科学技術
トップ  > コラム&リポート 科学技術 >  File No.23-28

【23-28】北京市の大気汚染対策、長く困難な道のり

李 禾(科技日報記者) 2023年06月23日

 4月25日、北京市はさらなる砂嵐に見舞われた。「中国気象災害年鑑(2020)」によると、ここ20年近く、3月と4月の2カ月間に砂嵐が発生した回数は平均7.8回となっている。今年は4月が終わらないうちにその平均値を上回った。

 中国生態環境部(省)が発表した統計によると、2013~22年の10年間、中国の国内総生産(GDP)が69%成長したのに対し、微小粒子状物質PM2.5濃度は57%減少し、10年連続の減少となった。中国全土の二酸化硫黄と窒素酸化物の放出量はそれぞれ85%減と60%減となり、「深刻な大気汚染」の日数は92%減少した。しかし、砂嵐が依然として繰り返し発生していることは、大気汚染対策が複雑かつ困難で長期的な取り組みであることを示している。中国の大気汚染対策はどんな課題に直面し、どのように対応しなければならないのだろうか?

「グリーンエネルギーを増やし石炭を減らす」大気質改善措置

 同部大気環境司の劉炳江司長は「エネルギー分野の構造最適化と調整、既存産業の構造最適化と調整、交通分野のグリーンモデル転換の推進、重点業界の超低濃度排出といった対策事業に加え、都市管理レベルの向上などの取り組みが功を奏して、10年連続でPM2.5濃度が減少した」と説明した。

 統計によると、過去10年間、中国のエネルギー消費量は年平均3.3%のペースで増加し、年平均6.5%のGDP成長を支えた。22年のエネルギー消費量が13年比22.9%増だったのに対し、石炭消費量はわずか4%の増加だった。石炭ボイラー数は52万台から10万台未満へと減り、農村3500万世帯分の低品質石炭が処理され、多くの低効率火力発電施設や炉の燃料が、石炭からガス・電気へと変わり、合計で石炭消費量約5億トン、二酸化炭素排出量10億トンを削減した。

 劉氏は「エネルギー分野の構造最適化と調整は、大気質の改善を推進する最も重要な措置だ。10年近くにわたり、エネルギーの発展は『グリーンエネルギーを増やし石炭を減らす』という典型的な特徴となり、排出量の増加を抑制するという以前のやり方から、削減に重点を置く段階に移った」と説明した。

 22年末までに、中国では旧式の生産能力と過剰生産能力を整理した。合わせて鉄鋼約3億トン、石炭10億トン、セメント3億トン、フロートガラス1.5億換算箱に相当する。鉄鋼企業の数は約20%減少し、そして「散乱汚」企業(産業政策・産業配置計画に適合しない、違法な建設や生産・経営を行っている、汚染物質排出基準に達しない企業)6万2000社を淘汰した。

 劉氏は「産業構造の調整も大気質の改善を推進する重要な措置だ」と説明した。

 テクノロジーは、大気汚染対策の重要な支えとなる。劉氏は「科学研究者2000人以上による共同研究開発により、北京市・天津市・河北省と周辺地域の深刻な大気汚染の原因や拡散の法則性、消失メカニズムがすでに解明されており、『宇宙・地上一体化』モニタリングネットワークが構築され、より的確で理に適った方法によって深刻な大気汚染にも対応できるようになっている」と述べた。

「大気質」改善に立ちはだかる二つの問題

 生態環境部が発表した3月の大気質データによると、中国の地級市(省と県の中間にある行政単位)以上の都市339市の大気質が「優良」だった日数の割合は83.2%で、前年同月比4ポイント下落した。「深刻」以上の汚染だった日数の割合は2.6%で、1.3ポイント上昇した。平均濃度はPM2.5が前年同月比12.5%増、PM10が18%増、オゾンが8.3%増、窒素酸化物13%増だった。二酸化硫黄と一酸化炭素の平均濃度は前年同月比で横ばいだった。

 劉氏は「中国は今年、気象条件が相対的に悪い上に、汚染物質の排出量が大幅に増加しているという二重の圧力に直面しており、大気質の改善状況は非常に厳しい。大気質の各指標が低い原因は、排出量増加と気象条件の2つにほかならない」と強調した。

 現在、鉄鋼や非鉄金属、コークスといった、エネルギー消費量と汚染物質排出量が多い製品の生産量が増えており、それにより汚染物質排出量も増加している。一部の地域は、経済成長を追求するために、エネルギー消費量と汚染物質排出量が多いプロジェクトを実施している。また、一部企業は経済的利益を求めるために、法律・法規に違反した排出を行っている。今年2月、生態環境部は河南省と陝西省の企業13社を対象に抜き打ち検査を実施し、汚染対策設備の不正稼働や違法排出、生産記録の改ざん、モニタリングの偽装といった大量の違法行為を発見した。

 劉氏は「企業の環境関連の違法行為が頻発し、現在の大気汚染対策の弱点が露呈している」と指摘した。

 砂嵐の大気質に対する影響は大きい。北京を例にすると、3月のPM10濃度に対する砂嵐の影響度は約4分の1、第1四半期(1~3月)の影響度は15%近くだった。

的確な監督管理にテクノロジーを提供するビッグデータ

 劉氏は「排出量増加と不利な気象条件という問題が重なった今年、われわれができるのは、プロジェクトの排出削減と企業の排出基準を通じて汚染物質排出量を減らし、これらの問題の影響を減らすことだ。エネルギー消費量と汚染物質排出量が多いプロジェクトの増加を抑制し、環境関連の違法行為を一切容認しない姿勢で、法律に基づいて取り締まり、市場の公平性と競争の公正性を促していく」と語った。

 都市の粉塵は、大気中のPM2.5やPM10の主な発生源となる。北京市生態環境局大気環境処の李翔処長は「北京市はテクノロジーを活用して、市全体で統一した粉塵動画監視プラットフォームにより、可視化、スマート化した監督・管理を実施し、一定規模以上のプロジェクト全てに監視カメラ、プラットフォームを設置し、それによる巡回監視を強化している」と説明した。

 統計によると、2022年、北京市では粉塵に対する非現場巡回検査が13万回以上行われた。1日当たりの巡回検査回数は350回以上で、改善指示は3700回以上に上った。

 ビッグデータなどの技術が的確な監督管理を後押ししている。李氏は「粉塵のAI動画識別や大型ディーゼル車のオンライン監視、道路粉塵負荷走行モニタリングなどのテクノロジー手段が、粉塵の監督管理で存在感を発揮し、衛星が上空から撮影し、走行モニタリングにより地上をパトロールし、AIが高精度で識別するなど、テクノロジーが監督管理をサポートし、大気汚染のクローズド・ループ管理を推進している」と説明した。


※本稿は、科技日報「以更多的减排量应对不利影响」(2023年4月28日付5面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。