【23-55】中国で国産産業用ソフトウェアの「強化」と「普及」をどう進めるのか
張 曄(科技日報記者) 2023年10月17日
江鈴集団新能源汽車有限公司工程研究院で、工業デザインソフトウェアを使って衝突シミュレーションのモデリングと設計の最適化を行う衝突安全エンジニアの曽祥雷氏。
「2023年中国産業用ソフトウェア産業発展研究報告」が8月21日に発表となった。報告によると、中国の産業用ソフトウェア産業には大きな発展のチャンスがあり、新たな技術や業態が育ちつつある。しかし同時に、中国の産業用ソフトウェア産業の発展は、技術基盤が弱く、製品のシステム化発展が不十分で、需要と供給の融合度が低く、産業発展の環境が整っていないなどの問題にも直面している。
細分化された分野で課題が存在
新たな科学技術革命と産業の変革の進展に伴い、産業用ソフトウェアは、産業技術と知識のプログラムパッケージとして、ほぼ全ての産業分野の中核部分で幅広く応用されている。
2022年、中国の産業用ソフトウェア製品の売上高は前年比14.3%増の2407億元(1元=約21円)に達し、世界全体の成長率を上回った。23年上半期の産業用ソフトウェア製品の売上高は前年同期比12.8%増の1247億元で、良好な発展の勢いを示した。22年には北京華大九天科技股份有限公司や杭州広立微電子股份有限公司など産業用ソフトウェア企業11社が上場を果たした。計170近くの機関と投資者が産業用ソフトウェアに参入している。
「全般的に見て、中国の産業用ソフトウェアの基礎は依然弱く、重要中核技術のボトルネックは根本的に解決されず、企業の規模が小さく、産業として弱いという特徴は依然顕著であり、産業チェーンとサプライチェーンの強靭性と安全性を高めることが急務だ」と工業・情報化部(省)発展司の王威偉副司長は語る。
工業・情報化部電子第五研究所の王蘊輝副所長によると、中国の産業用ソフトウェアは一定の成果を上げているものの、細分化された分野では引き続きある程度の課題が存在する。このうち研究開発(R&D)デザイン系ソフトウェアはコア技術の差が大きく、技術導入の推進段階と市場育成の成長期にあり、国産ソフトウェアの市場シェアは10%未満となっている。生産・製造系ソフトウェアは、先端制御分野では海外製品が絶対的優位性を持っており、中国製品はミドル・ローエンド市場に集中している。また、経営管理および運営・メンテナンスサービス系では国産ソフトウェアの市場シェアが相対的に高い。
優れたソフトウェアは実際に使われて良くなる
現在、中国の産業用ソフトウェア産業の発展はチャンスと課題が共存している。ここ数年、国は産業用ソフトウェアの開発を重視し、「『第14次五カ年計画』(2021-25年)ソフトウェアおよび情報技術サービス業発展計画」などの政策文書を発表し、産業用ソフトウェアの発展を推進し続けてきた。江蘇省の「智転数改」(スマートトランスフォーメーション・デジタル改革)、上海市の「工賦上海」(産業のインターネットによる上海の活性化)、および広東省の「制造業当家」(製造業を第一とする)など、地方政府は製造業のデジタルトランスフォーメーションに関する政策を相次いで打ち出し、産業用ソフトウェアの発展を政策面から支援している。
また、工業大国である中国は産業用ソフトウェアの応用シーンを豊富に持つ。45カ所の国家レベル先進的製造業クラスター、58.6%という重点工業企業の重要ツールのデジタル化率、77%というデジタル化研究開発(R&D)・デザインツールの普及率は、いずれも産業用ソフトウェアの発展に肥沃な土壌を提供している。人工知能(AI)やビッグデータなど新世代の情報技術の急速な発展は、産業用ソフトウェアの発展に新たな原動力を与えている。
「報告」では、中国の産業用ソフトウェアの発展は、基礎の構築、応用の促進、チェーンの強化という3つの面から着手し、需要が牽引する形で、体系的かつ協同的に発展させ、産業エコシステムチェーンに焦点を合わせ、産業用ソフトウェアの普及の道筋を明確化するとともに、応用エコシステムの育成を加速させ、国産ソフトウェアの応用シーンを開放すべきだと指摘している。
王氏は「応用は中国の産業用ソフトウェアの将来における発展の重要な中核的存在だ。産業エコシステムチェーンに焦点を合わせ、産業用ソフトウェアの普及の道筋を明確化する必要がある一方で、応用エコシステムの育成を加速させ、実際の応用シーンを開放する必要がある」と強調。「優れたソフトウェアは実際に使われて良くなる。特に産業用ソフトウェアは、応用シーンと連携しなければならない」と述べた。
※本稿は、科技日報「国产工业软件如何"强起来""推广开"」(2023年8月23日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。