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【24-25】上海交通大学などの研究者、腫瘍内好中球のリプログラミング経路を解明

王 春(科技日報記者) 2024年03月15日

 上海交通大学医学院附属仁済医院、上海市免疫治療イノベーション研究院の黄来源氏の研究チームが、腫瘍内の好中球の特異的な分化経路を解析し、さまざまな分化経路が判別できる腫瘍の好中球の細胞表面マーカーを同定した。これにより、好中球をターゲットとした腫瘍免疫療法に新たな標的とアプローチが提供される可能性がある。研究成果はこのほど、国際的学術誌「サイエンス」にオンライン掲載された。

 好中球は骨髄と血液の中で最も大きな割合を占める白血球だ。有機体が外界からの感染や損傷に対応して起こる免疫反応の中で、迅速に集まって損傷を受けた組織に入り込み、重要な免疫調節機能を発揮する。近年の研究により、がんなどの病理的状況下において、腫瘍組織への好中球の浸潤の程度は、患者の免疫療法の治療抵抗性と予後不良に密接な関連があることがわかっている。しかし、腫瘍内の好中球の分化発展経路とその腫瘍の成長を促進する機能的メカニズムはまだ明らかになっておらず、好中球に基づく腫瘍免疫療法の標的の研究を著しく制約している。

 研究チームはシングルセルRNAシーケンシング技術を利用して、膵上皮内がんマウスモデルの腫瘍微小環境内の好中球にT1、T2、T3の3つの亜群が存在することと、トランスクリプトームレベルが骨髄、脾臓、末梢血の好中球とは異なることを発見した。うちT1、T2好中球はそれぞれ未成熟の好中球と成熟した好中球の移行群から来ており、さらなるリプログラミングを経て、末端分化したT3好中球の状態に融合できる。腫瘍内の未成熟の好中球と成熟した好中球は、いずれもT3細胞群の異質染色質のアクセシビリティと転写因子の活性を有している。これは好中球が成熟しているかどうかに関わらず、腫瘍組織に浸潤した好中球には、リプログラミングをスタートする能力が備わっていることを示している。

 研究チームはさらに腫瘍のリプログラミングの判別に用いることのできる、T3好中球の細胞表面マーカー「dcTRAIL-R1」を同定した。好中球が腫瘍の微小環境に浸潤した後、または腫瘍細胞の培養上清液を用いて処理された後、いずれもdcTRAIL-R1の検出感度を上げることができ、T3好中球の特異的遺伝子発現が上昇した。

 このほか、腫瘍内の好中球の半減期は末梢血の好中球より著しく増加している。好中球が腫瘍内に浸潤した後、dcTRAIL-R1のレベルが徐々に上昇して少なくとも5日間維持された。これは、T3好中球の表現型と腫瘍内好中球の寿命延長に密接な関連があることを物語っている。

 研究ではまた、T3好中球が腫瘍内で独特の低酸素で高い解糖系のニッチにあり、ハイレベルの血管内皮増殖因子α(VEGF-α)を発現でき、腫瘍の中心部分の血管リモデリングを誘導できることがわかった。T3好中球と腫瘍細胞を一緒に注射すると腫瘍の成長が目立って加速する。反対に抗dcTRAIL-R1抗体を使用してT3好中球を除去するか、抗VEGF-α抗体を使用してT3好中球の機能を抑制すると、T3好中球にある腫瘍の成長促進作用を失わせることができる。

 黄氏は「今回の成果によって、好中球に的を絞った新たな治療法の基礎が築かれ、好中球の機能研究に新たな洞察がもたらされる可能性がある」と述べた。


※本稿は、科技日報「肿瘤中性粒细胞重编程路径揭示」(2024年1月30日付8面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。

 

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