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【25-009】定点観測シリーズ 中国の宇宙開発動向(その30)

辻野照久(元宇宙航空研究開発機構国際部参事) 2025年01月27日

 今回は、定点観測シリーズの第30回目として、2024年10月1日から12月31日までの3か月間の中国の宇宙開発動向をお伝えする。

 本期間には有人宇宙船「神舟19号」と貨物輸送船「天舟8号」が打ち上げられ、宇宙飛行経験者の人数が24人に増えた。

 上海航天技術研究院(SAST)は長征7型ロケットを上回る性能を有する「長征12型」ロケットの初打ち上げに成功した。

 世界の年間打ち上げ回数(259回)及び衛星数(2715機)は過去最多を更新し、中国も年間打ち上げ回数(68回)と衛星数(失敗も含め275機)は過去最多であった。

 中国科学院は10月15日に「宇宙科学中長期発展計画」を発表し、2050年までの時期別に宇宙科学プロジェクトの選定の進め方などを示した。航行測位分野でも2035年に次世代システムに移行することを発表した。

2024年第4四半期までの世界のロケット打ち上げ状況

 本期間の「衛星打ち上げ用ロケット」(以下、単に「ロケット」という)の打ち上げ回数は、中国が22回(うち1回は「中科1」の失敗)、米国が41回、ロシアが6回、ニュージーランド(NZ)が3回、欧州が1回、日本が2回(うち1回は「KAIROS」の失敗)、インドが2回、イランが1回で、全世界で78回(うち2回失敗)であった。表1に2024年12月末までの世界各国のロケット打ち上げ回数を示す。

表1 2024年12月までの世界のロケット打ち上げ回数 ★は打ち上げ失敗(内数)、☆は部分失敗(同)
*1 米国の[ ]内はスペースX社の打ち上げ回数(内訳)
期間 中国 米国*1 ロシア NZ 欧州 日本 インド イラン 北朝鮮 世界計
1月-3月 14 32[31] 5 4   3(★1) 2 2   62(★1)
4月-6月 16 38[36] 3 4         1(★1) 62(★1)
7月-9月 16(★1) 29
[28(☆1)]
3 3 2(☆1) 2 1 1   57(★1)(☆2)
10月-12月 22
(★1)
41[40] 6 3 1 2
(★1)
2 1   78(★2)
68(★2) 140
[135(☆1)]
17 14 3(☆1) 7
(★2)
5 4 1
(★1)
259(★5)
(☆2)

中国と米スペースX社のロケット・衛星打ち上げ状況

 この期間に中国は22回の打ち上げ(うち1回失敗)を行い、自国衛星103機(うち10機失敗)及び外国衛星2機(うち1機失敗)を打ち上げた。自国衛星のうち、地球観測衛星は30機(うち「雲遥」6機と「仰望」の計7機は失敗)、通信放送衛星は54機(インターネット衛星48機、IoT衛星 4機 を含む)、有人用宇宙機は2機、宇宙科学衛星は3機(うち1機失敗)、技術試験衛星は14機(うち2機失敗)である。外国衛星はオマーンとフランス(失敗)であった。

 表2に中国の打ち上げに使われたロケットや軌道投入された衛星などの一覧表、表3にロケット種別による2024年12月末までの中国の打ち上げ回数と衛星数を示す。

表2 2024年10月1日から12月31日までの中国のロケット・人工衛星打ち上げ状況
国際標識番号の*は英字が未定であることを示す。
衛星名 国際標識番号 打上げ年月日 打上げロケット 射場 衛星保有者 ミッション 軌道
Hulianwang Gaogui 03 互聯網高軌 2024-181A 2024/10/11 長征3B/G 西昌 国網 通信放送 GEO
Qianfan Jigui
G02 1-18
千帆極軌 2024-183A~183T 2024/10/15 長征6A 太原 上海垣信衛星科技 通信放送 SSO
Gaofen 12-05 高分 2024-184A 2024/10/15 長征4C 酒泉 不明 地球観測 SSO
Tianping 3A-01 天平 2024-189* 2024/10/22 長征6 太原 CAST 技術試験 LEO
Tianping 2B
Tianping 2C
Yaogan 43-03
1
遥感 2024-190* 2024/10/23 長征2C(3) 西昌 PLA 地球観測 LEO
Yaogan 43-03
2
2024-190*
Yaogan 43-03
3
2024-190*
Shenzhou 19 神舟 2024-194A 2024/10/29 長征2F/G 酒泉 CMSEO 有人宇宙船 LEO
PIESAT 2-1 宏図 2024-203* 2024/11/9 長征2C(3) 酒泉 航天宏図 地球観測 LEO
PIESAT 2-2 2024-203*
PIESAT 2-3 2024-203*
PIESAT 2-4 2024-203*
Shiyan 26A 試験 2024-205* 2024/11/11 中科1 酒泉 CASC 技術試験 LEO
Shiyan 26B 2024-205*
Shiyan 26C 2024-205*
Jilin 1
Gaofen 05B
吉林高分 2024-205* 長光衛星技術 地球観測
Jilin 1
Pingtai 02A-03
吉林平台 2024-205*
Yunyao 1 31 雲遥 2024-205* 天津雲遥 地球観測
Yunyao 1 32 2024-205*
Yunyao 1 33 2024-205*
Yunyao 1 34 2024-205*
Yunyao 1 35 2024-205*
Yunyao 1 36 2024-205*
Xiguang-1 04 西光 2024-205* 西光航天科技公司 技術試験
Xiguang-1 05 2024-205*
Tianyan 24 天雁 2024-205* 電子科技大 地球観測
Omansat 1   2024-205* オマーン 技術試験
Haiyang 4A 海洋 2024-208A 2024/11/13 長征4B 太原 CAST 地球観測 SSO
Tianzhou 8 天舟 2024-211A 2024/11/15 長征7 文昌 CMSEO 貨物輸送 LEO
Siwei Gaojing 03 四緯高景 2024-218A 2024/11/24 長征2C(3) 酒泉 中国四维測絵技術総公司 地球観測 LEO
Siwei Gaojing 04 2024-218B
Guangchuan 01 光伝 2024-220A 2024/11/27 朱雀2 酒泉 不明 宇宙科学 LEO
Guangchuan 02 2024-220B
Weixing Hulianwng Jishu Shiyan 衛星互聯網技術試験 2024-226A 2024/11/30 長征12 文昌 CASC 通信放送 LEO
Jishu Shiyan 03 技術試験 2024-226B 技術試験
Tongxin Jishu Shiyan 13 通信技術試験 2024-227A 2024/12/3 長征3B /G2(2) 西昌 CASC  通信放送 GEO
AIRSAT 08
(Haishao)
海哨 2024-228A 2024/12/4 快舟1A-Pro 西昌 空天信息創新研究院 地球観測 LEO
Qianfan Jigui
G03 1-18
千帆極軌 2024-232A~232T 2024/12/5 長征6A 太原 上海垣信衛星科技 通信放送 SSO
Gaosu Jiguang Zuanshi Xingzuo
Shiyan Xitong
01~05
高速激光鑽石
星座試験系統
2024-238* 2024/12/12 長征2D(2)/YZ3 酒泉 CASC 技術試験 LEO
Weixing Hulianwang
Jishu Shiyan
5A 01-10
衛星互聯網技術試験 2024-240* 2024/12/16 長征5B)/YZ3 文昌 CAST 通信放送 GEO
PIEST 2 09-12(4機)
(Hongtu)
宏図 2024-241* 2024/12/16 長征2D(2)/YZ3 太原 航天宏図 地球観測 LEO
Tianqi 33-36 天啓 2024-245* 2024/12/16 穀神星-IS 洋上 北京国高科科技 IoT LEO
Tongxin Jishu Shiyan 12 通信技術試験 2024-246A 2024/12/20 長征3B/G2(2) 西昌 CAST 通信放送 GEO
DEAR3 廸邇 2024-F05 2024/12/27 中科1 酒泉   宇宙実験 打ち上げ失敗
Yunyao 1 x1-x6(6機) 雲遥 2024-F05 天津雲遥 気象
Yinglong 1 応龍 2024-F05   技術試験
Yangwang 2 仰望 2024-F05 深圳東方紅 地球観測
Yixian A 逸仙 2024-F05 孫中山宇航学校 技術試験
CASAa-sat   2024-F05 フランス 技術試験
表3 ロケット種別による2024年12月末までの中国の打ち上げ回数と衛星数
<CASCのロケット系列>
衛星数の( )は外国衛星の内訳
ロケット種別 長征2 長征3 長征4 長征5 長征6 長征7 長征8 長征12 捷龍
打ち上げ回数 18 8 6 3 8 4 1 1 2
衛星数 52 10(1) 19 13(1) 74 5 3 2 14(1)
<CASC以外のロケット>
ロケット種別 快舟 中科(力箭) 双曲線 穀神星 朱雀 引力 CASC+
CASC以外の計
打ち上げ機関 CASIC 中科宇航 星際栄耀 星河動力 藍箭航天 東方空間
打ち上げ回数 5 4(★1) 1(★1) 5 1 1 68(★2)
衛星数 14 39(1)
(★1(1))
3(★3) 23 2 3 276(4)
(★4(1))

 スペースX社はFalcon HeavyによるESAの木星探査機「Europe Clipper」の他、Falcon 9の39回の打ち上げでNASAの貨物輸送船「Dragon CRS-31」と日本などの小型衛星5機、ESAの太陽周回衛星「Hera」など3機、英国の「Oneweb」20機及び「O3b mPower」2機、韓国の「Koreasat 6A」、オーストラリアの「Optus X」、インドの「GSat 20」、フィリピンの「Agila」と米衛星3機、米国NROの偵察衛星17機・21機・20機の3回、「GPS 3-7」、「SXM-9」、世界各国の衛星28機、自社のLEO通信衛星「Starlink」530機(打ち上げ回数25回、上記と別のNRO衛星2機も相乗りで同時打ち上げ)を行った。以上の合計で計659機となる。

宇宙ミッション1 地球観測分野

(1) 中央政府の地球観測衛星

 ① 10月15日、CASCは光学観測衛星「高分(Gaofen)12-05」を長征4Cロケットにより打ち上げた[1]。軌道の高度は約600kmである。

 ②11月13日、中国空間技術研究院(CAST)は海水塩分の観測を行う海洋観測衛星「海洋4A」を長征4Bロケットにより打ち上げた[2]

(2) 人民解放軍(PLA)の地球観測衛星

 ① 10月23日、PLAは「遥感43号03組」で衛星3機(01-03)を長征2Cロケットにより打ち上げた[3]。8月の遥感43 01組と9月の同02組は長征4Bによる打ち上げであったが、今回長征2Cが使われたのは搭載衛星数の差による。遥感43 01組の場合、9機同時だったためLEO4200kgの投入能力を持つ長征4Bが必要で、それより少ない6機同時の遥感43 02組も同様だったが、今回は3機なので、LEO2500kgの能力しかない長征2Cでも打ち上げ可能となった。

(3) 中国科学院(CAS)空天信息創新研究院(AIR)

 12月4日にAIRが打ち上げた「海哨(Haishao)」(別名:AIR 8)は海南省付近の海洋監視のためのSARを搭載している。

(4)民間の地球観測衛星

 ① 長光衛星技術公司
 11月11日、長光衛星技術公司は「吉林(Jilin)1高分(Gaofen)」05Bと「吉林1 平台(Pingtai)」02A-03を中科1ロケットによりオマーン衛星「Omansat 1」他13機と相乗りで打ち上げた。
「吉林1 平台02A-03」には宇宙科学の天格計画で計画している24機の搭載ペイロードのうち11番目を搭載した。

 ② 航天宏図公司(Galaxy Space)
 11月9日、航天宏図公司はレーダ衛星「PIESAT 2-01」の2組目の4機を長征2Cロケットにより、また12月16日には3組目の4機(09~12)を打ち上げた[4]。累積衛星数は12機となった。

 ③ 中国四緯測絵技術公司
 11月24日、中国四維絵技術公司はレーダ衛星「四維高景(Siwei Gaojing)」03,04の2機を打ち上げた[5]

 ④ 天津雲遥公司
 11月11日、天津雲遥公司は気象観測衛星「雲遥(Yunyao)」6機を吉林衛星などとともに中科1ロケットにより打ち上げた。
 12月27日にも中科1ロケットにより同じ衛星6機を打ち上げようとしたが、ロケットの不具合によりフランスの衛星を含む11機の衛星全ての軌道投入に失敗した。

宇宙ミッション2 通信放送分野

(1)中央政府の通信事業

 ① 国網のインターネット衛星
 10月11日、国有企業の国家電網(国網)はインターネット中継用の静止衛星の3機目を長征3Bロケットにより打ち上げた[6]

 ② CASTのインターネット衛星試験衛星
 12月16日、CASTは「衛星互聯網技術試験」10機を長征5B/遠征2ロケットにより高度440kmの極軌道に打ち上げた。長征5Bと遠征2を組み合わせたバージョンは初めての打ち上げで、長征5の極軌道への打ち上げもこれまで見られなかった。

 ③ 上海垣信衛星科技の極軌道インターネット衛星
 10月15日、上海垣信衛星科技[7]は極軌道のインターネット衛星「千帆極軌(Qianfan Jigui)02」18機を長征6Aロケットにより打ち上げた[8]。続いて12月5日にも3組目の打ち上げを行った[9]。8月打ち上げ分と合わせて54機となった。当面の目標は108機で、最終的に14,000機を目指している。米国スペースX社のスターリンク計画に対抗しようとしているとみられる。

 ④ CASTの通信技術試験衛星
 12月3日、CASCは「通信技術試験13号」を打ち上げた[10]。続いて12月20日に「同12号」を長征3B /G2(2)ロケットにより打ち上げた[11]。いずれも静止衛星である。このシリーズは技術試験と称しているが、推測されるミッションは通信放送衛星やミサイル早期警戒など軍事に関わる実用的な段階に入っているものが含まれると思われる。

(2)民間企業の通信衛星

 ① 北京国電高科科技IoT衛星
 9月20日、北京国電高科科技はIoT衛星「天啓(Tianqi)」4機を穀神星-ISロケットにより打ち上げた。

宇宙ミッション3 航行測位分野

 11月28日、中国衛星航法システム弁公室(CSNO)は、北京で開催された北斗システム構築30周年のシンポジウムにおいて「2035年までの北斗衛星航法システム開発計画」を発表した[12]。2035年までに次世代北斗システムを構築するとのことである。全世界の北斗利用国は130以上にのぼるとしている[13]。また北斗製品は140以上の国・地域に輸出され、民間航空・海事・移動通信など13の国際機関の標準システムに登録されている。将来的には、中国は北斗3号システムの安定稼働を確保し、より高度な技術、より強力な機能、より優れたサービスを備えた次世代北斗システムを構築するため、2027年頃に3機のパイロット試験衛星を打ち上げ、次世代新技術システムの試験を開始する予定だ。

宇宙ミッション4 有人宇宙活動分野

 10月22日、中国は「神舟(Shenzhou)19号」と組み合わせた長征2Fを射場に搬入した[14]。10月29日、宇宙飛行士3名を搭載した神舟19号を文昌から打ち上げ、中国宇宙ステーション(CSS)とのドッキングに成功した[15]。宇宙飛行士は蔡旭哲(2回目)、宋令東(初)、王浩沢(初、女性)の3名で、12月17日に第1回目の船外活動を行った[16]

 10月28日、中国載人航天工程弁公室(CMSEO)は2025年に打ち上げる予定の「神舟20号」「神舟21号」「天舟(Tianzhou)9号」のミッション標識の募集を公告した[17]

 11月4日、「神舟18号」が無事帰還した[18]

 11月15日、CMSEOは貨物輸送船「天舟8号」を打ち上げた。それに先立って、11月5日に「天舟8号」のミッション標識を発表した[19]

image

天舟8号のミッション標識

宇宙ミッション5 宇宙科学分野

(1) 天格計画(GRID)

 天格計画とは、高度600kmに24機の小型衛星群を格子状に配置して、重力波源の天体からのガンマ線バーストの観測を行うもので、2018年から計画の半分程度まで進んでおり、11月27日に朱雀ロケットで打ち上げられた「光伝」衛星2機[20]は、ほぼ中間にあたる12番目と13番目の搭載ペイロードとなった。天格計画のフルネームは「空间分布式伽马射线暴探测网(Gamma Ray Integrated Detectors, GRID)」で研究活動は清華大学や四川大学などが主導している[21]

(2)宇宙育種

 宇宙実験衛星「廸邇(Dier)3」(別名:DEAR 3)は12月27日に雲遥など他の10機の衛星とともに中科1ロケットにより打ち上げられたが、ロケットの不具合により打ち上げ失敗に終わった。

宇宙ミッション6 新技術実証分野

(1)中央政府の技術試験衛星

 ① 11月11日、CASCは技術試験衛星「試験(Shiyan)26」3機(A~C)を中科1ロケットにより打ち上げた。

 ② 11月30日、CASTは「技術試験」衛星をインターネット試験衛星とともに長征12ロケットにより打ち上げた[22]

 ③ 10月22日、CASTは技術試験衛星「天平(Tianping)」3機を長征6ロケットにより打ち上げた[23]

 ④ 12月12日、長征2Dロケットにより「高速激光鑽石星座試験系統」の衛星5機を打ち上げた[24]。「鑽石」とは、ダイヤモンドの意味である。

 ⑤ 12月27日の中科1ロケットの打ち上げ失敗では応龍(Yinglong)、逸仙(Yixian)[25]及びフランスの衛星など3機の技術試験衛星が軌道投入失敗となった。

宇宙ミッション7 宇宙輸送分野

(1)宇宙往還機の開発

 10月11日、CASTは9月27日に打ち上げた宇宙往還機「実践19号」の回収に成功した[26]

 実践19号により、再利用可能、非破壊回収、高微小重力保障などの主要技術について、新世代の高性能再利用可能帰還型宇宙試験プラットフォームの技術指標が検証された。

(2)長征12型ロケット

 SASTは直径3.8mの大型液体ロケット「長征12」の初打ち上げに成功した。第1段に主エンジンを4機装備し、補助ブースターなしで長征7号を上回るLEO12トンの高性能を実現した。

(3)中科1ロケットが初の失敗

 12月27日、11機の衛星を搭載した中科1号が第3段固体ロケットの姿勢が不安定となって自動安全システムにより自爆し、打ち上げに失敗した。これまでに初打ち上げから5回連続で成功しており、今回の初失敗で打ち上げ成功率が83.3%(5/6)となった。2024年の2回の打ち上げ失敗が、いずれも固体燃料ロケットであることにも関心がもたれている。

参考資料:中国の宇宙科学中長期発展計画(仮訳)

 10月15日、中国科学院は「宇宙科学中長期発展計画」を発表した[27]。中国における2050年までの宇宙科学発展の進め方を詳細に検討しており、中国の宇宙開発動向を知る上で有用な資料と思われるので、全文の仮訳を行った。

1.発展目標

(1)全体目標

 国家宇宙科学ミッションを段階的に計画、論証、実施し、ミッション駆動型の基礎研究を調整・強化し、ハイレベルの宇宙科学人材チームを構築し、国際的に大きな影響力を持つ象徴的で独創的な成果を継続的に獲得し、質の高い宇宙開発を実現する革新的なブレークスルーにより宇宙応用の高度化を促進し、世界の最前列に立ち、宇宙科学強国となる。

(2)段階的目標

 ① 2027年まで

 科学研究のレベルを全体的に飛躍させ、高エネルギー時間領域天文学、太陽-地球系、月と火星の形成と進化、微小重力物理、宇宙生命などについて、強力な基盤と優位性を持つ分野で世界トップクラスの成果を出し続ける。

 数多くの宇宙科学ミッションが実施できることを実証し、暗黒物質、極限宇宙、重力波、原始星雲、系外惑星、太陽活動、太陽系、地球系などの科学フロンティアにおける5~8件の宇宙科学ミッションを選定し、画期的な結果が期待できる2 ~3 件の大規模ミッションを見出す。

 宇宙開発発展の新たなパターンを構築する上で重要な進展を成し遂げ、宇宙科学分野における「リーダー」と「パイオニア」のグループを生み出し、人材の育成を新たなレベルに進め、国際的な地位と影響力を絶えず高め続ける。

 ② 2028~2035年

 中・低周波の重力波、宇宙の暗黒時代、居住可能な地球型惑星の発見、太陽活動と地球系の応答、月の現地資源利用、火星の生命の兆候。ブラックホールと中性子星、暗黒物質・暗黒エネルギーなどの分野で、世界の最前線という重点的方向性の中で独自の成果が次々と生まれ、イノベーション型国家の最前線に立つことを示す。

 初期宇宙、極限天体の新しい物理学、居住可能な近くの系外惑星、初期太陽系考古学、地球外生命体の探査、太陽爆発とコロナ加熱メカニズムなどの科学フロンティアを実証および実装するための一連の宇宙科学ミッション、太陽系エッジ検出など、4~5件の大規模ミッションを含む約15件の宇宙科学ミッションを論証し、実施する。

 中国の宇宙科学、宇宙技術、宇宙応用の総合的発展を実現し、宇宙科学分野における人材競争で比較優位を形成し、国家戦略的な人材力とリーダー人材チームが世界の最前線に立つようにする。

 ③ 2036 ~2050 年

 重要な分野で国際的リーダーとなり、世界の宇宙科学強国となる。中国が、宇宙の起源と進化、空間と時間の性質、太陽系と生命の起源、有人深宇宙探査において革命的な基礎研究の進歩を遂げ、人類の知識の範囲を拡大し、人類文明の進歩を促進する。

 世界の宇宙科学の発展方向を主導し、30件以上の宇宙科学ミッションを論証および実施し、新たな科学技術革命において核となる競争力と強力なリーダーシップを備える。

 世界トップクラスの科学人材チームを集め、世界の主要な宇宙科学センターとイノベーション・ハイランドを建設し、強力な社会主義近代化強国の重要な象徴となる。

2. 優先的な発展の方向性

 世界の宇宙科学の最前線と主要な国家戦略的ニーズを見据え、分野、人材チーム、工学技術における我が国の既存の優位性と特性に基づき、画期的な成果を達成するために、中国が期待される5つの主要な科学テーマと優先的な発展の方向性を凝縮して形成する。

 ① 「極限の宇宙」のテーマ。宇宙の起源と進化を探求し、極限の宇宙条件下での物理法則を明らかにする。優先的な発展の方向性には、暗黒物質と極限宇宙、宇宙の起源と進化、宇宙バリオン物質の検出が含まれる。解決すべき主要な科学的問題には、暗黒物質粒子の性質と宇宙の高エネルギー放射線源、暗黒エネルギーの性質、ダイナミックな宇宙探査と一時的発生源の物理的メカニズム、暗黒時代と宇宙の再電離の歴史宇宙、星や惑星系の起源と進化、バリオンの物質循環とフィードバックなどが含まれる。

 ② 「時空のさざ波」のテーマ。低周波および中周波の重力波と原始重力波を検出して、重力と時空の性質を明らかにする。優先的な発展の方向性は宇宙重力波検出である。解決すべき主な科学的問題には、超大質量のブラックホールとブラックホールの種の形成、それらのホスト銀河との共進化、ブラックホール近くの強い重力場の微細構造とコンパクトな天体の分布と物理的特性、初期のブラックホールのテスト、宇宙論的モデルなどが含まれる。

 ③ 「太陽と地球の全体像」のテーマ。地球、太陽、太陽圏を探索し、太陽と地球の複雑な系および太陽と太陽系全体の物理的プロセスと法則を明らかにする。優先的な発展の方向性には、地球循環システム、包括的な地球・月観測、宇宙天気探査、太陽立体探査、太陽圏外縁探査が含まれる。解決すべき主な科学的問題には、太陽磁気活動の特徴と磁気サイクルの起源メカニズム、太陽風擾乱の三次元伝播と進化の法則、太陽風と磁気圏間のスケールを越えたエネルギー伝達と散逸のメカニズム、磁気圏・電離層・熱圏結合、地球系多層間のクロススケール相互作用、太陽風・星間物質相互作用の過程とメカニズムなどが含まれる。

 ④ 「居住可能な惑星」のテーマ。太陽系天体や系外惑星の居住可能性を調査し、地球外生命体の探索を実行する。優先的な発展の方向性には、持続可能な開発、太陽系考古学、惑星層構造の描写、地球外生命体の探査、系外惑星の探査が含まれる。解決すべき主要な科学的問題には、月の深層物質、球形構造と初期衝突の歴史、小惑星/彗星の起源と進化、火星の居住可能な環境と生命信号の進化、太陽風と木星の磁気圏の相互作用、氷の衛星と氷の巨星、居住可能な環境と生命信号の検出、系外惑星の居住性と生命の特徴などが含まれる。

 ⑤ 「宇宙探査」のテーマ。宇宙条件下での物質運動や生命活動の法則を解き明かし、量子力学や一般相対性理論などの基礎物理学への理解を深める。優先的な発展の方向性には、微小重力科学、量子力学と一般相対性理論、宇宙生命科学が含まれる。解決すべき主要な科学的課題には、新しい微小重力マルチプロセス結合システムの下での複雑流体物理学の基礎理論、重力場における量子効果、一般相対性理論の高精度実験と新しい物理的探査、宇宙環境適応性と宇宙環境適応性、地球上生命の生存戦略などが含まれる。

3.発展ルートマップ

 5つの主要な科学テーマをめぐって、優先的な発展の方向性に焦点を当て、2027年まで、2028年から2035年、2036年から2050年までの3段階で実施する科学ミッション計画を提案し、2050年までの我が国の宇宙科学発展のロードマップを形成する。

 2027年までの第1段階では、中国宇宙ステーションの運営、有人月探査、第4段階の月探査プロジェクトおよび惑星探査プロジェクトを実施し、国際的に重要な影響力を持つ多くの独自の成果を形成する。

 宇宙X線等のマルチバンドシグナルの共同観測、X線熱バリオン探査、宇宙重力波探測、太陽極軌道探測などから大規模ミッションを2~3件選択する。ダークマター(暗黒物質)粒子探測、宇宙超長波観測、宇宙赤外線観測、隠れた自然地形検出、透明海洋コンステレーション、全天候三次元風観測、地球放射線エネルギー収支探査、地球磁気圏クロススケールコンステレーション、太陽-地球系L5点からの太陽観測、宇宙ベースソーラー 電波アレイ観測、人類の活動の痕跡の精密観測、地球全体の植生バイオマスの時空パターン、木星系の観測、系外惑星の検出など中小型および機会遭遇ミッションから3~5件選択する。

 2028年から2035年までの第2段階では、第1段階の課題の実施を通じて、世界をリードする独自の成果を達成する。中国宇宙ステーションを運用し、有人月探査、月科学研究ステーション、太陽系エッジ検出、巨大惑星系検出、金星大気サンプリングリターンなどの科学ミッションを実施する。

 宇宙での高精度赤外線観測、天体の潮汐力が誘発する地震の総合観測、太陽周回探知、宇宙高エネルギー、X線探知、宇宙重力波探知などのミッションと、2027年の計画段階で承認されていない大規模ミッションから、4~5件の大規模ミッションを選定する。紫外線天文観測、海洋エネルギー準位コンステレーション、臨界領域における横断結合プロセスの観測、境界層熱力学構造および化学組成観測、地球規模の高精度地磁場コンステレーション、地応力観測、地球放射線帯探査、宇宙気象源探査、太陽高エネルギー探査、四極(極マクロ・極ミクロ・極端な条件・極めて総合的かつ交差的)協同科学観測、地球動的変化観測、小惑星検出、系外惑星の衛星の検出などのミッションの方向性と、2027年までに承認されていない中小規模のミッションの中から、機会遭遇型のタスクを10~11件選定する。

 2036年から2050年までの第3段階では、中国の宇宙科学の重要分野が世界をリードするレベルに達する。5~6件の大規模ミッションと、約25件の中小規模および機会遭遇ミッションを実施する。

以上


[1]2024年10月16日、CASC、长四丙火箭成功发射高分十二号05星

[2]2024年11月14日、CASC、长四乙火箭成功发射我国首颗海洋盐度探测卫星

[3]2024年10月23日、CASC、长二丙火箭发射遥感四十三号03组卫星

[4]2024年11月09日、CASC、长二丙“一箭四星”发射取得圆满成功

[5]2024年11月25日、CASC、长二丙火箭成功发射四维高景二号03、04星

[6]2024年10月10日、CASC、长三乙成功发射卫星互联网高轨卫星03星

[7]百度百科、上海垣信卫星科技有限公司

[8]2024年10月15日、CASC、长六改火箭以一箭18星方式成功发射千帆极轨02组卫星

[9]2024年12月05日、CASC、长六改火箭成功发射千帆极轨03组卫星

[10]2024年12月03日、CASC、长征三号乙火箭成功发射通信技术试验卫星十三号

[11]2024年12月22日、CASC、长三乙火箭成功发射通信技术试验卫星十二号

[12]2024年11月29日、CASC、我国将于2035年完成下一代北斗系统建设

[13]2024年11月1日、中国航天報、北斗系统服务及相关产品输出到130余个国家

[14]2024年10月22日、CASC、神舟十九号载人飞船与长征二号F遥十九运载火箭组合体转运至发射区

[15]2024年10月30日、CASC、长二F运载火箭成功发射神舟十九号载人飞船

[16]2024年12月19日、CASC、神舟十九号乘组圆满完成首次出舱活动

[17]2024年10月28日、中国载人航天工程官方网站、2025年度载人航天飞行任务标识征集活动公告

[18]2024年11月04日、CASC、神舟十八号载人飞行任务取得圆满成功

[19]2024年11月05日、中国载人航天工程官方网站、天舟八号飞行任务标识调整公告

[20]2024年11月28日、人民網、朱雀二号改进型遥一运载火箭发射成功

[21]百度百科、天格计划

[22]2024年11月30日、CASC、我国首型4米级直径运载火箭长征十二号首飞成功

[23]2024年10月22日、CASC、长征六号火箭成功发射天平三号卫星

[24]2024年12月12日、CASC、长征二号丁火箭/远征三号上面级成功发射高速激光钻石星座试验系统

[25]2024年11月13日、中山大学、一群大学生自己做了颗卫星?还准备上天!

[26]2024年10月12日、CASC、我国成功回收首颗可重复使用返回式技术试验卫星实践十九号

[27]中国科学院、国家空间科学中长期发展规划(2024-2050年)


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