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【23-56】汚染土壌から安全な食料を生産するための二つのアプローチ

馬愛平(科技日報記者) 2023年10月20日

 中国農業農村部(省)環境保護科学研究観測所重金属生態毒性・汚染修復イノベーションチームの研究により、土壌にカルシウムベースの改良バイオ炭を加え、カドミウム低蓄積性品種のトウモロコシを栽培することで、アルカリ性のカドミウム汚染土壌を効果的に回復させることがわかった。この研究はアルカリ性カドミウム汚染土壌の回復と、土壌の生態環境改善に理論的根拠を提供した。関連研究成果は学術誌「Soil & Tillage Research」に掲載された。

 シーケンシングの結果によると、カルシウムベースの改良バイオ炭が微生物群落の構造と組成を変えることが明らかになった。それは主に、生物種の数、多様度指数、優占種の相対的な種豊度の著しい増加・上昇となって現れた。この技術はアルカリ性カドミウム汚染土壌の安全な利用と、農業土壌のミクロ生物圏の環境改善において良好な応用のポテンシャルを備えている。

バイオ炭の表面を改良することで重金属吸着力が向上

 バイオ炭は炭素固定や土壌肥沃度の向上、汚染物の固定といった優位性を備えていることから、過去数十年間、さまざまな重金属汚染土壌の回復に幅広く利用されてきた。しかし、元のバイオ炭は高濃度純金属汚染物を回復させる能力に限界があった。

 論文の責任著者で、同観測所の孫約兵研究員は「多くの研究からわかるように、バイオ炭の表面を改良することで、その物理的・化学的特性と重金属に対する吸着力を最適化することができる。バイオ炭の表面の改良には水蒸気賦活や熱処理、酸性/アルカリ性の改良、金属塩または酸化物への浸漬など、さまざまな方法がある」と説明した。

 重金属のストレスに対する抵抗性と耐性に差があるため、作物の品種によっては、重金属の吸着力と蓄積能力に明らかな違いがみられる。

 孫約兵氏は「カドミウム低蓄積性品種のトウモロコシを選択し、改良剤を併用することで、作物の地表に出ている部分にカドミウムが蓄積したり遷移するのを効果的に減らすことができる。これでアルカリ性カドミウム汚染土壌におけるトウモロコシのカドミウム耐性を高められる可能性もある」と指摘した。

 重金属の土壌内の分布、遷移、生物学的利用率は、さまざまな土壌要因と密接に関連している。よく言及される土壌の酸性度(pH)、塩分濃度、有機物含有量、酸化還元電位などの要因のほか、土壌団粒も重金属の土壌の顆粒における分布に対して決定的な作用を及ぼすことがある。物理的・化学的特性によって、土壌団粒の各種顆粒の重金属に対する吸着力に差異が生じる可能性があることを、数多くの研究が示している。

 孫約兵氏は「団粒は土壌を構成する重要な要素で、土壌構造の基本単位でもある。重金属の土壌団粒における分布と遷移を理解すれば、重金属の含有量を科学的かつ効果的に調節するのに役立つ」と述べた。

アルカリ性カドミウム汚染農地の安全な利用に指針を提供

 土壌微生物は土壌の物理的・化学的特性を調節する主要因子であり、養分の循環、土壌の肥沃度の向上、炭素固定などの面で重要な役割を担っている。バイオ炭は極めて大きな比表面積と空隙容積を持ち、微生物に生息する場所と隠れる場所を提供できる。

 また、バイオ炭の有効な水溶性栄養素などが微生物の活性に影響を与え、土壌の微生物生息地の物理的・化学的特性を変える。これにより、土壌微生物群落の構造を変化させる可能性がある。これまでの研究で、バイオ炭を加えて土壌の養分含有量と有機二酸化炭素鉱物化を増やすことで、土壌の微生物の活性と群落の構造に明らかな変化が起きることがわかっている。

 論文の筆頭著者で同観測所博士課程生の孫彤氏は「今回の研究では、圃場試験を行い、ミクロの視点でカルシウムベースの改良バイオ炭とカドミウム低蓄積性品種のトウモロコシを組み合わせて管理することによる、土壌中のカドミウムの生物学的利用率、トウモロコシ穀粒の蓄積、微生物の生態機能の修復効果への影響を検討した。研究では、今後カルシウムベースの改良バイオ炭を土壌改良材として使用することが、アルカリ性カドミウム汚染耕地の回復と安全な利用に実用的な指針を提供すると結論付けた」と説明した。

 孫彤氏はまた「カルシウムベースの改良バイオ炭とカドミウム低蓄積性品種トウモロコシの組み合わせによる弱アルカリ性カドミウム汚染農地に対する回復効果を研究するために、土壌団粒におけるカドミウムの分布、トウモロコシ穀粒のカドミウム吸着、土壌の微生物群落の状況を検討した。その結果、カルシウムベースの改良バイオ炭による処理で、大規模な土壌と土壌団粒における有効なカドミウムが12.09%~16.20%、および3.67%~24.72%それぞれ減少したことがわかった。粒径組成への金属負荷と金属分布の因子分析により、カドミウムは土壌の微細粒子の組成に優先的に蓄積し、カルシウムベースの改良バイオ炭はカドミウムをミクロの団粒から大きな団粒へと再分配するのを促すこともわかった」と述べた。

 対照実験のコントロールグループとの比較では、カルシウムベースの改良バイオ炭を加えると、カドミウム低蓄積性品種トウモロコシの「農玉16」と「三北218」は穀粒の中のカドミウム含有量が37.55%~50.80%および23.60%~51.20%減少した。ハイスループットシーケンシングの結果、カルシウムベースの改良バイオ炭を加えると、カドミウム低蓄積性品種トウモロコシの「農玉16」と「三北218」の土壌微生物群落の構造と組成が大きく変化し、操作的分類単位(OTU)、α多様性指数、優勢(菌)門の相対豊度が大幅に上昇したことがわかった。

 孫約兵氏は「研究の結果、カルシウムベースの改良バイオ炭とカドミウム低蓄積性品種トウモロコシを共同管理することは、弱アルカリ性カドミウム汚染土壌の回復にとって効果的な方法であり、食料の品質安全性を保障し、土壌の生態環境の機能を改善する上でプラスになることがわかった」と述べた。


※本稿は、科技日報「双管齐下让污染土壤种出安全粮」(2023年8月22日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。