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【24-56】AIの発展で生産力の飛躍的向上を

黄 卓(北京大学国家発展研究院副院長) 周 鼎(北京大学長沙計算・デジタル経済研究院シンクタンクセンター・センター長補佐) 2024年06月17日

(画像提供:視覚中国)

「次世代人工知能(AI)の発展加速は、世界のテクノロジー競争の主導権を握るための重要な戦略的足がかりであり、中国のテクノロジーの飛躍的発展、産業の最適化・高度化、生産力全体の飛躍的向上を推進する重要な戦略的資源だ。AI技術の発展に伴い、AIの推進によって生産力全体を飛躍的に向上させ、新たな質の生産力の形成を加速させる道筋がより明確になってきている。現在のAI産業の発展を妨げているボトルネックを解消することは、新たな質の生産力の発展を加速させ、中国の経済・社会の質の高い発展を推進する上で重要な意義がある」。中国の習近平総書記は以前、こう述べた。

新たな質の生産力を発展させる重要エンジン

 新たな質の生産力は、技術の革命的ブレイクスルー、生産要素の革新的配置、産業の踏み込んだトランスフォーメーション・高度化によって生まれる現代の先進的生産力で、労働者、労働手段、労働対象およびその最適化された組み合わせの質的変化を基本的内包とし、全要素の生産率向上が核心的シンボルとなっている。AIはこれら各方面を推進する積極的役割を果たしており、新たな質の生産力を発展させる重要な原動力となっている。

 まず、技術のブレイクスルーの面では、ビッグデータやディープラーニング、自然言語処理、ニューラルネットワークなどの技術を活用し、AIは数十億から数千億のパラメーターからなる大規模言語モデル段階へと発展。マシンが人間の知能を模倣する能力を備えるようになり、駆動マシンが反復作業だけでなくイノベーション作業も行うようになり、技術の革命的ブレイクスルーをもたらしている。

 次に要素の配置の面では、AIは新たな生産ツールとして、社会・生産の各部分に溶け込みつつある。AIはデータを新たな生産要素とし、計算能力を新たな基礎エネルギーとして、人間とAIの協働という新しいスタイルを通じ、「労働者の高技能化、労働資料のスマート化、労働対象のマルチ形態化」によって労働者、労働資料、労働対象、およびそれらの最適化された組み合わせの質的変化を促進し、生産要素の革新的配置や全要素の生産率の大幅向上を推進している。

 産業の高度化という面では、AIは生産要素の組み合わせの最適化や全体的な飛躍的向上を通じて、従来の生産の境界を拡大し、新型産業を切り開き、AIをベースにした新産業、新業態、新スタイルを生み出し、産業の垣根を超えた融合とトランスフォーメーション・高度化を促進し、新たな質の生産力の大きな発展を推進している。

 近年、中国ではAI産業の発展が深まり、その発展の行き詰まりが新たな質の生産力の発展に影響を及ぼしている。それには以下のいくつかの面が含まれている。

 まず、一部の先発優位性を持つAI技術は依然として「追走」の段階にある。中国の大規模AIモデルは現在、全体的な枠組み、モデル規模、データ・スループット、アルゴリズム訓練などのコア技術の面で、世界の最高水準モデルと比べるとまだ開きがある。

 次に、AIアプリの研究開発に必要な計算能力供給が不足している。計算能力はAIの重要要素の一つで、中国では「スマート・コンピューティングセンターが少ない、大型データセンターが少ない、国産の独自の高性能計算能力ハードウェア設備が少ない」といった課題が存在している。

 さらに、AI産業の発展に対する下支えの面で限界がある。現在、中国のAI分野のリーダー人材数が全世界に占める割合は14%しかなく、業界の投資規模が小さく、投資額も比較的低い。

複数の措置を講じて産業の行き詰まりの解消を

 こうしたAI産業の行き詰まりに焦点を合わせ、研究開発体制や技術の研究開発、応用シーン、要素の保証という面に注力し、AIによって新たな質の生産力の発展を活性化させるべきだ。

 第一に、AI産業研究開発体系を構築し、新たな質の生産力の発展原動力を十分蓄えておくことだ。また「ハイレベル研究型大学、国家レベルイノベーションプラットフォーム、大手テクノロジー企業、新型研究開発機関」で構成される研究開発体系を構築する必要がある。ハイレベル研究型大学は、AIの基礎研究、学科建設、人材育成に継続的に力を入れる。国家レベルイノベーションプラットフォームは、大規模AIモデルのアーキテクチャ、規模、アルゴリズムなどの重要コア技術のブレイクスルーに重点的に取り組む。大手テクノロジー企業は、イノベーション資源を統合・集積し、AI産業における共通の重要技術の研究開発と産業化を実施する。新型研究開発機関は、体制・メカニズムのイノベーションの優位性を発揮し、AI産業の需要に合わせて、目標を方向性とした組織的な科学研究を展開し、成果実用化の「ラストワンマイル」を埋める。これら四者が新たな挙国体制を作ることで「産学研」(産業・大学・研究機関)が深く融合し、互いに浸透し合う、新たな質の生産力の発展原動力を十分蓄えておく。

 第二に、AI技術のブレイクスルーを実現し、新たな質の生産力のコア原動力が生まれるよう働きかける。それとともに、新たな挙国体制の優位性を発揮し、大規模AIモデルの基盤などの技術の主戦場や計算能力ソフトウェア・ハードウェアなどを支えるコア技術への投資を持続的に強化し、計算能力ハードウェア設備の企業に対して税収優遇政策を実施し、チップレット、インメモリコンピューティングチップなどの重要技術に対する専門的研究開発を強化する。また、全国一体化計算能力ネットワークの建設に合わせ、スパコンセンターやインテリジェント・コンピューティングセンター、データセンターといった計算能力インフラ整備を計画し、100万コア以上の大規模計算能力リソース調整能力における技術的な難関攻略に取り組み、高効率でコストが低く、大規模なAI公共サービスサポートプラットフォームを構築して、新たな質の生産力のコア原動力が生まれるよう働きかける。

 第三に、AI産業の応用シーンを構築し、新たな質の生産力の物質的材料を提供することだ。現在のところ、中国は汎用AI分野において顕著な優位性が形成されていないが、中国国内の大規模な市場と膨大なデータに基づき、特定の分野に特化したAIに優先的に力を入れることで、「AI+業界応用」という垂直効果を生み出すことができる。次世代AI技術を応用できるシーンを見つけ出してそれを積極的に構築し、金融、ビジネス、政務、教育、文化観光などの分野において応用シーンをさらに開拓し、多分野において産業の垣根を超えたAI応用のエコシステムを構築し、既存産業の質的向上・コスト削減・効率向上、新たな経済成長源の模索・育成を推進し、新たな質の生産力発展の物質的材料を提供する。

 第四に、AI産業を支える力を一本化し、新たな質の生産力の保証を強化することだ。「AI+」行動案、または相応の政策の検討・制定を推し進め、大学・研究機関と企業がAI人材育成プロジェクトを共同で展開するよう促し、人材奨励メカニズムを整備し、国有金融機関に対して信用支援の役割を十分発揮させ、政府産業投資基金がAI関連企業に多元化したエクイティファイナンスを提供するよう働きかけ、科学技術保険リスクシェアリングメカニズムを整備するべきだ。

 まとめると、AI産業のボトルネックを解消し、次世代AI技術によってさまざまな業界を活性化するとともに、経済・社会の各分野・各部分のスマート化におけるトランスフォーメーション・高度化を実現し、新たな質の生産力発展における新たな原動力となる必要がある。


※本稿は、科技日報「加快发展人工智能 实现生产力跃升」(2024年4月30日付8面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。

 

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