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【24-108】中国のロボットコンテストから200以上のスタートアップが誕生

2024年11月25日

高須 正和

高須 正和: 株式会社スイッチサイエンス Global Business Development/ニコ技深圳コミュニティ発起人

略歴

略歴:コミュニティ運営、事業開発、リサーチャーの3分野で活動している。中国最大のオープンソースアライアンス「開源社」唯一の国際メンバー。『ニコ技深センコミュニティ』『分解のススメ』などの発起人。MakerFaire 深セン(中国)、MakerFaire シンガポールなどの運営に携わる。現在、Maker向けツールの開発/販売をしている株式会社スイッチサイエンスや、深圳市大公坊创客基地iMakerbase,MakerNet深圳等で事業開発を行っている。著書に『プロトタイプシティ』(角川書店)『メイカーズのエコシステム』(インプレスR&D)、訳書に『ハードウェアハッカー』(技術評論社)など
medium.com/@tks/takasu-profile-c50feee078ac

「DJIも、Puduも、Bambu Labも、創業メンバーはロボットコンテストの出身者だ。ロボットコンテストがなければ生まれなかった企業と言える。自分は200人以上、さまざまな世代でその後スタートアップしたロボコニストを知っている。すでに大きくなった企業もあれば、今まさに始まったばかりの会社もある」

 2024年11月2~3日、北京中関村のカンファレンス施設で開かれた第9回 中国オープンソース大会 のオープンハードウェア分科会で、北京科技大学の王旭先生は中国のロボットコンテストについて紹介した。

 中国オープンソース大会を主催する開源社は中国最大のオープンソースアライアンスで、各分野で活躍するオープンソースのアクティビストが、自発的なNPOとして集まっている団体だ。新型コロナウイルスの流行時などを除いて毎年一度開かれている大会は、今年で10年目となった。

 ファーウェイのHarmony OS、AlibabaのOcean Base DB、日本でも人気のクラウドネイティブデータベースTiDBなど、大規模な商用サービスが目立つ中国発のオープンソースプロジェクトだが、それに加えて教育での活用も目立つ。全国ロボット競技大会は、中国の大学生を対象とした技術革新、工学実践、公共の福祉をテーマとする競技大会で、現在年1回開催されている。

 この競技大会には現在、ROBOCON、RoboMaster、ROBOTACの3つの主要競技大会があり、いずれも中国高等教育学会が発行する全国普通大学の学科競技大会の評価システムに含まれている。王氏のトークは、中国のロボットコンテストにおけるオープンソース的な技術公開、交流について紹介したものだ。

 中国の大学ロボットコンテストCURC(China University Robot Competition)は国営放送の中央電視台が統括して、3つのロボット大会を行っている。今回プレゼンした王氏は、三大ロボット大会の一つ、ROBOTACの発起人でもある。

オープンなロボット競技は技術を進化させるだけでなく、コラボレーションとイノベーションを育てる

 王氏はオープンソース精神を「シェア/コラボレーション/一歩一歩進めるイノベーション」と定義づけ、オープンソース文化を「知識の伝播は教育そのものであり、オープンソースのコミュニティは学校という場の役割そのもので、さらに学校の枠を超えて多くのスタートアップ企業を産んでいる」として、冒頭のDJIやPudu Robotics、Bambu Labなどを紹介した。

中国三大ロボットコンテストはいずれも技術シェアを志向

 ロボット競技の運営者である王氏がオープンソースの意義を熱く語るように、三大ロボットコンテストは、どれもオープンソース的な技術共有を志向している。以下に3つの概要を紹介する。

1.アジア統一競技のROBOCON

https://www.youtube.com/watch?v=uAKAmgR6NWo

 ABU(Asia Broadcast Union)が主催し、アジア全体で同じルールのもとで行っているコンテスト。商標としてのロボコン、ROBOCONはこれを指す。1988年に日本のNHKが始めた高専ロボコンを皮切りに、1991年に大学ロボコンが始まり、2002年にABUロボコンとしてアジア全体で行われるようになった。2023年は日本代表の豊橋技術科学大学が優勝した(中国は3位)。中国でのROBOCONは、その国内予選にあたり、優勝チームがABUロボコンに出場する。

 毎年変更される大会ルールやレギュレーションのもと、各チームがロボットを開発する。中国はこのロボコン中国大会に、OpenRCという独自のオープンソースコミュニティを設けて、参加者同士の技術シェアを奨励している。また、技術賞を獲得したチームは内容公開を行っている。対戦競技ではあるが、名声の獲得もメリットであるため、こうした公開プラットフォームがうまく働いているようだ。後述するROBOMASTERの影響もあるだろう。

中国ROBOCON公式サイト
オープンソース資料庫

2.DJI発のROBOMASTERもCURCと連携

https://www.youtube.com/watch?v=-o_WYEoxWGY

 2015年にDJIが始めたロボット競技 ROBOMASTER は、その後CURCの一部と位置付けられ、中国の学校組織公立のイベントになっている。ビジョンAI、自律制御、リモートでの操作など必要な技術が多岐にわたるハイレベルな大会だ。ROBOMASTERは競技開始当時からオープンな技術共有を志向しており、 公式BBS にてアルゴリズムや機構などが体系的に公開され、年度ごとの競合チームもそのカテゴリに沿って自分たちの技術を公開している。大会ルールやレギュレーションは毎年アップデートされるが、「FPSシステムを用いて、玉を打ち合うロボットが陣取りゲームをする」という骨格は初回から変わっていない。採点システムなどはDJIが開発して各チームに提供し、一部のコア部品も提供しているが、近年は各チームが進化し、独自性のある実装が増えている。

3.ROBOTAC

https://youtu.be/6BIBDUm7aOs?si=dtBp_bdH6TGR5jwa

 ROBOTACは2015年にCURCの一部となったロボット大会で、戦略のTACが名前に入っているように複数ロボットの協調がカギとなる競技。チーム戦というところはROBOMASTERに近く、毎年ルールとフィールドがかなり変化するところはABU Roboconに近い。毎年変更される大会ルールやレギュレーションのもと、各チームがロボットを開発する。

 ROBOTACでは、大会の公式サイトに資料庫を設けて技術公開をするほか、大会委員会が競技ロボットの作り方についての書籍を出版している。また、唯一デザイン賞があり、参加したロボットを用いた二次創作(3Dデータを使ってコンピュータゲームを作るなど)を奨励している。

 この3つのロボットコンテストはいずれも中国全国規模で行われ、合計で400以上の大学が参加している(ABU ROBOCONはその後各国代表同士の決勝戦が、ABU参加国の持ち回りで行われる)。

3つのコンテストにランクをつけ、ROBOMASTERが最もオープンと評価

 王氏の発表は、それぞれのコンテストのわかりやすい比較として、3つのコンテストを分野ごとの技術共有度で採点し、ROBOMASTERが優れていると評価した。

  メカニカル技術 電子回路 ソフトウェア、アルゴリズム
ROBOCON 2 1 1
ROBOMASTER 4 4 4
ROBOTAC 3 3 3

 王氏自身がROBOTACの運営に関わっているなかで、「ROBOMASTERのほうがオープン」と発表するのは、研究者らしくロボニストらしいフェアな姿勢だ。こうした採点は今後のROBOTACの目指す方向を表し、中国のロボットコンテスト全体がますますオープンになっていくだろう。

 日本でも 一般社団法人次世代ロボットエンジニア支援機構Scramble が主催する、技術要素の広いロボット競技 CoRE(The Championship of Robotics Engineers)がここ数年急速に規模を拡大している。Scrambleは発起のきっかけが「チームを組んでDJI ROBOMASTERに参加する」であり、その後日本でCoREを立ち上げた後も、DJIのROBOMASTER運営チームとは頻繁に交流している。

https://www.youtube.com/watch?v=OnuvFq0ryx4

 今回の発表を行った王氏も、「資料を日本のロボットコンテスト愛好家に紹介したい」と尋ねたところ、快く資料を送ってくれた( 資料公開)。

 オープンを志向するロボットコンテスト愛好家が、国境をこえて交流し、技術開発の輪を広げているのは素晴らしいことだ。


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