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【23-38】電力網の故障を声紋で速やかに識別

呉長鋒(科技日報記者) 2023年08月03日

 中国安徽省合肥ハイテク産業開発区のAI産業集積地「中国声谷(スピーチ・バレー)」でこのほど、特別な音声認識分野のコンテストが開催された。中国の省級電力会社26社から来た電力網アルゴリズムの達人が「電力設備の音声解読」をテーマにしたコンテストに参加。声紋技術を活用し、いかに電力網設備の運営状況をチェックするかについて腕を競い合った。主催者がコンテストを開催したのは、識別精度と効率が最も高い、優れたアルゴリズムを見つけ出すことが目的だった。

 コンテストのワーキンググループメンバーで、国網安徽電力職員の黄偉民氏はコンテストの目的について「安徽省の電力網は『西電東送』(西部地域で発電した電気を東部地域に送電すること)の『大動脈』で、われわれは声紋技術を活用して、電力網のモニタリング能力を改善し、電力供給の信頼性を高め、電力ユーザーである住民と企業に『新しい保険』を提供している」と説明した。

 国網安徽電力科学研究院の職員、楊海濤氏は「私は電力設備の仕事をして10数年になる。電力設備は冷たい機械ではなく、人間と同じようなぬくもりや反応がある。ベテランの中医学医師の聴診と同じように、経験豊富な技術者は設備の稼働音を聞くと、内部の調子の良し悪しが分かる。われわれが今やっている仕事は、設備1台1台に『24時間待機のベテランの中医学医師』を配置しているようなものだ。フロントエンドのマイクセンサーを通して、設備の音を途切れることなくモニタリングし、バックエンドのデータ分析センターを通じて、速やかにその詳しい検査報告を作成することで、設備診断の全プロセス自動化を実現している」と語った。

 楊氏によると、安全で効率的な新型電力システムを構築するためには、カギとなる電力設備の全面的なモニタリングを実現しなければならない。声紋識別は非接触型で、感度が高い感知手段として明らかな優位性を持つという。

 電力網設備の大半は、高電圧や強磁場といった環境下で運営されている。超高圧変電所内の設備数は1000台以上で、各種設備の音波が一つの空間に伝わっている。電波間の複雑な結合関係を考慮する必要があるほか、風や雨などの音も混ざり、そのような音の中から、設備から出ている実際の音を探し出すためには、専門的技術が必要となる。

 声紋技術の責任者で、国網安徽電力科学研究院職員の張晨晨氏は「われわれが独自開発した電力網ブロードバンド声紋センサーは、感度、指向性、再現性、周波数レスポンスといった指標が第三者の検査をクリアし、現場での応用基準を満たしている。当社のサンプルバンクには、1万件以上の故障サンプルが集められており、マシンラーニングを通じて、アルゴリズムモデルが十分トレーニングされている。トレーニングのプロセスは、海で針を探すようなものだが、トレーニングをすればするほどレベルが上がる。現在、その分析速度はミリ秒レベル、精度は90%に達している」と紹介した。

 張氏はさらに「声紋技術の急速な発展に伴い、声紋に基づいた調整指令識別や電力線検査、ケーブルトレンチの点検、設備の状態評価など関連分野にも応用されており、電力網の生産・運営において広がりつつある」と述べた。

 国網安徽声紋モニタリング早期警報分析センターでは、職員の胡嘯宇氏が省全域における声紋モニタリングデータの分析を行っていた。このプラットホームには、設備約100台の声紋データが集められており、職員は同センターから出ることなく、発電所設備の各レベルの音を巡回検査することができる。システムがデータの異常を発見すると、故障している部分を一つずつ正確に洗い出すことができる。

 安徽省馬鞍山市雨山区の220キロボルト(kV)劉村変電所では、巡回検査作業員の汪隆臻氏が、慣れた手つきでドローンを操作し、検査を行っていた。このドローンには、360度の声紋コンポーネントが搭載されており、遠く離れていても変電所の絶縁体の局部放電を識別することができる。

 汪氏は「声紋ドローンが巡回検査をサポートしてくれるおかげで、電力設備の運営状態についてより自信を持つようになった」と語った。

 中国の電力関連声紋分野に関する専門シンポジウムがこのほど、合肥ハイテク産業開発区の中国声谷で開催された。科大訊飛エネルギー業務担当の李心総経理は「声紋技術の研究に参加する企業、専門家が増え続けており、声紋技術を電力網や工業分野全体で応用することに非常に期待している。最初の声紋技術を電力網設備のモニタリングに応用してからわずか5年間に、声紋識別分野に従事する企業が100社近くも登場した。競争力の強い代表的商品は数十種類に上る」と説明した。

 張氏は「ニーズは往々にして電力網生産の最前線で発生する。そして、技術の大半は大学や科学研究機関から出てくる。そのため、国網安徽電力科学研究院は、華北電力大学や中国電力科学研究院と産学研用(産業、大学、研究機関、ユーザー)チームを立ち上げ、イノベーションチェーン全体をカバーしている」と述べた。


※本稿は、科技日報「声纹识别技术快速识别电网故障」(2023年6月13日付5面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。