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【24-99】「超長寿命」の新型海水電池、海南大学で開発

王祝華(科技日報記者) 唐天正(科技日報実習生) 2024年10月31日

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海水電池のテストを行う海南大学海洋科学・工程学院副研究員の楊金霖氏。(画像は取材先提供)

 海水電池は海水を電解液とした新型エネルギー貯蔵技術で、電池の生産コストを効果的に下げることができ、海洋探査や水中通信、離島電源などの分野で幅広い応用の見通しがある。しかし、現在開発されている海水電池の多くは使い捨てタイプで、再利用できない。

 海南大学海洋科学・工程学院の田新竜教授や楊金霖副研究員らの「海洋クリーンエネルギー」イノベーションチームはこのほど、自然の海水電解液による超長寿命で繰り返し充電可能な塩素イオン電池を開発した。この成果は可逆的陰イオン貯蔵電極技術におけるブレイクスルーを果たし、持続可能な水系電池のイノベーションにより、深海・遠洋分野の電力貯蔵・供給にソリューションを提供するものとなる。研究成果は国際的学術誌「米国化学会誌」に掲載された。

塩素イオン可逆貯蔵技術の難題を克服

 田氏は、充電可能な海水電池の研究開発について、「中国は海域が広く、海水資源が豊富だ。海水にはさまざまな溶解性の陽イオンと陰イオンが含まれ、優れたイオン導電性を持つ。材料を現地調達できれば、自然の海水を電解液にすることで電池のコストと安全性の問題を解決できる」と述べた。

 楊氏は「既存の海水電池の多くが使い捨てタイプで再利用できず、応用が制限されている。その理由は使い捨てタイプで使われる電極材料に、塩素イオンの可逆貯蔵能力がないためだ」と説明した。

 海水電池を再利用にするためには、塩素イオン可逆貯蔵電極という難題を解決する必要がある。田氏は「一般的な電池はリチウムイオンやナトリウムイオンなどの陽イオンで貯蔵するが、海水電池の作動原理は塩素イオンに基づく貯蔵で、塩素イオンは陰イオンに属する。例えば酸化物や硫化物など従来の電極材料は塩素イオンを含む陰イオンの可逆貯蔵ができないため、充電可能な海水電池の開発に用いることができない」と説明した。

 研究チームは文献調査とハイスループット計算により、10種以上の潜在的な無機塩素イオン貯蔵材料を選定した。うち7種の合成を試み、最終的に「MXene」という新型二次元材料を電池塩素貯蔵電極として選定した。

 楊氏は「従来の材料とは異なり、MXene材料は高い導電性を持つ層状材料だ。高い導電性はイオンと電子の高速な伝達に役立つ。また、安定的な層状構造は塩素イオンの材料層間での可逆埋め込みや離脱に有利で、電池の使用寿命を延ばすことができる」と解説した。

 チームの研究者は、MXene材料が「塩素表面末端基」という調節可能な表面官能基を持つことと、この材料の塩素表面末端基が海水中の塩素イオンと共有結合性相互作用を形成することを発見した。この弱い相互作用は塩素イオンを材料層間で吸着させ、これを急速移動させることが可能で、塩素イオンの可逆貯蔵を実現する。

「腐食に強い電池デバイス材料」という課題を解決

 塩素貯蔵電極材料という最も重要な問題を解決したが、次は海水の塩素イオン腐食性の解決という問題が待っていた。

 楊氏は「チームは研究の初期で、海水電池の充電電圧が非常に低く、寿命も要求を満たさないことに気づいた。研究者は影響要因を徐々に排除することで最終的に、塩素イオンが電池ケースや集電体に対して高い腐食性を持ち、これが電池の性能に影響を及ぼす主な原因であることを突き止めた」と振り返った。

 チームはこの問題に対し、より腐食に強い電池デバイスの設計を開始。塩素イオンの腐食により強いカーボンペーパーとチタン箔を従来の銅箔と置き換えて集電体とした。また、電池ケースには耐腐食処理を施し、接続工程を最適化した。これらの改良措置は塩素イオンの電池に対する損害を効果的に減らし、電池全体の性能と安定性を高めた。

 楊氏は「現在のリチウムイオン電池の最適な動作温度は15~35℃だ。一方、当チームが開発した海水電池は動作温度の範囲がより広く、-20℃~50℃の範囲内で安定的な性能を保つ。低すぎたり高すぎる環境温度は電池の性能発揮に悪影響を及ぼし、さらには安全問題を引き起こすこともある」と説明した。

 研究チームによると、この広い動作温度範囲が電池の使用範囲を拡大し、電気自動車やエネルギー貯蔵ステーションなど極限環境で使われる設備にも搭載できるという。夏の酷暑や冬の極寒でも電池は安定的な性能を保ち、設備の持続的な稼働を確保する。

 さらに、この新型電池は実験で、高可逆容量、高エネルギー密度、超長寿命といった優れた特性を示した。楊氏は「電池の容量とエネルギー密度が高いほど、充電後に使用できる時間が長くなる。長寿命とは、電池が充電と放電を繰り返しても、優れた性能を保つことを意味する。新型電池は実験中、海水電解液の中で4万回使用することができた。このことは実際の使用寿命が1年を超えることを意味する」と説明した。

 田氏によると、新型電池は従来の有機溶剤の代わりに自然の海水を電解液とすることで、生産コストを約10%削減できるという。電池の組立プロセスも無水・無酸素の厳しい環境条件を必要とせず、設備や製造工程に対する要件も低い。そのため電池の全体的な価格は20~30%低下する。

 このほかMXene電極材料にはリチウムやコバルトなどの高価な金属元素が含まれないため、電池の生産コストが大幅に下がり、無毒性で環境に優しいという強みも持つ。このことは世界のエネルギーの持続可能な開発を推進し、中国の「ダブルカーボン」(二酸化炭素排出量ピークアウト・カーボンニュートラル)目標の達成も後押しすることになる。

 イノベーションの成果を早急に実用化させるにはどうすれば良いのか。田氏は「長期的に見ると、超長寿命の海水電池は、応用の将来性と潜在的な環境効果が期待できるが、現在は技術や市場の面で多くの課題に直面している。そのため、まずは材料の量産化、電池デバイスの構造、工程の最適化といった問題を解決する必要がある」との見解を述べた。


※本稿は、科技日報「新型海水电池有了超长循环寿命」(2024年9月24日付5面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。

 

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