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【24-107】古代DNA研究で明らかになった「最古のチーズ」の謎

陸成寛(科技日報記者) 2024年11月22日

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中国科学院古脊椎動物・古人類研究所でチーズのサンプル実験を行う付巧妹研究員。(写真提供:中国科学院古脊椎動物・古人類研究所)

 古代の人々はどうやって発酵乳製品を作っていたのか。古代DNAがその答えを出した。

 中国科学院古脊椎動物・古人類研究所によると、中国の研究者が古代DNA技術を利用し、世界で初めて古代乳製品の全ゲノム研究を行い、乳製品発酵技術の交流・拡散の歴史を解き明かした。関連研究成果は国際科学誌「セル」にオンライン掲載された。

 食品の発酵は、人類の歴史の中で最も早く微生物を利用して行われた生産活動例の一つで、発酵乳製品は最も早く登場した発酵食品の可能性がある。人類が発酵乳製品を食べることには長い歴史があるが、微生物の発酵の歴史や微生物の発酵自体の進化プロセスについて、わかっていることは非常に少ない。だが幸運なことに、古代DNA技術がこうした謎を解くための新たな希望をもたらした。

 今回、同研究所の付巧妹研究員のチームは、中国科学院大学人文学院の楊益民教授、新疆ウイグル自治区文物考古研究所、新疆大学、国家文物局考古研究センター、北京大学第三医院などの研究者と共同で、新疆ウイグル自治区の小河墓地から出土した「最古のチーズ」に対し、古代微生物ゲノムの体系的な研究を行った。

 同墓地から出土した「最古のチーズ」は以前、科学者によってケフィアチーズと鑑定されていた。ケフィアチーズはケフィアヨーグルトから生まれたもので、酒麹に似たケフィア粒がミルクの中で発酵してできる。しかし長い歳月を経たため、「最古のチーズ」の中の乳酸菌量はわずか0.43~0.55%で、取り出すことが非常に難しかった。付氏のチームは11年にわたる探求の末、乳酸菌の全ゲノムの遺伝子座プロープを独自に設計し、サンプルから濃度64~80%に濃縮した乳酸菌を取り出し、「最古のチーズ」の全ゲノムの研究を可能にした。

 今回の研究では、約3500年前の古いチーズのサンプル3点から、質の高い古代ケフィアチーズの乳酸菌のゲノムを抽出した。研究の結果、サンプルの中の微生物群集は欧州の菌株と系統が異なることがわかった。これによりケフィア乳酸菌の東アジア内陸部での独立した伝播ルートがあったことが明らかになった。

 また、ケフィア乳酸菌の適応進化の過程を通じ、研究者は新疆タリム盆地の古代人の生活様式と技術・文化の交流・発展プロセス、古代人とケフィア乳酸菌の協同進化の歴史を明らかにした。

 今回の研究に対して海外の専門家は「これは全く新しいデータを掘り起こした非常に珍しい古代DNAの研究だ」「この考古学サンプルによる共生微生物ゲノム研究は、中央ユーラシア草原の人々の移動・交流と微生物の家畜化の歴史に対する新たな知見をもたらす」と評価した。

 付氏は「この研究は、人類の活動や生業モデルと密接に関連する共生微生物を突破口として、以前にはなかった古代の分子的証拠を用いて、古代人の微生物に関する応用家畜化・伝播交流の歴史を明らかにするものだ。分子メカニズムの側面から菌株の導入、伝播、進化の過程を明らかにし、人々の技術・文化の交流発展や、環境との高度な相互作用を深く理解するための新しいアプローチと独自の視点を提供している」と説明した。


※本稿は、科技日報「古DNA研究揭开"最古老奶酪"之谜」(2024年10月9日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。

 

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