負担を緩和することができる。

 国網江蘇省電力有限公司電力科学研究院の新エネルギー技術室で主管を務める汪成根博士は「仮想発電所とは文字通り、仮想空間の発電所で、実際に発電するわけではないが、発電所のような機能を発揮する仕組みを指す。実際はエネルギー管理システムと言える」と説明する。

 従来の電力網は何十年も安定して運営され、整備されたコントロール体系が出来上がっている。では、なぜそれとは別に、仮想発電所を作らなければならないのだろうか?

 従来の電力システムにおいて、電力網は需要側の電力需要に基づいて供給側の発電を調整している。そして、供給側である発電所のほとんどは、発電量が膨大な大型火力発電所となっている。

 汪博士は科技日報の取材に対し、「ここ数年、新型電力システムの構築推進に伴い、供給側の発電量、需要側の電力需要ともに、ますますランダム性が高まっており、電力供給確保やシステムの経済的かつ効率的な運営が非常に難しくなっている」との見方を示した。

 具体的には、供給側ではここ数年、「二酸化炭素(CO2)排出量ピークアウトとカーボンニュートラル」という二つの目標が掲げられ、エネルギーシフトが進められているのを背景に、風力発電や太陽光発電がエネルギー構造に占める割合が高まり続けている。しかし、天候に左右されやすい新エネルギーには「不規則で途切れることがあり、不安定」という特徴がある。一方、需要側では、エアコンの大規模普及を始めとした末端ユーザーの電化水準が高まり続けており、充電ポールなど電力負荷の大きい新型設備も次々と登場し、使用電気量の予測がさらに難しくなっている。

 仮想発電所は、新エネルギー電力の極めて大きな変動性を最大限抑制して安定させ、新エネルギーの利用率を高め、従来の電力システムにおける発電所間や供給・需要間の物理的境界を打破するものとなっている。

 仮想発電所は、相対的に分散している発電源、電力網、負荷設備、エネルギー貯蔵設備などを集中的にコントロールすることで、それらの一体化を実現している。それは、コントロール可能な発電源に匹敵し、システムに電力を供給することもできれば、システムに蓄えられている電力を逆潮流させ、フレキシブルなピークカット・ピークシフトを実現することもできる。

グリーンエネルギーの逆潮流をめぐる難題を解決

 新エネルギー発電産業が急成長し、次世代燃料対応型のガソリンスタンドやエネルギー貯蔵設備、電気自動車の充電ポール、インテリジェントビル、CCHP(温熱、冷熱、電気を同時に利用するコージェネレーション)といった大量の多機能フレキシビリティ負荷設備が電力網に接続されている。そのため、既存のエネルギーリソースをいかにフレキシブルに調整し、電気供給の信頼性と経済性、新エネルギーの利用率を高めるかが、電力網が直面する重要な課題の一つとなっている。

 汪博士は「『CO2排出量ピークアウトとカーボンニュートラル』を目指す取り組みの推進に伴い、今後は新型電力システムが発展するとみられており、再生可能エネルギーや分散型発電の開発・利用が、これまで以上に重視される。そして、従来の『電源を負荷に基づいて調整する』という運営スタイルを『電源と負荷設備が連動する』スタイルへと切り替えなければならない。仮想発電所は、エネルギーサービスを向上させ、分散型エネルギーの状況対応型分配、柔軟なポテンシャル発掘、リアルタイム調整・コントロールを実現し、電力市場の取引に効果的に参入することができる。そして、多様化する電力需要に対応し、クリーンエネルギーの逆潮流をめぐる難題の解決やグリーンエネルギーへのシフトといった面で重要な役割を果たすことができる」と語った。

 国網江蘇省電力有限公司電力科学研究院自動化技術室の易文飛博士は、「仮想発電所が電力網の安全で安定した運営を下支えするだけでなく、電力への資金投入を見合わせたり、節約することにもつながる。国網能源研究院(国網エネルギー研究院)の予測では、楽観的な境界条件下で、中国の需要側エネルギーリソースに関する技術の開発ポテンシャルは、2025年に最大負荷の約9%に達すると見られている。仮想発電所を通じて、調整・利用が難しい小規模エネルギーリソースを集約し、システムの運営・調整に組み入れられれば、電力システムのフレキシビリティを効果的に高めることができる」との見解を示した。

 易博士はさらに「従来の電力システムだけに頼って、数が多く広範囲になっている分散型エネルギーリソースを直接調整・管理するのは、コストが非常に高く、至難である。分散型エネルギーリソースがエネルギー供給に占める割合が一定程度に達すると、電力システムの安定した運営に極めて大きな不確定要素をもたらしてしまう。仮想発電所の発展は、小規模エネルギーリソースの集中管理に焦点を合わせ、システムの調整とユーザーの間を橋渡しする『中間管理職』となり、分散型の太陽光発電やユーザー側のエネルギー貯蔵設備、調整可能な負荷設備といった各種エネルギーリソースが、システム運営や市場取引で役割を果たせるようにするべきだ」と指摘した。

勢いよく発展しつつある中国の仮想発電所

 世界初の仮想発電所プロジェクトは2000年に誕生した。ドイツやオランダ、スペインを含む5カ国11社が共同で立ち上げたプロジェクト「virtual fuel cell power plant(VFCPP)」だ。

 中国の仮想発電所構築はここ数年、戦略的発展段階に入りつつある。2017年5月24日、世界初の大規模「発電源・電力網・負荷設備連動システム」が江蘇省で稼働した。それは、中国が世界で最大容量の仮想発電所を有するようになったことを意味する。

 2021年以降、中国のエネルギー計画や低炭素シフト、CO2排出量ピークアウト行動計画、新型エネルギー貯蔵指導意見などの政策において、電力システム調整や電力補助サービス、市場の現物取引などに仮想発電所が参入することを支持する姿勢が明確に示されている。また、北京市や内モンゴル自治区、河南省などの地域で、仮想発電所が「第14次五カ年計画(2021~25年)」のエネルギー発展計画に組み込まれた。

 汪博士は「中国の仮想発電所構築はスタートが遅かったため、依然として初期段階にある。仮想発電所の発展は、要請型、市場型、自由調整型の3段階に分けることができる。現時点で、中国の仮想発電所はまだ要請型から市場型への移行段階にあり、主に政府機関や電力調整機関の要請を受け、アグリゲーターや仮想発電所がエネルギーリソースを束ねて、ピークカットやピークシフトといったニーズに対応している」と説明する。

 易博士は「仮想発電所は、エネルギーのデジタル化、需要側エネルギーリソースの開発・利用など、一連のエネルギー電力システムにとって今後高い価値を持つ発展の方向性を表している。しかし、一部には、従来の省エネ目的の修正といった技術集約度の低い業務を、仮想発電所を活用したように装うサービス事業者もいる」と指摘する。

 易博士はさらに「仮想発電所の健全な発展をめぐる、一部のマクロ視点での問題は依然として解決されていない」と強調。「第一に、仮想発電所の概念が示す意味や機能形態にはまだ、権威のある統一された認識がない。例を挙げると、政産学研(政府・企業・大学・研究機関)がそれぞれの専門的観点や立場から仮想発電所を解釈している。第二に、仮想発電所が電力網の調整・取引に参加する際の責任・権利の境界が不明確だ。中国国家発展管理委員会などの機関は、関連文書を打ち出し、仮想発電所をサービス市場主体やグリッド接続調整主体をサポートするものと定めている。しかし、この文書の中で、仮想発電所の権利や責任は明確化されていない。電力網企業も、仮想発電所の詳細を説明する文書を発表していない。それらが原因となり、投資者、運営事業者、電力網企業は、仮想発電所の発展に対し、積極的に資金投入をできずにいる。第三に、仮想発電所の技術標準体系が整備されておらず、その構築のための統一された基準も不十分だ。市場主体のデータ共有にも障壁が存在するため、仮想発電所の運営コストが高くなり、情報セキュリティリスクが存在している。また、仮想発電所のグリッド接続・調整標準、ルールが不明確であるため、そのグリッド接続・調整が難しくなっている」と説明した。

 解決すべき問題は山積みであるが、仮想発電所は中国の市場において非常に大きなポテンシャルを秘めている。そして、国や各省・直轄市も仮想発電所を作るための方法を積極的に模索している。中国初の国家レベル標準関連プロジェクトが立ち上がったことで、仮想発電所は健全かつ秩序ある方向へと発展しつつある。


※本稿は、科技日報「虚擬電廠:不生産電,但管理電」(2023年2月15日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。