【25-013】浸透性マイクロニードルパッチで「貼る点滴」が可能に
江 耘(科技日報記者) 査 蒙(科技日報通信員) 2025年02月10日

研究チームが開発した浸透性マイクロニードルパッチ。(取材先提供)
一般的に「点滴」と呼ばれる静脈注射は、薬の歴史における画期的な発明だ。しかし「点滴」を打つ場合、専門の医療従事者の助けが必要であるほか、患者は長時間病院に留まり、終わるまで待たなければならず、行動が制限されるため、もどかしく感じる人も多い。
浙江大学薬学院の顧臻教授、張宇琪研究員、兪計成研究員からなる研究チームと、浙江大学医学院付属第一医院、首都医科大学付属北京朝陽医院の主鴻鵠主任医師率いるチームの研究論文がこのほど、国際的学術誌「Science Translational Medicine」に掲載され、共同チームが研究開発した浸透性マイクロニードルパッチ(OMN)が紹介された。コインほどの大きさで、厚さが5ミリにも満たない超小型「輸液バッグ」を使うと、低侵襲性かつ安定的に大量の薬を体内に投与することができるという。
限界がある静脈注射
静脈注射は、静脈穿刺によって液体薬剤を直接血液に送達する薬剤送達技術だ。その作用プロセスは主に重力に依存しており、事前に配合した液体薬剤をゆっくりかつ継続的に患者の静脈に送達し続ける必要がある。
現在は、がんや細菌感染などの治療で化学療法薬や抗生物質、鎮痛薬といった半減期が短い薬を大量に使用することがあり、患者は安定的に薬の投与を受けるか、複数回の静脈注射を受けるために入院することが多い。
2021年初め、顧氏率いるチームは、ある急性骨髄性白血病の患者が長時間静脈注射を受けたことが原因で、腕に広範囲の赤みや腫れ、あざができたことに気づいた。急性骨髄性白血病の治療初期では、患者は72時間連続で静脈注射を投与され、血液の凝固機能が低下するため、治療過程でより苦痛を感じ、精神状態にも影響を与えてしまう。
当該患者の事例をもとに、顧氏と主氏は、静脈注射による治療効率を高め、患者の苦痛をいかに軽減するかについて検討し、研究を進めた。顧氏は「静脈注射を避けて、皮膚から薬を透過させる薬剤送達装置を開発できないか検討した。従来の静脈注射薬の保存形式をどのように変え、静脈注射の重力や輸液ポンプによる駆動への依存からどう抜け出すかというのが、チームとして攻略すべき課題となった」と説明した。
超小型「輸液バッグ」でゆっくりと薬を投与
共同研究チームは、徐放性製剤の作用原理にヒントを得て、浸透圧ポンプ技術と経皮マイクロニードル装置の革新的な統合を行い、3年間の改良期間を経て、OMNを開発した。OMNには2グラム以上の薬を入れることができ、内部は薬の層と水の層に分かれている。薬の層の下には、長さ2ミリ以下で、直径約0.2ミリの中空マイクロニードルが3本伸びている。従来の静脈注射と比べると、OMNはコンパクトで、持ち運びが簡単という大きな特徴があり、絆創膏のように直接皮膚に貼って皮膚から体内に薬を送達することができる。
共同チームは、専用の金型を設計し、急性骨髄性白血病の治療に使われる抗がん剤の一つであるシタラビンを、特殊な圧縮成形技術を使って薬の層に入れた。薬を使う時は、医薬品ボックスに入っている注射器で専用の溶剤を水の層に注入すると、溶剤が半透膜を透過して薬の層に入って薬を溶かすことができる。薬の層と水の層に発生する浸透圧の差を駆動力として利用し、中空型マイクロニードルアレイを通じて、薬の溶液を安定した速度で体内へと送達することができる。
成果の開発者の一人である浙江大学薬学院の趙昇研究員は「採用している圧縮錠剤薬物送達技術は、低分子やポリペプチド、タンパク質の医薬品などの常温下における安定性を高めることができ、常温での保存と輸送の利便性という面で明らかな強みがある」と説明した。
共同チームは、対照実験を通じて、シタラビンもしくは糖尿病薬であるエキセナチドの錠剤を入れたOMNを動物に貼ると、24時間連続で薬を投与できることを確認した。皮下注射と比べると、OMNはがんの抑制と血糖値を下げる面で効果が非常に高いという。また、シタラビンを入れたOMNは、大型動物モデルで、225ミリグラムの薬を安定的に放出することができ、臨床治療における成人患者の1日投与量である150~300ミリグラムの要件を満たすのに十分であった。効果の持続時間も皮下注射の3倍になるという。
趙氏は「OMNは抗生物質の投与など、一部の感染症や代謝性疾患の治療に適している。既存の設計仕様の場合、臨床で使用されるほとんどの薬の1日分の投与量を満たすことができる。共同チームは現在、複数の実験動物を使って、OMNの抗がん薬や血糖降下剤といった薬について、大量、長時間、安定の面から投与可能かどうかについて検証した。OMNで使っている全ての原材料は、薬品監督管理当局の承認を受けており、その安全性も保証されている」と説明した。
このOMNは、部品を組み立てる方法を採用することで大量生産が可能になる。張氏は「この技術が臨床治療においてさらに大きな役割を果たすようになると期待している。低分子薬の安定した送達だけでなく、ポリペプチドやタンパク質や核酸といった薬の持続的な放出にも用いることができ、感染症やがん、脳・心血管疾患、糖尿病の治療をサポートすることができる。このOMNは、患者が自宅や移動中、仕事場などでも使える可能性があり、重力に依存していないため、将来は宇宙での医療にも応用できる可能性がある。薬の投与が今後、さらに便利になるだろう」と強調した。
※本稿は、科技日報「"打点滴"像用创可贴一样方便」(2024年12月31日付8面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。