【25-017】高速列車の窓にスマートウォッチを張り付けると取れなくなるのはなぜ?
薛 岩(科技日報記者) 2025年02月19日

(画像:視覚中国)
中国では春節(旧正月)連休が終わり、多くの人が故郷に別れを告げ、高速列車で勤務先の都市へと戻っていった。
中国のネットでは最近、「スマートウォッチの文字盤面を高速列車の窓に貼り付けないように」という書き込みが大きな話題となっている。そして、多くのネットユーザーが「軽い気持ちで試さないで」と警告している。それにもかかわらず、好奇心に駆られて、それを検証せずにはいられない人々も現れており、案の定、スマートウォッチがしっかりと窓に張り付いて取れなくなったという報告も目にする。
スマートウォッチの文字盤面が高速列車の窓にしっかりと張り付いてしまうのはなぜなのだろうか。また、張り付いてしまった場合、どのようにして取ればいいのだろうか。山東大学国家コロイド材料工学技術研究センターの李逸坦研究員に話を聞いた。
スマートウォッチの文字盤面が列車のガラス窓に張り付いて取れなくなる理由を説明するためには、まず、オプティカルコンタクトという物理学現象から始めなければならない。李氏によると、オプティカルコンタクトとは、2つの結合面の表面の滑らかさが一定の程度に達すると、滑らかになればなるほど、二者間の摩擦力が大きくなることを指す。
李氏は「この現象は一見、常識に反しているようだ。なぜなら、物体の表面が滑らかなほど、摩擦力は小さくなり、粗くなるほど大きくなると一般的に考えられているからだ。オプティカルコンタクトが起きるには2つの物体の表面が十分に滑らかで、物体の表面の分子が十分接近するという条件が整わなければならない。この2つの条件が整った時、分子間力、つまりファンデルワールス力が働き、2つの物体がしっかりと結合する」と説明した。
だが、スマートウォッチの文字盤面と高速列車のガラス窓の表面が極めて滑らかであることは絶対にない。スマートウォッチの文字盤面の保護フィルムには、気泡が入っている可能性があるからだ。この時、文字盤面をガラス窓に近付けると、気泡が押し出され、その部分の気圧が下がり、真空に近い状態になる。そうなると、大気圧の作用でスマートウォッチがガラス窓の表面にしっかりと張り付いてしまう可能性がある。
李氏は、「ネットユーザーは、スマートウォッチが窓に吸い付かれたと考えているが、実際には、押さえつけられている状態だ。同じようなことは私たちの身の回りにもたくさんある。例えば、ストローを使って水を飲む時、水を吸い上げることができるのは、空気を吸うことで口の中のストローの圧力が外の大気圧より小さくなり、水が大気圧に押し上げられるからだ」と紹介した。
では、スマートウォッチがガラスに張り付いて取れなくなってしまったら、どうしたらいいのだろうか。
ネット上では、多くのネットユーザーが無理やり引っ張ったりこじ開けたりしているが、これらの方法の場合、文字盤面と窓を傷つけてしまう可能性がある。
李氏は、「直接こじ開けるような力ずくの方法では、うまくいかないことが多い。問題を解決するカギは、2つの物体が接触している面をできるだけ小さくすることと、文字盤面とガラスの間の気圧と外部の気圧の差を小さくすることだ」と語った。
そして「スマートウォッチをねじるように回転させ、2つの物体の表面の形を少し変えることで、接触している部分を小さくすることができる。また、スマートウォッチの文字盤面とガラスの隙間に、細い針や薄いカードなどを差し込み、空気を入れることで、その間の気圧を外部の気圧と同じようにすることができる」と紹介した。
スマートウォッチを温める方法も試すことができる。李氏は「温めると、ガラスとスマートウォッチの文字盤面の膨張の程度が異なるため、起伏が生じ、接触している面が小さくなる。一方で、温めると文字盤面の保護フィルムの小さな気泡が膨張し、タイヤに空気を入れた時のように、気圧が大きくなり、結合を緩めることができ、外せるようになる」と述べた。
李氏はこの方法について「温める時はとにかく急がず、ゆっくりすること。そして、スマートウォッチが壊れないように、適切な温度で温める必要がある」と注意を呼びかけた。
※本稿は、科技日報「智能手表贴在高铁车窗为何取不下来」(2025年2月6日付8面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。