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【24-09】中国でDevRelレポート公開 日本語への翻訳も

2024年02月01日

高須 正和

高須 正和: 株式会社スイッチサイエンス Global Business Development/ニコ技深圳コミュニティ発起人

略歴

略歴:コミュニティ運営、事業開発、リサーチャーの3分野で活動している。中国最大のオープンソースアライアンス「開源社」唯一の国際メンバー。『ニコ技深センコミュニティ』『分解のススメ』などの発起人。MakerFaire 深セン(中国)、MakerFaire シンガポールなどの運営に携わる。現在、Maker向けツールの開発/販売をしている株式会社スイッチサイエンスや、深圳市大公坊创客基地iMakerbase,MakerNet深圳等で事業開発を行っている。著書に『プロトタイプシティ』(角川書店)『メイカーズのエコシステム』(インプレスR&D)、訳書に『ハードウェアハッカー』(技術評論社)など
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DevRelとは? 開発者がますますビジネスの中心に

 DevRel(Developer Relations)は、企業が開発者との連携を強化する戦略の一環だ。

 具体的な活動としては、開発者向けのコミュニティ構築や技術イベントの開催を通じて、双方向のコミュニケーションを促進していくことを指す。これにより、開発者は新しい技術やプラットフォームにアクセスしやすくなり、企業は開発者のフィードバックを受けて製品やサービスを改善できる。

 たとえばGoogleは、Google Developersというオンラインプラットフォーム、I/Oイベント、Google Developer Groupsを通じてDevRel活動を行い、世界中の開発者と直接対話し、技術情報の共有を行っている。こうした活動が、AndroidやAI技術などでイノベーションを生み出し、経済にも大きな影響を与えている。ビジネスの相手が開発者となったことで、マーケティングやPRなどと呼ばれていた活動がDevRelに統合されつつある。

「人口ボーナスからエンジニアボーナスへ」DevRelとビジネス

 DevRel活動はオープンな開発が多いWebやAI技術系の企業から始まっている。なので大企業の多くがB to B  開発を中心にしている日本では一部でのムーブメントにすぎず、中国ではさらに下火といえたが、ここ1~2年は新しい動きが出てきている。

 中国ではここ数年、「人口ボーナスからエンジニアボーナスへ」というスローガンをよく見かける。中国の人口ボーナス期は終わったが、労働集約型から研究開発型への産業転換により、まだ拡大を見込むことができ、人口あたりの研究開発エンジニア数は、先進国に比べてまだ少ない中、大幅に拡大しているので、それが経済成長を生むという考え方だ。

 中国でもAliPayのようなペイメントシステムをさまざまなアプリに組み込んでもらうなど、エンジニア相手のサービスは増え続けている。エンジニア出身のCEOや投資家も多いので、よりDevRel的な活動が重視されつつある。

中国の開発者コミュニティがDevRavレポートを公開

 2024年1月、中国の技術コミュニティSegment Fault(リンク )が、「中国DevRevレポート2023」を公開した。Segment Faultはエンジニア同士が技術的なQA相談をするところから始まったサービスで、技術ブログ、技術イベントの情報集約プラットフォームなど、総合的な技術者コミュニティサービスとして成長し、毎月の訪問者は数千万規模を数え、エンジニア同士の人材紹介などの広告サービス、企業会員などで収益を上げる他、ソフトバンクファンド、IDGなどから数千万元の資金調達をしている。

 レポートはSegment Faultの江波COO(最高執行責任者)  を中心に、同社の編集者とコミュニティ運営者が、アンケートと様々な寄稿を中心にまとめたもので、全文がGitHub上で公開されている(リンク )。

 GitHub上で公開されていることと、ライセンスが原典表記を行えば利用・改変など含めて自由なCC―BY-4.0  で公開されていることで、筆者が原文をフォーク(派生版の作成)し、日本語版を公開することができた(日本語版リンク )。

日本語でも読める「中国DevRelレポート2023」

 レポートは技術者に限定されたものでなく、万人向けに書かれている。中国ではDevRel活動はどういうものだと認識されているか、という定義から始まり、エンジニアたちへのアンケートや、代表的なDevRel成功事例が紹介されているレポートはとても興味深い。

 DevRelの内容は多岐に渡るので、中国国内でもそのコンセンサスははっきりしないとしつつ、冒頭が「企業の対外関係はパブリック・リレーションズ(PR)とガバメント・リレーションズ(GR)」と、政府相手の話が出てくるなど、中国の企業活動の特色も見られる。それでいて、DevRel活動の目的や活動はアメリカ等のテック企業とほぼ共通し、中国と他の場所で開発者の好みや振る舞いは概ね共通している点が垣間見える。典型的な例として紹介されているのもGoogleの事例だ(該当部分リンク )。

技術者出身のCEOも多く、若い開発者コミュニティ。35歳以下が75%以上

 中国の特色が現れている点は、まず開発者のプロフィールだ(該当部分リンク )。26~35歳の若い開発者が75%以上を占め、しかも半数以上が女性だ。学歴はエンジニア相応に高い(ほぼ全員が大卒以上、修士以降も27%)ので、エンジニア育成がうまくいっている一つのエビデンスになっていそうだ。

 企業規模は19人以下の中小から10000人以上の大企業まで様々だ。自然にコミュニケーションが取れる中小に比べ、大きい会社になるとDevRel専門の部署が開設されたり、  DevRel専門家を採用する例は各国でよく見られるが、若い技術系企業が多い中国では企業がより技術者の方を向いていて、規模に関わらずDevRelが注目されていると言えるだろう。

 企業内の意思決定を技術主導/顧客主導/ビジネス主導に分けたアンケートも、もっとも多い回答はテクノロジー主導(44.89%)だった。

企業の意思決定は技術者中心に。中国も世界のトレンドを反映

 AI、IoT、インターネットサービスなど、ビジネスの中心は「何かを開発すること」になってきている。かつては企画や意思決定と開発は別の役割で、開発者の役割は「決まったことを具体化すること」だったが、現代的な企業では開発の中心がそのまま企画や意思決定の中心であり、開発がビジネスそのものとなるにつれ、社内外の開発者とのオープンイノベーション、コミュニティづくりが重要になってきている。社外のユーザ含め社会全体で開発するオープンソースはDevRelの手段であり、目的であるといえる。

 オープンソースにしない場合でも、技術者向けサービスやプラットフォームを公開してその上で開発してもらう(スマートフォン向けOSや、その上で動くアプリなど)など、DevRelが必要とされる場面は多い。

 計画経済が前提だったことと、先進国(特に日本)に対する  キャッチアップが中心だったことから、上意下達的な意思決定と組織構造が目立つ中国においても、インターネット時代以降に企業活動が大きく変化してきている。

 こうしたDevRelのような側面は、全体的にエンジニアを優先しようという掛け声はできても、具体的な行動で政府からの意思を働かせるのは難しい。中国では共産党活動を中心とした末端へのコミュニティ活動があるが、レポートではそうした全体主義的な事例は参照されていない。エンジニアの行動パターンや好みは、国や社会が違ってもかなり共通項があり、中国においてもそれは変わらないことがレポートから伺え、中国研究の視点からも重要なレポートといえる。今後も注目していきたい。


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