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【25-035】生物多様性保全にはカリスマ性がものを言う

AsianScientist 2025年04月25日

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 自然保全資金の82.9%が美しい脊椎動物に割り当てられたのに対し、植物と無脊椎動物にはわずか6.6%ずつが割り当てられただけであった。

 種の絶滅は驚くべき速さで進行しており、世界中で生物多様性の喪失が引き起こされている。しかし、香港大学(HKU)の研究者が最近明らかにしたところによると、野生生物保全プロジェクトへの資金は、絶滅危惧種間で公平に配分されているわけではない。この研究結果は、米国科学アカデミー紀要(PNAS USA)に発表された。

 研究者は、37の政府及びNGOが実施する1万4600件の種保全プロジェクトのデータを集め、それらの資金が効果的に配分されているかどうかを評価した。

 本研究の筆頭著者である香港大学生物科学学院のブノワ・ゲナール(Benoit Guénard)准教授は「種の保全研究への資金は依然として極めて限られており、評価対象となったプロジェクトに割り当てられた額は25年間でわずか19億3,000万米ドルでした。これが、私たちが最初に出した結論です」と語った。

 この研究から、保全プロジェクトは資金と国民の支持を得るために「カリスマ」種に重点を置く傾向があるという興味深いことが分かった。カリスマ種とは、トラ、ゾウ、クジラなど、一般の人々によく知られ、人気のある種を指す。これらの種は一般大衆から保全活動への支援を得るが、カリスマ性が低くても絶滅の危機に瀕している種の多くは、十分な支援を受けるのは難しい。本研究でまとめられたプロジェクトのうち、資金の29%はIUCNレッドリストで「低危険種」とされている種に割り当てられた。

 ゲナール氏は「過去の文献に基づく研究を行えば脊椎動物への偏りがあると予想していました。事実、そうでした。しかし、状況は以前の予測よりもはるかに深刻であることがわかりました」と述べる。この研究から、資金の82.9%が脊椎動物に配分され、植物と無脊椎動物にはそれぞれわずか6.6%しか配分されていないことがわかった。

 ゲナール氏はさらに、「脊椎動物の中でも、両生類など最も絶滅の危機に瀕している動物の多くについては、資金不足に陥っており、資金は年々減少傾向にあります」と付け加えた。両生類は脊椎動物の中でも最も絶滅の危機に瀕しているにもかかわらず、脊椎動物の保全に割り当てられた資金全体の2.8%未満しか占めていない。一方、ゾウやクジラなどの大型哺乳類は、絶滅危惧哺乳類全体の中でわずか3分の1を占めているにもかかわらず、哺乳類の調査と保全のための資金の86%を占めている。

 ゲナール氏は「これは、保全に関する科学的評価と、保全関係者による資金配分の間に大きな不一致があることを浮き彫りにしており、その原因は、種の『カリスマ性』によるものと考えられます。このため、資金の約3分の1が非絶滅危惧種に配分される一方で、絶滅危惧種の約94%は何の支援も受けていません」と語った。

 本研究の共著者でもある香港大学生物科学学院のアリス・ヒューズ(Alice Hughes)准教授は「今までの絶滅危惧種に対する見方と真に絶滅の危機に瀕している種とは一致しないことが多く、多くの小型種や『カリスマ性の低い』種が見過ごされてきました。広範囲にわたる個体数の減少と生物多様性の継続的な喪失を是正したいのであれば、この見方を急いで作り直し、分類群全体にわたって資金を適切に配分する必要があります」と付け加えた。

 これらの研究結果は、広範囲にわたり絶滅脆弱種を支援し、地球規模の生物多様性を保護するために、さらに包括的に保全資金を配分することの必要性を示す。研究チームは、世界的な保全プロジェクトの公開データベースがあれば、政府その他の組織はさらに保全活動を行うための調整が容易になり、既に十分に支援を受けている種の優先順位を下げることができると語る。ゲナール氏は「保全機関やNGOは、カリスマ性や美しさといった主観的な基準に基づいて一部の種だけを保護するのではなく、すべての種を保護するために、保全に対する考え方を改める必要があります」と述べた。

 

発表論文:Limited and biased global conservation funding means most threatened species remain unsupported

原文記事(外部サイト):
●Asian Scientist
https://www.asianscientist.com/2025/03/environment/charisma-counts-in-biodiversity-conservation/

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Source: University of Hong Kong; Image: Freepik and Asian Scientist Magazine
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