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【24-92】新材料で全固体リチウム硫黄電池の性能が向上

宋迎迎(科技日報記者) 2024年10月08日

 中国科学院青島生物エネルギー・プロセス研究所の先進エネルギー貯蔵材料・技術研究チームが高容量硫化物複合正極材料を開発した。その比容量は現在の三元系正極材の5倍以上だという。今回の成果は全固体リチウム硫黄電池の正極構造設計に新たな戦略を提供するとともに、全固体リチウム硫黄電池の商用化実現にとってプラスとなる。研究成果はこのほど、国際的学術誌「Journal of Energy Storage」に掲載された。

 硫化物系全固体電池は世界の先端技術であり、従来の有機電解液電池に存在する「発火・爆発しやすい」という安全性に関する問題を革命的に解決し、「充電速度が遅い」「低温下での性能が低い」「エネルギー密度が低い」といったボトルネックを打破するものとして期待されている。研究によると、硫化物固体電解質を採用し、硫化リチウムを正極にすると、電池のエネルギー密度を液体リチウム電池の2倍に高めることができる。また、硫化物正極とリチウム金属負極を合わせれば、さらに電池のエネルギー密度を高めることができるという。硫化リチウムと硫黄は全固体電池の未来の正極材料における最良の選択肢と見なされている。

 しかし、全固体電池の硫化物正極の研究には依然として課題があった。硫黄と硫化リチウムが転化して変化するプロセスにおいて、反応の電気化学的活性が低く、比容量を増大させることが難しい。しかも、反応プロセスにおける体積変化が接触界面抵抗率を増大させ、サイクル容量の減衰とCレートの低下を招く。

 同研究所の武建飛研究員はチームを率いて長年研究に従事し、リン修飾カーボンナノチューブでカバーする方法を用いて、硫化物複合正極材料を開発した。武氏によると、リン修飾カーボンナノチューブは比表面積がより大きく、酸素含有基が多いため、硫化物正極と固体電解質との間の界面接触と安定性が増強されたという。

 武氏は「リン修飾カーボンナノチューブは複合正極の中で三次元の電子伝導網を形成し、電子の遷移とイオンの拡散を効果的に促進するとともに、硫黄の利用率を高めることができる。この方法で作られた全固体リチウム硫黄電池は、1グラム当たり1506.3ミリアンペアアワー(mAh)という高い比容量を実現でき、1400回のサイクル後の容量維持率は70.4%に達する」と述べた。

 研究チームはこの基礎の上に、硫黄の化学気相成長法と化学的機械研磨方法を採用して、独自のNi-ドープ三相界面複合正極を設計した。カーボンナノチューブの物理的限界により、充放電プロセスにおける硫黄の体積膨張が緩和された。ニッケルの微量混合によって、硫黄と硫化リチウムの転化に対する触媒作用が促進され、複合正極の電気化学的性能を向上させることが可能となった。

 これを正極とした全固体リチウム硫黄電池は、摂氏60℃の環境下での放電比容量が1グラム当たり1519.3mAhに達し、理論上の比容量に近づいた。室温下でも、放電比容量は毎グラム1060.9mAhとなる。物理的限界と化学的触媒作用の協同効果により、全固体リチウム硫黄電池の電気化学的性能が向上し、室温での高比容量硫化リチウムというイノベーションを実現した。


※本稿は、科技日報「新材料提升全固态锂硫电池性能」(2024年8月13日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。

 

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