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【24-116】米中科学技術協定5年延長、全面協力から基礎研究限定へ

松田侑奈(JSTアジア・太平洋総合研究センター フェロー) 2024年12月26日

 米中科学技術協定(STA)は、1979年の米中国交樹立に合わせて締結されたもので、40年以上にわたり、農業、エネルギー、環境、核融合、地球、大気環境、海洋科学、遠隔感知技術など幅広い分野で、米中両国の共同研究を支えてきた。

 STAは、両国間の科学技術協力を支えるフレームワークで、科学技術協力における目的と原則を明確にしており、情報共有や人的交流、セミナー・講座の開催、共同研究の実施、共同ファンディングプロジェクトの企画などを通じ、科学技術協力を進めることを定めている。ただし、資金面に関する内容や具体的な協力活動は明示しておらず、これらの事項の詳細は、各省庁の政策文章で決めることになっている。

 STAは2023年8月までは5年ごとに延長されてきたが、米中貿易摩擦の激化により、その更新について議論がおき、2023年8月と2024年2月は延長期間を6か月間とした。

 そして、2024年12月13日、米中両政府代表は、北京で「両国政府の科学技術協力協定の改訂と延長に関する議定書」に調印し、STAを2024年8月27日から5年間延長することに合意した。ただその範囲は、両国政府間の基礎研究プロジェクトにおける協力に限られ、AIや半導体など国家安全保障に関わる核心技術分野は協力分野から除外された。

表 米中科学技術協定の主な変更点
変更項目 変更後の内容
核心技術協力の除外 STAは気象学、海洋学、地質学などの基礎科学分野に縮小 され、経済安全保障に影響を及ぼす可能性のあるAI、量子、半導体などの核心技術分野は、協力範囲から除外された。
大学及び民間協力の除外 STAは両政府間の基礎科学プロジェクトに限って協力するとし、米中の大学や民間企業間の協力は除外した
機関間の協力 米国の海洋大気局(NOAA)、エネルギー省(DOE)、農務省などが中国に協力を提案し、データ共有や共同研究プロジェクトを推進することは承認された。
データ及び研究者の安全強化 研究者の安全に関する規定が強化され、米国側が「国家安全措置」を導入し、協力成果が軍事開発に転用されるリスクを最小限に抑えることを求めた。
厳格な検討手続きの導入 中国側から提案された協力プロジェクトは、米国務省とホワイトハウスが検討し、承認されたもののみが実施される。
紛争解決・協定終了に関する内容の追加 STAが遂行されない場合、紛争解決メカニズムが発動する。「悪意のある行為」が発生した場合、該当プロジェクトは終了が可能になると明記されている。

 両国メディアは、基礎研究における協力の重要性や地政学的な観点から協力分野を制限するのは必要な措置であるとの共通認識を示したが、米国は国家安全保障と協定の縮小に重みを置き、中国メディアはSTAの継続や協力のメリットなどを強調した。両国メディアとも、1979年のSTA締結時に比べ、中国の科学技術の影響力が大きく変わったことを認め、気候変動などのグローバル問題において協力が必要であると声を上げた。

米国メディアの反応:

①国家安全保障を念頭に置いた保護措置が強化されたと言及。

②技術競争が深化しているにもかかわらず協定が更新されたのは、中国の科学技術の発展を考慮した戦略的なアプローチだと分析。

③緊張関係の中で、基礎研究における協力が継続されることを評価。

中国メディアの反応:

①STAは両国が「ウィンウィン」となるもので、中国が科学技術強国として成長したため、両国の協力がより対等になったと強調。

②STAは、両国の利益を十分に考慮していると強調。

③量子コンピューティングやAIなど先端技術分野が協力範囲から除外されると、今後の中国のイノベーション力量が低下する恐れがあると指摘。

④STA延長により、基礎研究の協力が継続でき、協定終了による悪影響を回避できたと評価。

 STAの5年延長は、長く不安を覚えていた米中両国の研究者にとっては朗報であろう。これからも基礎研究での協力は継続されるので、世界の科学技術発展や人類と地球が直面している諸課題へのブレイクスルーに期待したい。一方で、科学技術は経済発展の原動力であるだけでなく、国家戦略の一つとして捉えられる時代になった。縮小・限定された協力は、今後の米中関係における新たな常態になるかもしれない。

 

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