【25-010】ノイズの影響で量子優位性が突然消えることを発見
都 芃(科技日報記者) 2025年01月31日

量子コンピューティングの概念図。(画像提供:視覚中国)
清華大学丘成桐数学科学センターの魏朝暉助理教授(アシスタント・プロフェッサー)、交叉信息研究院博士課程生の孫維孝氏、同センター博士課程生の魏付川氏と邵鈺菓氏からなる科学研究チームが、量子計算の研究で重要な進展を遂げた。チームは、段階的に強まるノイズが量子優位性に与える影響の動的プロセス全体を描き出すことに成功するとともに、ノイズが量子優位性を突然消失させるという特異な現象を偶然突き止めた。関連論文は国際的学術誌「Science Advances」に掲載された。
人類は長年にわたり、大規模な量子コンピューターを作り出し、計算能力の飛躍的発展を実現するという壮大な目標を掲げてきた。現在は、この目標達成を阻む多くのハードルが存在しており、その一つが、量子情報には脆弱性があり、ノイズによる干渉を受けやすく、従来の計算に対する量子計算の優位性が弱まってしまうことだ。ノイズとは、量子計算の過程で発生し、量子情報処理を干渉したり、それに影響を与える環境的干渉や測量の誤差、量子ゲート操作の不正確さなどの不確定要素を指す。ノイズが量子計算の優位性にどのような影響を与え、どう破壊するのかを研究することは、量子計算における重要な理論研究の一つとなっている。
研究者は早くから、ノイズが強すぎると古典的なコンピューターが量子計算をすぐにシミュレーションしてしまい、量子の優位性が完全に消失することを認識していた。しかし、ノイズが比較的弱い場合、その状況はかなり複雑になる。優れた量子アルゴリズムにおいては、ノイズの影響が特に際立っている。もし、ノイズの強度が0から徐々に増強された場合、量子優位性の動的プロセスを、正確に描き出すためにはどうすれば良いのか。量子計算を大規模プロジェクトで応用するためには、その動的プロセスを理解することが極めて重要だが、この問題に対する人々の理解はまだ非常に限られている。
この動的プロセスを描き出すためには、2つの難題を解決しなければならない。まず、ノイズの干渉がない状況下でも、量子優位性自体を正確に描き出すのは、至難の業であるという点だ。次に、量子計算におけるノイズの数学的構造が非常に複雑で、このことはノイズが存在する場合における量子優位性研究の足かせとなっている。
魏氏と共同研究者はここ数年の研究で、アソシエーション生成モデルが量子優位性の理論研究に対して全く新しい視点を提供することを突き止めた。このモデルは、量子優位性の正確に可視化できる理論モデルで、ノイズが量子優位性にどのような影響を与えるかについて研究する可能性を開いた。アソシエーション生成モデルをベースにして、研究チームは徐々に増強されるノイズが量子優位性に影響を与える動的プロセス全体を描き出すことに成功した。そしてチームは、比較的強いノイズがこの種のモデルのアクセス可能性に与える影響について踏み込んで研究するとともに、比較的弱いノイズが量子プロトコルの代価にどのような影響を与えるかについても詳しく分析した。
チームは量子計算の研究において、特異な現象を偶然発見した。それは、量子情報処理プロトコルにおけるノイズの強度がある閾値を超えると、それまで非常に際立っていた量子優位性が突然消える可能性があるというものだ。この発見は、ノイズが増加するにつれて量子コンピューターの性能が徐々に低下するという従来の直感に反している。この現象を詳細に分析することで、研究者らは量子優位性がいつ突然消えるのかについて、踏み込んだ数学的描写を提供した。これは量子計算において、ノイズが量子優位性を突然消失させる現象を学術界が初めて発見したもので、ノイズが量子計算に大きな害をもたらすことを全く新しい視点から明らかにしている。
今回の発見は、量子情報処理においてノイズの害がより強烈な形で現れる可能性があることを物語っている。研究者は今後も研究を続け、この量子計算における重要な問題への理解を深める必要があるという。また、将来的に量子計算が幅広く応用されるようになっても、ノイズが量子優位性に与える影響を深く理解することは、非常に重要である。この理解は、高コストな量子エラー訂正メカニズムをより効率的に導入する方法に対し、指針を提供することができるだろう。
※本稿は、科技日報「噪声会导致量子优势突然消亡」(2024年12月30日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。