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【24-81】地球に淡水が出現したのは約40億年前? 「ジルコン」研究により新説が誕生

蒋 捷(科技日報記者) 2024年08月27日

画像は米インテュイティブ・マシーンズの月着陸機「オデュッセウス」と地球。

 数億年前、地球は広大な海に囲まれた「水球」だった。その後、時間の経過に伴い、陸地と淡水が出現し、陸上生物の進化に必要な条件が整っていった。

 この歴史的な変化について、科学界では「陸地と淡水が出現したのは26億~32億年前」という見解が一般的だった。

 最近、こうした見方に異を唱える研究成果が発表された。今年6月、英誌「ネイチャージオサイエンス」に掲載された論文が、約40億年前に地球上には既に乾燥した陸地と淡水が出現していた可能性がある」と指摘した。

 中国科学院地質・地球物理研究所の王相力研究員は「この研究は、地球の地質学的進化の研究や居住に適した惑星を探す上で重要な意義がある」と述べた。

40億年に何が起きたのかを明らかにする「遺物」

 40億年前に何が起きたのかを研究するためには、その時から今に至るまで存在し続けている「遺物」を探す必要がある。

 科学者は、ジルコンというジルコニウムのケイ酸塩鉱物に注目した。ジルコンは地球深部の高温高圧に耐えられる、硬い耐摩耗性の鉱物で、長い地質学的歴史の重要な化学情報を保存しており、地球の初期の歴史を研究するのに理想的な材料となる。王氏によると、科学者はジルコンを通じて、変化を繰り返してきた地球の歴史を追跡し、地質構造の活動や気候変動などの重大イベントを明らかにすることができる。

 では、40億年前のジルコンはどこにあるのだろうか? 自然環境が特に恵まれたオーストラリア西部のジャックヒルズでは地球最古の鉱物が発見されており、それらは地球誕生とほぼ同時期の約44億年前に形成されたと見られている。中でもジルコンのサンプルは初期の地球について研究するための重要な手掛かりとなっている。

 オーストラリア・カーティン大学と中国科学院地質・地球物理研究所の研究者が、ジャックヒルズで採取されたジルコンのサンプルを分析したところ、それらの約10%は40億年以上前のものであることが判明したという。

 これらのジルコンに淡水の痕跡がないかを調べるために、研究者は「酸素」の同位体比測定法を採用した。これは、鉱物または岩石に含まれる酸素同位体組成、特に「酸素同位体比¹⁸O/¹⁶O」を測定し、物質の起源と形成環境を推測する方法だ。研究者は、一部の太古のジルコンの酸素同位体組成と、淡水環境で形成される物質の酸素同位体組成が似ていることを発見したことで、40億年前の地球には淡水の循環システムが存在していたと推測している。

 分析結果によると、一部のジルコンサンプルに含まれる「酸素同位体比¹⁸O/¹⁶O」を測定すると、マントルの平均値を明らかに下回っていた。このことは、内陸地域で降る雨は「酸素同位体比¹⁸O/¹⁶O」が比較的低いという特徴と合致している。淡水は雨によってもたらされるもので、水が蒸発する過程で、軽い酸素の同位体(¹⁶O)と重い酸素の同位体(¹⁸O)は、大気に溶け込みやすいため、内陸地域で降る雨の「酸素同位体比¹⁸O/¹⁶O」は低くなる。

 研究者が、モンテカルロ法を採用して、ジルコンの形成過程をシミュレーションしたところ、海水とマントルのマグマの作用では、ジルコンの「酸素同位体比¹⁸O/¹⁶O」が0.3%を下回ることはほぼ不可能で、陸地に雨が降ってもたらされた淡水がジルコンの形成の過程に関与してはじめて実現することが分かったという。その上、十分な大きさの陸地がなければ、十分な量の淡水を集めることもできない。

 王氏は「地球上の水の循環では、海水は蒸発によって大気に入り、その後淡水となって陸地に降る。この過程で、軽い酸素の同位体は淡水に集まり、重い酸素の同位体は海水に集まる。淡水は地表生物の化学反応に参加し、形成された水生物質は、海底堆積物となって蓄積し、最終的に造山運動が原因で、地球の深部に戻り、溶けてマグマとなってジルコンが形成される」と説明した。

居住に適した惑星を探す新たなスケール

 淡水の出現は、当時の地球には既に大きな陸地があったことを意味する。陸地の生命が進化するためには、陸地を生息地とする必要があるほか、淡水を通じてタンパク質を合成する必要がある。陸地と淡水があれば必ず生命が出現するというわけではないが、少なくともカギとなる2つの条件が満たされることになる。

 王氏は「40億年前の地球において、淡水循環が秩序に基づいて機能していたという発見は、早期地球生命と環境の共進化の研究、居住に適した惑星の探査などの面で重要な意義がある」と指摘した。

 そして、「地球が形成された45億6000年前から、わずか約6億年後に、陸地に生命が存在する重要な要素が整っていたということは、科学者に対し、他の惑星で居住に適した環境への変化が起きる可能性を評価するための新たなタイムスケールを提供することになる。科学者は、早期地球環境と比較することで、他の惑星上で生命が誕生する条件を推測し、居住に適した惑星を効果的に探査することができる」と説明した。

 王氏は、「結論を下すためには、さらにはっきりさせなければならない問題もたくさんある。例えば、淡水の特徴を備えた酸素同位体を含む物質がどのようにして地球深部に戻ったのか。地球表層システムの物質は、プレートが沈み込んではじめて、地球深部に入ることができるというのが一般的な見方だ。そのため、今回の研究は、プレートの沈み込みが40億年前に既に発生した可能性があることを示唆している。しかし、地質学的証拠を通じて既に確認されているプレートの沈み込み時期よりも明らかに早いことになる。そのため、40億年前のプレートの沈み込みの具体的な状況や、その背景にあるメカニズムについては、今後の研究によって明らかにする必要がある」と述べた。


※本稿は、科技日報「地球淡水出现时间有新说」(2024年7月18日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。

 

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