科学技術
トップ  > コラム&リポート 科学技術 >  File No.23-51

【23-51】二酸化炭素を地中に埋め、さらに多くの石油を産出

操秀英(科技日報記者) 2023年09月25日

image

画像は吉林油田カーボンニュートラルモデルエリア。(撮影:丁磊)

二酸化炭素回収・貯留技術の発展

 中国吉林省でこのほど、吉林油田二酸化炭素開発公司の黒71・黒72ブロックの本体工事が完了した。また、黒79北-58ブロックの地上工事も着々と進められている。これら3ブロックは、吉林油田CCUS(二酸化炭素回収、有効利用、貯留)100万トン二酸化炭素排出削減油田開発モデルエリア第1期工事におけるメイン採掘エリアで、すべての稼働が始まると、2025年には年間138万トンの二酸化炭素が注入されるようになる。

 CCUSの手法の一つである、EOR(石油増進回収)は現在、最も効果的で実行可能な二酸化炭素排出削減技術とされている。吉林油田のシニアエンジニア、張輝氏によると、吉林油田は30年以上にわたり、石油が埋蔵された陸相のCCUS-EOR産業チェーン全体をカバーする関連技術を確立し、中国初の完全な産業チェーンとプロセスを持つCCUS-EORモデルプロジェクトを構築した。世界で稼働している大型CCUSプロジェクト21件のうち、中国で実施されているのは同プロジェクトだけで、アジア最大のEORプロジェクトでもある。カバーする埋蔵量は1183万トン、石油年間生産量は10万トン、二酸化炭素貯留能力は年間35万トンで、これまでに貯留した二酸化炭素は累計で225万トンに達している。

二酸化炭素の大規模回収、輸送、注入の全プロセスが実現

 中国内外の石油会社は数十年前から、CCUS-EOR技術を次々と模索してきた。

 例えば、中国石油(CNPC)は1960年代からその模索を始め、国家級CCUS-EOR重要テクノロジー研究開発プロジェクトやモデルプロジェクトを率先して担ってきた。そして、石油が埋蔵する陸相のCCUS-EOR産業チェーン全体をカバーする一連の技術基準を確立し、CCUS-EOR産業チェーン全体の発展を支える技術的需要を満たしている。2005年には、CCUS-EOR一体化の概念を打ち出した。

 同社は2006年から院士(アカデミー会員)の専門家が筆頭となり、科学研究院(所)と油田が連携する研究チームを立ち上げ、国家重要テクノロジー特別プロジェクトやモデルプロジェクトといった一連の科学研究プロジェクトを担当。最初は吉林油田を試験拠点とし、後に大慶油田、長慶油田、新疆油田へと拡大して体系的な研究開発を通じて、陸相に埋蔵する石油を増進回収し、二酸化炭素を地中に貯留する産業チェーン技術体系を構築した。

 吉林油田がCCUS技術の研究開発を始めたのは、17年前の長嶺ガス田の発見がきっかけだった。

 最初の調査で、長嶺ガス田に含まれる二酸化炭素の含有量が20%を超えることが分かった。天然ガスを生産するためには二酸化炭素を除去しなければならないため、二酸化炭素の回収と排出が、吉林油田にとって不可欠な任務となった。持続可能な開発という使命を背負う吉林油田は、二酸化炭素を油層に圧入する原油増進回収法技術の研究開発に注力し、中国で初めて二酸化炭素を回収・貯留し、採取率を高める専門企業を設立した。

 吉林油田は、先導・拡大試験、産業化発展という2つの段階を経て、国内で先駆けて、二酸化炭素の大規模回収、輸送、注入の全プロセスを実践し、低浸透性の陸相に埋蔵する石油を増進回収し、二酸化炭素を貯留する方法を体系的に解明した。石油の採取率を高め、二酸化炭素を効率よく貯留することの高い潜在能力を認識し、二酸化炭素のほぼゼロ排出を実現し、CCUS-EORを活用してグリーン低炭素開発を実施し、大規模な排出削減を実現する見通しを示している。

複数の重要技術で「増産+二酸化炭素排出削減」を実現

 吉林大情字井油田CCUS-EOR先導・拡大試験エリアの石油生産量は年間約20万トン、貯留される二酸化炭素量は50万トンに達している。増油量は累計37万トン、回収可能な埋蔵量(Economic Ultimate Recovery)は134万トン増え、先導試験としての簡易的な注入、採取から、拡大試験としての体系的な増進回収、二酸化炭素貯留への飛躍を実現している。

技術開発の難関攻略が驚くべきデータを実現

 吉林油田は、石油を増進回収し、二酸化炭素を地中に貯留するコストを低減させるべく、超臨界二酸化炭素用圧縮機による注入技術の開発に成功した。これは、回収した二酸化炭素を圧縮機で増圧し、超臨界状態にして地下に直接注入する方法だ。油井の注入口に関する工法を最適化し、圧力制御掘削技術を採用してその形を定めた。また、SOR(Steam Oil Ratio:水蒸気油比)が高く、低コストのギャザリング処理技術研究が実施され、効率的で安定した運営に悪影響を及ぼす難題の解決に成功した。

 2022年、中国石油と化学工業連合会が共同で開催したテクノロジー成果鑑定会合では「吉林油田のCCUS技術成果は、低浸透性の陸相に埋蔵する石油を増進回収し、二酸化炭素を地中に貯留する面で、世界トップレベルに達した」と評価された。

 統計によると、吉林油田に建設されたCCUSモデルエリアでは、一度に貯留できる二酸化炭素量は206万トン、貯留率は91.6%に達し、循環リサイクルを通して、全ての二酸化炭素の貯留を実現している。吉林油田の二酸化炭素開発公司の呉魚鋒副経理は、「吉林油田ではCCUSプロジェクトが30年以上実施され、注入された二酸化炭素は累計284万トンに達している。約2556万本の植樹に相当し、原油採取率を25%以上高めている」と説明した。

 吉林油田では現在、CCUS-EORの全プロセス技術の適応性検証が終わり、液体、気体、超臨界の状態で二酸化炭素輸送技術の研究・実践を行い、タンクローリーで輸送して注入する方法から、パイプラインを使って超臨界にした状態で工業化注入する方法への飛躍的発展が実現している。今後は、巨大なポテンシャルを秘めた新型産業チェーン、バリューチェーン、産業クラスターが次第に形成され、化石エネルギー企業のグリーン・低炭素で持続可能な開発を効果的に支え、カーボンニュートラルと二酸化炭素排出量ピークアウトという目標達成のために、重要な貢献をすると期待されている。

中国のCCUS-EORは見通しが明るい

 吉林油田の第1期では「百万トン貯留級」のCCUS+工業化応用プロジェクトが順調に進められている。2025年には、吉林石化と吉林油田を繋ぐ二酸化炭素輸送パイプラインの稼働が始まり、二酸化炭素の回収・注入量は年間100万トンを超える見込みだ。

 中国工程院院士である袁士義氏のデータによると、石油を増進回収し、二酸化炭素を地中に貯留するのに適した土地の埋蔵量が中国全体で約140億トンとなっており、原油の採取率を15%高め、採取量を21億トン増やすことができる。貯留される二酸化炭素量は約60億トンで、そのポテンシャルは巨大で、化石エネルギーの低炭素利用を効果的に支えることができる。

 袁氏は「中国はカーボンニュートラルと二酸化炭素排出量ピークアウトという目標を掲げており、その追い風となる政策の推進により、CCUS-EOR産業は急速かつ大規模に発展する段階に入るだろう。2030年には中国のCCUS-EOR産業の二酸化炭素貯留規模が年間3000万トンに、石油生産量が年間1000万トンに達するだろう。これは遼河油田の生産量に相当するとともに、大型石油化学企業20社余りの年間二酸化炭素排出量を相殺するのに相当する。また、2050年になると、二酸化炭素圧入による貯留と帯水層貯留が連携して発展し、二酸化炭素貯留規模が年間1億トンに達し、カーボンニュートラル目標の達成に重要な貢献をするとともに、1千万トン級の大型CCUS産業化拠点と産業クラスターが複数形成され、関連経済規模は1兆元(1元=約20円)レベルに達するだろう」と述べた。

袁氏はさらに「中国のCCUS-EOR鉱山試験は現在、重要な進展を遂げ、工業化モデル、大規模産業応用の段階に突入しているが、二酸化炭素の回収/輸送のコストが高く、石油を増進回収し、二酸化炭素を地中に貯留する効率が低いという課題も依然として残っている。今後も技術革新を強化し、CCUSの大規模で効果的な応用を支え、けん引する必要がある」と分析した。


※本稿は、科技日報「埋下二氧化碳 "挤"出更多石油」(2023年8月22日付8面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。