【24-71】細菌はどうやって環境ストレス耐性を獲得するのか
馬愛平(科技日報記者) 2024年08月01日
中国農業農村部(省)成都バイオガス科学研究所の何明雄研究員率いるチームは、原核生物である「Zymomonas mobilis(ザイモモナス・モビリス)」がその3次元ゲノム構造を調整して環境ストレスに対応する分子メカニズムを解明した。研究成果は国際的学術誌「Nucleic Acids Research」に掲載された。
ザイモモナス・モビリスは独特な生物学的特性により、新しい合成生物学の基盤生物(シャーシ)にすることが可能なほか、茎などのバイオマス資源の高効率で高付加価値な転換に用いることができ、食品や健康、医薬などの分野でも幅広い応用の見通しがある。しかし、茎などのバイオマス資源は転換の過程で、酢酸やフルフラール、低pH、高塩濃度などに由来する一連の環境ストレスに直面するため、そのバイオマス転換効率が大幅に低下してしまう可能性がある。
何氏によると、研究チームは初期段階でゲノム組み換えなどの技術を利用し、ストレス耐性を持つザイモモナス・モビリスの細胞を育成し、そのバイオマス転換効率を大幅に高めた。また、原核生物のゲノム突然変異と染色体構造の関係について、ほとんど知られていない点を踏まえ、染色体立体配座捕捉法を用いて、ゲノム突然変異と環境ストレスがザイモモナス・モビリスの3次元染色体立体配座に及ぼす影響を研究した。
研究の結果、ゲノム突然変異はザイモモナス・モビリスの染色体の局所的な相互作用にしか影響を与えないのに対し、酢酸とフルフラールに由来するストレスは染色体の長距離相互作用を抑制し、そのドメインレベルにおける染色体の相互作用を大きく変えることが判明した。さらなる解析により、鉄代謝がタンパク質ファミリーの調整に関与し、染色体の3次元的な動態を調整するとともに、ストレスに抵抗する遺伝子が発現するようコントロールして、細菌が環境ストレスに対応できるよう助けることも発見した。
何氏は「今回の研究は、『構造が機能を決定する』という分子生物学の中核的な問題を新たな視点から説明している。細菌がどのようにして、環境ストレスに対抗する表現型の分子メカニズムを形成するかを解明しており、これによって原核生物のゲノム構造と機能の関係を知るための新たな科学的根拠が提供されただけでなく、3次元ゲノムレベルから人工菌株を合理的に設計するための基礎も築かれた」と説明した。
※本稿は、科技日報「细菌抗压"秘籍"揭示」(2024年6月12日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。