【24-21】遺伝子を改変したブタとサルの心臓移植手術が成功
陳 科、劉 侠(科技日報記者) 李詔宇(科技日報実習記者) 2024年03月07日
四川省内江市資中県にある中国異種間臓器移植ドナー産学研用拠点でドナーとなったブタを持つスタッフ。
中国四川省内江市でこのほど、遺伝子を改変したブタとサルの異種間心臓移植手術が行われた。移植を受けたサルは術後1カ月後も順調に生存しており、移植されたブタの心臓はサルの体内で力強く拍動し、血液を循環させる機能を果たしている。
執刀した南京医科大学の李巓遠教授は「中国国内の異種間心臓移植で移植後20日間以上生存するケースは非常にまれだ。今回移植を受けたサルはすでに32日間生存しており、これは綿密な準備と各方面の協力によるものだが、遺伝子を改変したブタの心臓を用いたことも切り離せない」と説明した。
異種間臓器移植は1990年代から行われており、ブタはこの手術で最も理想的なドナーとされている。拒絶反応に関与する遺伝子をノックアウトする改変を行ったブタを異種間臓器・組織移植に利用するテストは現在、中国内外で幅広く行われている。研究者たちの最終目標は、豚の臓器を人類の体内に移植して、臓器不全に直面する数多くの人々を助けることだ。
李氏は「腎臓や膵臓などと違い、異種間心臓移植は非常に難易度が高い分野で、移植後の心臓が肺循環と体循環における全ての機能を備えるよう保証しなければならない」と述べた。
今回の手術でチームはまず約1時間かけて遺伝子改変ブタから心臓を取り出した。その後、ブタの心臓を移植先のサルの体内で「統合」し、ブタとサルの心臓の左心房の吻合、心臓上腔の吻合、大動脈の吻合、ブタの心臓の肺動脈とサルの心臓の右心室流出路の吻合を行った。3時間に及ぶ手術を経て、ブタの心臓は移植されたサルの体内で順調に拍動を再開した。手術後の心エコーによると、心臓は力強く拍動しており、手術は成功した。
李氏は「今回行ったのは異所性心臓移植だった。手術が終わると2つの心臓がサルの体内で拍動するようになった。異所性心臓移植は『心臓を交換する』と言われる同所性移植とは違って、手術の設計がより複雑で、手術に対する要求がより高く、得られる試験データもより豊富になる」と述べた。
異所性心臓移植は人類の臨床医学ですでに先例があり、その役割は心臓に「生物ポンプ」を設置して、心臓の働きが低下したり心機能に異常があったりする患者の心機能回復をサポートするものだ。今回の異種間心臓移植手術はドナーであるブタの心臓の質を検査することと、ブタの心臓とサルの心臓の免疫拒絶反応を同時に検査するという2つの目的を達成した。内江市第一人民医院の専門家である周容氏によると、手術後の超音波による観察で、ブタの心臓はサルに移植された後も機能の約40%を維持していることがわかった。
中華医学会臓器移植分科会異種間移植学チームの副チーム長で、成都中科奥格生物科技有限公司創業者の潘登科氏は「今回の手術に用いられた遺伝子を改変したドナーのブタは、小型のブタで体重は約7.5キロだった。免疫拒絶反応に関わる2つの遺伝子をノックアウトされて、3つのヒト生体防御遺伝子を導入された。今回のテストを通じ、チームは5つの遺伝子を改変したブタの免疫拒絶反応と免疫機能を検証することが可能になった」と説明した。今回の移植手術は動物でのテストであるものの、潘氏は人間の移植手術の場合と同じように「安全かつ効果的、科学的かつ理性的に、制御可能な前提の下で将来この技術を応用する場合は、政策や技術、倫理、法律法規などの面で必要な検討を行わなければならない。そうしてはじめて臨床応用への転換に資することになる」と指摘した。
※本稿は、科技日報「基因编辑猪--猴异种心脏移植手术获成功」(2024年1月23日付8面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。