【24-69】量子計算で「生命の暗号」を解読
羅雲鵬(科技日報記者) 2024年07月17日
膨大な量のゲノムシーケンスデータの断片をつなぎ合わせて完全なゲノム配列にする「ゲノムアセンブリ」は、ゲノミクス分野の科学者が直面する難題となっている。そして、複数の類似した染色体を持つ多倍体生物の場合、この作業は一層難しくなる。
深圳華大生命科学研究院(以下「深圳華大」)の研究チームはこうした課題に対し、量子計算技術を利用してハプロタイプアセンブリの問題を解決する新型ツール「VRP assembler」を開発した。関連する論文は学術誌「Cell Reports Methods」に掲載された。
論文の共同筆頭著者で深圳華大科学計算プラットフォーム責任者の黄俊翰氏は「多倍体ゲノムアセンブリは、多くの混乱した断片の中から関連する断片を選び出し、複数の類似したゲノム配列を正確に組み合わせることだ。その難しさは想像に難くない。特に複雑な遺伝子領域を処理する際には、従来の計算方法では対応するのが難しい」と説明した。
黄氏によると、成熟した量子計算技術の支援のもとで、研究者は今後、高品質のハプロタイプアセンブリをより迅速に実現できるようになる。
研究者は研究分析により、まずハプロタイプアセンブリの問題に関する効果的なモデリング方法を見つけ、単倍体、二倍体、多倍体のゲノムアセンブリに応用できる数学モデルを提案した。そして、人間の主要組織適合遺伝子複合体(MHC)領域で高精度のハプロタイプアセンブリの結果を得た。この結果は、精密医療や生物多様性、進化の研究に対してより豊富な情報を提供するという、将来の生命科学研究における量子計算の巨大なポテンシャルを示している。
黄氏は「量子計算は無数のブレーンが同時に活動するようなもので、各種の可能性を迅速に模索し、最適なソリューションを見つけ出すことができる。これにより、VRP assemblerは、従来の方法であれば多くの時間を費やしたタスクを極めて短時間で完了できる」と述べた。
黄氏によると、研究チームは新型ツールの効果を検証するため、シミュレーションされた二倍体と三倍体のゲノムに対する小規模なハプロタイプアセンブリを行った。その結果、VRP assemblerの処理時間は従来の最適化アルゴリズムと比べて大幅に減少した。
モデルの正確性をさらに検証するため、研究チームはVRP assemblerを利用して人間のMHC領域の約500万塩基対の長さを持つ2つの配列に対してハプロタイプアセンブリを行った。その結果、ミスマッチ率は理論的限界に近いレベルまで下がった。これは遺伝子変異の識別、およびその健康への影響を理解する上で重要な意義を持つ。
実際、VRP assemblerは研究者が量子計算技術を生命科学研究に応用するための小さな一歩に過ぎない。現在、量子計算技術と生命科学は融合の新たなチャンスを迎えている。
論文の共同筆頭著者で、深圳華大量子アルゴリズムエンジニアの陳一博氏によると、量子計算は全く新しい計算モデルとして、ポストムーア時代の計算能力の限界を打破し、生物学データの「次元の呪い」問題に対する革新的なソリューションを提供することが期待されている。陳氏は今後について「量子計算技術は生物情報処理や疾患メカニズム解明、新薬開発など複数の重要分野を活性化し、生命科学の研究を推進する」との見方を示した。
陳氏はまた、「量子アルゴリズムは高次元の生物情報データを効率的に処理できる。研究者がより迅速に疾患関連遺伝子を識別し、複雑な疾患の分子メカニズムを理解するのに役立ち、精密医療を支援することができる」と述べた。
特に、生物系統学研究への応用では、量子計算はかつてない精度と規模で生物分子や細胞内部の量子的挙動をシミュレーションすることができ、研究者が光合成などの生物プロセスにおける量子効果をより深く理解し、生物学の基本メカニズムの研究を推進するのに役立つ。
また、生物検査での応用において、量子精密測量技術は従来の手段では及ばない測定精度を提供することができ、バイオマーカー検査や疾病の早期診断において重要な価値を持っている。
さらに、量子センサーの応用はより正確で感度の高い医療検査を実現し、疾病診断の正確性を高めると期待されている。
陳氏は「量子計算ハードウェアと量子アルゴリズムの持続的なブレイクスルーに伴い、量子計算技術はゲノミクス、さらには生命科学領域全体に深い影響をもたらすだろう」と語った。
※本稿は、科技日報「用量子计算破译"生命密码"」(2024年6月6日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。