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【24-104】専門家「大規模モデルの応用には『バーティカル』の発展が必要」

張佳星(科技日報記者) 2024年11月12日

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第3回世界デジタル貿易博覧会で、大規模モデル搭載の中医学ロボットを体験する来場者。(撮影:王剛)

 このほど開催された「2024産学研融合イノベーションイベント」で、中国工程院院士(アカデミー会員)で浙江大学求是学院特任教授の譚建栄氏は「現在ビッグデータが幅広く応用されているが、特定の分野ではビッグデータがいつでもスモールデータに勝っているわけではない。ビッグデータはランダムや曖昧、混沌とした不確実な状況の分析・処理には適しているが、条件が確定している場合にデータの規模だけを追求すると、逆に対応関係がぼやけ、計算が冗長になりやすい」との見解を述べた。

 中国科学技術協会・企業イノベーションサービスセンターと北京経済技術開発区管理委員会が主催した同イベントは、AI応用のソリューションを求め、優秀なソリューションのマッチング展開をサポートすることを目的として開かれた。出席した専門家は「生成AIが誕生してから、その稼働パラメーターやデータ処理能力は指数関数的成長を遂げている」と語った。業界ではここ1年ほど、AI技術の本当の価値は幅広い業界を活性化することにあり、大規模モデルの数が爆発的に増加した後は、その応用を推進すべきだとのコンセンサスが形成されてきた。

「深み」を出すために必要なのは「バーティカル」の発展

 譚氏は科技日報の取材に対し「汎用大規模モデルが横方向の連携であるとすれば、バーティカル大規模モデルは縦方向の連携だ。つまり、特定分野に対する理解を強化し、その応用を促進するということだ。そのため、バーティカル大規模モデルを発展させるためには、業界知識の要約・まとめに力を注がなければならない。『バーティカル』に目を向けないまま『汎用』に走ると、大規模モデルを特定の産業・分野に効果的に応用することは難しくなる。バーティカル大規模モデルを発展させることで、さまざまな業界に対してソリューションを生成することができ、産業チェーンを再編し、製品の信頼性や可用性を高めることができる」と強調した。

 北京亦荘投資控股で党委員会常務委員を務める周宇清副総経理は「AIが特定の業界を活性化する流れができつつあり、さらに多くの新たなスタイル、業態、原動力が生まれている。これにより、AIと実体経済が深く融合するようになるだろう」と述べた。

 中国情報通信研究院AI研究所基礎ソフトウェア・ハードウェア部の李論主任は、「さらに大規模のパラメーターのモデルトレーニングを担うといった、大規模なシステムを構築するのが、AIのスマート水準を高める重要な方法だ。ただ現時点では、全ての機関に大規模システムの構築を展開できる資金や実力があるわけではない。そのため、既存のシステムを活用して、モデルのインテリジェンスレベルを高めるためには、モデルと典型的な応用シーンをマッチングさせ、業界に応用する過程でデータマイニングを実施する必要がある」と直言した。

ソフトウェアとハードウェアの連携強化が必要

 イベントに出席した専門家は「大規模モデルのさらなる活性化を推進するためには、多くの主体が自身の強みを活かし、関連するイノベーション成果の実用化と応用を推進すべきだ」と指摘した。

 周氏は「先端産業の基礎が今後、大規模モデルに幅広い革新的応用シーンを提供し、豊富で高品質な業界データや的確で強力な産業支援政策などが、大規模モデルのバーティカルな応用のために優れた環境を作り出すだろう。北京経済技術開発区は既に、高性能の公共計算能力プラットフォーム、AIトレーニング拠点、データ集約プラットフォームなどを構築している。開発区は企業の革新的な研究開発のために基礎プラットフォームを構築すると同時に、都市クラス工学実験プラットフォームを構築し、特殊な業界や危険な職種、重複作業といったシーンにおける大規模モデルの応用を模索している」と説明した。

 李氏は「ソフトウェアとハードウェアが効率良く連携する新型インフラは、AIの発展にとって非常に重要なことだ。中国情報通信研究院は、AIのソフトウェアとハードウェア連携イノベーション・適合性検証センターを設置し、AIのソフトウェア・ハードウェア基準・体制を構築し、国家レベルのAIのソフトウェアとハードウェアが協調するための技術的研究開発、標準の制定、エコシステムの育成、テスト・検証を推進する一連の関連業務を請け負っている。大規模モデル技術は現在、主導的地位を築いているものの、それは、AIの研究開発、イノベーション、トレーニングのパラダイムの一つに過ぎない。業界内では、ストック型の研究展開が依然として必要で、専用スモールモデルの発展や大規模モデルの小型化技術などの発展を両立させる必要がある」と訴えた。

 譚氏は「中国の自然言語や自動運転といった分野の大規模モデルの応用は世界の先端レベルにあるが、AIアルゴリズムの研究はまだ少ない。ディープラーニングや強化学習などの各種アルゴリズムは、AI技術の核心部分であり、中国は研究を強化し、AI技術の健全で安定した発展を推進する必要がある」と語った。


※本稿は、科技日報「促进大模型落地需"垂直"发力」(2024年10月21日付⁶面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。

 

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