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【24-111】会員260万人以上、オープンソースのロボットOSによる開発を助けるコミュニティ

2024年12月06日

高須 正和

高須 正和: 株式会社スイッチサイエンス Global Business Development/ニコ技深圳コミュニティ発起人

略歴

略歴:コミュニティ運営、事業開発、リサーチャーの3分野で活動している。中国最大のオープンソースアライアンス「開源社」唯一の国際メンバー。『ニコ技深センコミュニティ』『分解のススメ』などの発起人。MakerFaire 深セン(中国)、MakerFaire シンガポールなどの運営に携わる。現在、Maker向けツールの開発/販売をしている株式会社スイッチサイエンスや、深圳市大公坊创客基地iMakerbase,MakerNet深圳等で事業開発を行っている。著書に『プロトタイプシティ』(角川書店)『メイカーズのエコシステム』(インプレスR&D)、訳書に『ハードウェアハッカー』(技術評論社)など
medium.com/@tks/takasu-profile-c50feee078ac

中国からROSへの貢献 世界最大のROSコミュニティ古月居

 中国ではロボット企業が多いことから、オープンなロボットOSの ROS について早い段階からコミュニティが成立している。ロボットエンジニアの胡春旭氏が学生時代の2013年にROSを紹介するブログを書いたことから始まったコミュニティが古月居(GuYueHome)だ。

 発起人の胡春旭氏の苗字である胡を古月と割り、居場所を意味する居をつけて古月居としたことから始まったパーソナルな活動は、2023年時点で260万人が参加するコミュニティになっている。おそらくROSに関わるコミュニティとしては世界最大だろう。

 2024年11月10日に行われたイベント『中国のAIロボット開発、RDKX3ボード、会員120万人のROSコミュニティ「古月居」、さらには深圳ORBBECの3Dカメラについて当事者が紹介 #rdkx3 #rosjp #ROSCon』で胡氏自ら発表した資料から、世界最大のROSコミュニティについて報告する(イベント録画・資料)。

 2013年にパーソナルなブログ活動として始まった古月居は、2015年には海外のROSコミュニティと連携して、中国各地の大学でROSサマースクールを行なった。このサマースクールは毎年規模を拡大して行い、中国のROS熱もあり、世界のROSイベントの中で最大の参加者となっている。

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現在も中国各地で行われているROSサマースクール。(画像は古月居の提供資料より)

 2019年に 独立したwebサイト を始め、活動はますます多様化した。同年に無料のID登録をスタートした時点ですでに40万人を集める人気サービスとなっていた。その後もROSに関する系統だった動画講座や、講座と連動したロボット開発キットなど、サービスの範囲を広げている。

 古月居では大学などの教育機関から委託されてROSの講座を提供している。また、中国国内のロボットコンテストやロボットに関する催しを、サイトで一括して宣伝している。これにより中国のロボット開発についてのポータルサイトとして機能している。

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古月居のトップページ。系統だったROS講座、ユーザが投稿したROS活用事例、独自のロボットキット販売などを掲載している。(画像はスクリーンショット)

中国の大学間ハブになり、高度なロボットに向けたオープンソースのロボットOSの普及を助ける

 製造業の広い裾野があり、かつ社会が豊かになるのに従って産業を高度化させなければならない中国にとって、ロボットは最も適した領域だ。古月居の会員が急成長するのは理解できる。

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人数が多いだけでなく、20~30代の若いエンジニアが全体の8割を占めるのも注目点だ。(画像は古月居の提供資料より)

 実際に会員データを見ると、大学と連携してコースを提供していることもあって24歳以下の若いエンジニアが過半数を占め、さらに地域別で見るとサービスロボットを開発している企業が集積している広東省が最大で、製造業の多い江蘇省、大学の多い北京、上海、浙江省と続く。

「ロボット」という用語は範囲が広い。かつては機械制御の一部だったが、ロボットに対する要求も技術も進化し、センサーやAIが複雑化してきたことで、それぞれ別のOSを積んだ複数の機器が互いに通信しあうのも珍しくない。

・5Gインターネット網を通じて、周辺の地図を把握する

・LiDARやカメラなどのセンサー類から統合的に判断して地形や障害物を把握する

・実際にモーター等を動かす

・人間の操作を受け付ける

などの機能ごとに別々のOSを載せた機器が情報をやりとりするのは、自動運転車や複雑なロボットでは珍しくない。そうした異なる機器同士がメッセージをやり取りする、優先順位を決めるなど、全体の基盤とするために開発されているオープンソースのロボットOSが、古月居がテーマとしているROSだ。ROS2ではリアルタイム制御が強化され、産業用途にも対応するようになったことからか、教育と産業の両分野で活用されているようだ。

 ROSを使用することで、ロボット開発を効率化し、柔軟性を向上させることができる。ROSの構造はモジュール化されていて、再利用可能なパッケージを活用して開発コストを削減でき、既存のパッケージに対応させることで新しいハードウェアが市場を掴むことができる。また、トピックやサービス通信を通じたノード間通信が可能で、サービスロボットなどの複雑なロボットシステムを簡潔に構築できる。

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古月居は中国全土にわたって大学間をつなげるプラットフォームにもなっている。(画像は古月居の提供資料より)

 古月居は中国のほとんどの省にわたる150大学と連携し、ROSのコースを提供している。これまでに100万人以上のエンジニアにROSのコースを提供したという。古月居はnVidiaやAMDなどの海外企業、ホライズン・ロボティクス、ファーウェイ、ギガデバイスなどの中国国内企業、そしてROSコミュニティをホストするOpen Robotics Foundationなど、多くの組織と連携している。

中国初のROSイベント、ROSCon Chinaをホスト

 胡春旭氏、そして古月居の活動には、世界のROSコミュニティへの参加が大きく影響している。ROS開発の世界的なカンファレンスROSConは毎回開催地を変えながら年に一度、そして世界各国でも年一度、日本であればROSConJPが開催されている。

 2019年に世界的なROSConがマカオで行われた際には古月居も参加した。そして、今年2024年は中国大陸初のROSConを副委員長としてホストすることになった( https://www.roscon.cn/2024/index.html)。

 今年は12月7、8両日に上海で行われ、筆者もスピーカーとして参加する。中国のロボット開発の大きな節目として注目される。


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