【25-020】ディープラーニングはサイクロンの急激な強化を予測するようになる
AsianScientist 2025年02月28日
ディープラーニング・モデルは、極端な事象に対する理解を深め、その壊滅的な影響に対する防御力を向上させることができる。

熱帯低気圧(TC)が急激な強化(RI)期間を持つことはほとんどないが、RIの予測は難しいため、大きな危険となる。RIの定義は24時間以内に13m/s以上風速が増加することであり、予測されていない場合は特に深刻な被害につながる。
世界中の気象機関にとって、急速に強化する熱帯低気圧の予測は今でも難しい。RI TCを数値的に予測すると、熱帯低気圧の形成に関係するすべての海洋条件・大気条件を適切に考慮していないため、精度が限られる。衛星データと環境要因を含む統計モデルの場合でも、RI TCの予測は依然として50パーセントにとどまる。
近年、RIを予測するディープラーニング手法、特に衛星画像を取り入れ、環境要因を組み込んで予測を強化する手法が有望であることがわかってきた。しかし、ディープラーニング・モデルの誤報率は依然として高い。
熱帯低気圧は環境条件に大きく左右される。現在のディープラーニング手法は最大値と平均値のみを使用しているため、サイクロンの空間環境を正確に表すことができない。
もう1つの問題は、RI TCの希少性である。RI TCが見られるのは熱帯低気圧期間のうち、わずか5%である。その結果、不均衡なデータを使ってモデルをトレーニングすることになり、利用可能なデータの大部分が非RI期間のものであるため、偏った予測につながる。
この問題に対応するため、中国科学院海洋研究所(IOCAS)の研究チームは、対照学習を使用するRI TC予測モデルを開発した。これはRITCF対照モデルと呼ばれ、一度に比較するのは2つのデータサンプルのみである。1つは既知のRI TCの発生、もう1つは予測される未知のサンプルであるため、データ不均衡の問題を解決することができる。
このモデルは大気と海洋の条件だけでなく、衛星赤外線画像も分析して、熱帯低気圧の空間的特徴を考慮する。2つのデータセットの類似点と相違点を分析することで、モデルは未知のデータがRI TCにつながるかどうかを判断する。
「投票」と呼ばれるプロセスでは、RITCF対照モデルは10個の異なる既知のサンプルを使用して10回実行される。サンプルをRIとして分類する「投票」が6回以上ある場合、急激な強化期間の予測と見なされる。
このモデルのトレーニングには、実際の観測と過去の短期天気予報を組み合わせた再解析データを使用した。RITCF対照モデルを使用してリアルタイムの予測シナリオをシミュレーションするために、チームは2020年から2021年までの北西太平洋の運用データを使用し、そのデータを未知の入力として扱い、精度を調べた。このモデルは、発生したRI期間の92.3パーセントを予測することができた。誤報率は8.9パーセントと低く、以前のモデルから大きく改善された。
このモデルには、まだリアルタイムデータでの試験は行っていないが、リアルタイムに近い運用データで試験した結果は有望であった。そのため、このモデルはリアルタイム予測シナリオでの使用に適していると考えられる。RI TCの予測精度が向上すると、適切な災害対策を準備してRIの影響を軽減するにあたり重要な早期警報システムを強化することができる。
責任著者であるリー・シャオフェン(Li Xiaofeng)教授は「この研究は、RI TC予測の精度の低さと誤報率の高さという課題に取り組んでいます」と語る。「私たちの方法は、このような極端事象に対する理解を深め、その壊滅的な影響に対する防御を優れたものにします」
発表論文:Advancing forecasting capabilities: A contrastive learning model for forecasting tropical cyclone rapid intensification
原文記事(外部サイト):
●Asian Scientist
https://www.asianscientist.com/2025/02/environment/a-deep-learning-model-to-predict-rapid-intensification-of-cyclones/
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Source: Institute of Oceanology Chinese Academy of Sciences; Image: Shutterstock
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