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【24-29】エアロゲル合成繊維で「ホッキョクグマセーター」を編み出す

洪恒飛、周 煒、江 耘(科技日報記者) 2024年04月03日

 むくむくしたダウンコートを着なくても、人造繊維で作った極薄の服さえ着れば、極寒の冬でもホッキョクグマのように温かく過ごすことができるかもしれない。浙江大学化学工程・生物工程学院の柏浩教授と高分子科学・工程学系の高微微副教授率いる研究チームは、ホッキョクグマの毛の「核-殻」構造を模倣することで、保温性が非常に高い被覆エアロゲル繊維を作り出した。その繊維は、従来の保温性素材の断熱効果を持つだけでなく、人の体から放射された赤外線を封じ込めることができ、業務用の織機をそのまま使って生地を織り上げることができるという。研究成果は国際的学術誌「サイエンス」に掲載された。

 保温性が極めて高い「セーター」を身にまとうホッキョクグマは、氷点下40℃の環境でも生息することができる。ホッキョクグマの毛は空洞構造になっており、中に大量の空気を封じ込めることで、熱伝導率と熱対流を下げて熱が逃げ出すのを防いでいる。

 開発した保温性の高い服は、まさにその原理を利用してデザインしている。保温性を高めつつ軽量・薄型にするために、研究者はできるだけ少ない材料で、できるだけ多くの空気を封じ込めることができるよう取り組んだ。気孔率が極めて高く、密度が空気より小さいエアロゲル(体積の90%以上が空気)を利用するのが理想的選択だが、そのコーティングは剥がれやすく、エアロゲルの含有量にも限界があるため、耐摩耗性や伸縮性といった力学的性質はよくないという問題も存在する。それを服の保温性を高めるために利用するとなると、関連する技術や製法の面でブレイクスルーを実現しなければならない。

 柏氏が率いるタスクグループは2018年、ホッキョクグマの毛の構造を模倣して、規則性や多孔質の断熱性があり、保温性の高い生地を開発したが、軸方向の耐伸縮性が十分ではなかった。その後、それを新たな課題として研究を続けたところ、ホッキョクグマの毛は空洞構造になっているだけでなく、およそ20マイクロメートルの殻があり、それが毛の直径の約4分の1を占めているということに気づいた。

 ホッキョクグマの毛の「核-殻」という構造を模倣して、同グループは6年近くかけて、新型の繊維を開発した。その繊維の中心部は、高分子エアロゲルと呼ばれ、内部には直径がおよそ10~30マイクロメートルの細長い空間が、同じ向きで分布していて、その一つ一つがまるで空気を貯蔵する倉庫のようになっている。また、エアロゲルは、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU)の外殻で覆われている。

 論文の筆頭著者で、浙江大学博士課程生の呉明瑞氏は「極めて高い保温性実現しているのが『核』だ。保温というのは熱が逃げるのをある程度防ぐことで、人体からは主に熱放射や熱対流、熱伝導、汗の蒸発などを通じて、熱が逃げ出す。中でも熱放射の影響が最も大きく(全体の40~60%を占める)、熱は赤外線放射の形で逃げている」と説明した。

 さらに「赤外線は体表面の皮膚から放射されている。新型繊維の内部細孔の向きは、放射の向きと垂直になっており、同時にサイズを調整することで、赤外線の波長と合わせ、赤外線を封じ込められる見込みだ」と述べた。

 柏氏は「強靱性と耐久性を実現しているのは『殻』だ。われわれが設計したTPUを採用した新型繊維は、2倍の長さに引っ張っても破損することはなく、服の繊維に必要な伸縮性が実現している。殻が厚すぎると、繊維の保温性に影響を及ぼす。われわれは最適値を選び出し、材料の保温性と力学的性能を両立することができた」と語った。

 共同チームの研究者らは、初期温度を同じにしたダウンコートやウールセーター、コットンニット、さらに新型の極暖繊維を使って作った「ホッキョクグマセーター」を着用して、氷点下20℃に保たれた冷凍庫に入り、それぞれの表面温度の上昇状況を比較する実験を行った。

 柏氏は「上昇幅が小さいほど、人の体から逃げる熱が少ないということを意味する。実験を始めて数分後の表面温度を比べると、コットンニットは10.8℃、ダウンコートは3.8℃それぞれ上昇したのに対して、厚さはウールセーターに近く、ダウンコートの3分の1から5分の1しかない『ホッキョクグマセーター』は3.5℃しか上昇していなかった」と明らかにした。

 柏氏は「現時点で、実験室ではこの新型繊維を連続して作ることができるほか、『ホッキョクグマセーター』に着色できることも確認している。製作コストがかかるのは主に材料と加工で、現段階では材料費は安いものの、工業化して大量生産するためには、製法をさらに改良して加工費を低減する必要がある。そうしてはじめて、『ホッキョクグマセーター』が実際に店に陳列されるようになる」と述べた。


※本稿は、科技日報「我国科学家用气凝胶织出"北极熊毛衣"」(2024年1月5日付8面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。

 

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