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【25-041】中国、2025年政府間国際共同研究プロジェクト始動、総額約14兆円

松田侑奈(JSTアジア・太平洋総合研究センター フェロー) 2025年05月26日

 中国科学技術部国際協力司(局)は、2024年11月と2025年4月の2回にわたり、2025年度の政府間国際共同研究重点プロジェクトの募集要項を公開し、日本、韓国、EU等の国家及び国際機構と科学技術協力を推進することを明らかにした。

 このプロジェクトについて、補足すると、科技部は2016年から食料安全、エネルギー・資源不足解決、国民の健康問題、環境保護などのグローバル課題の解決を目的に、政府間国際共同研究プロジェクトを推進している。協力方法としては、共同研究プロジェクトの遂行(期間は2~3年が最も多い)、科学技術人材交流、大型研究インフラの共同活用(共同実験室等)、国際大型科学プログラムへの参加、等がある。

 公開された2回の募集要項によると、2025年度は、25カ国・地域・国際機構と319のプロジェクトを推進し、6959億元(13兆9180億円、1元=20円換算)を投入予定である。

 主な協力分野は、ICT、カーボンニュートラル、生命科学、エネルギー、環境問題である。国・地域別にみると南アフリカが6600万元(13億2000万円)で1位、日本、EU、スペイン、フィンランドがいずれも6000万元(12億円)で2位になっている。次いでロシア4500万元(9億円)である。

 下記表は、筆者が整理した国際共同プロジェクトの内容である。

2025年度1~2次政府間国際共同研究重点プロジェクト内容
協力対象 協力タイプ 協力分野 プロジェクト数 規模
(万元)
南アフリカ 共同研究 ICT、生命科学、鉱山と金属、宇宙、農業、エネルギー、海洋 30 6600
フラグシップ共同研究 交通技術、衛星技術 2
日本 共同研究 環境、省エネ、カーボンニュートラル、高齢化対応、農業、災害軽減 20 6000
EU 共同研究 食品・農業・生命技術、気候変動、植物多様性 20 6000
スペイン 共同研究 持続可能な都市、生命・健康、クリーン技術、現代農業、先端素材 20 6000
フィンランド 共同研究 気候変動、循環型経済、デジタルヘルス、高齢化技術、対外診断 15 6000
ロシア 共同研究 材料化学、生命科学、自然資源、AI、極地・航空 15 4500
エジプト 共同研究 水資源、食品農業、健康、ICT、先端製造 15 3650
フラグシップ共同研究 再生エネルギー、人工知能 5
共同実験室 持続可能な技術、スマート農業、AIとロボット 3
ウズベキスタン 共同研究 生命科学、医学、エネルギー、数学、鉱山 30 3000
オーストリア 共同研究 気候変動、生命科学、持続可能な交通、化学 15 3000
ロシア/ベラルーシ 共同実験室 ICT、AI、航空宇宙、生命科学、製造、海洋、先端素材 15 3000
ヨーロッパ諸国 共同実験室 気候、健康、農食品、基礎科学、文化遺産、ICT 15 3000
上海協力機構 多国間協力 気候、生命科学、農業、ナノ・新素材、ICT、エネルギー、地球科学 10 3000
ハンガリー 共同研究 ICT、農食品、生命科学、環境、数学、科学、物理 10 2300
共同実験室 生命・健康、再生エネルギー 4
アフリカ諸国 共同実験室 指定なし 10 2000
イスラエル 共同研究 指定なし 10 2000
ミャンマー 共同研究 農業、気候変動、AI、計量、農業機械、森林と生物多様性 10 1500
マレーシア 共同研究 エネルギー貯蓄、ワクチン、宇宙技術、AI、ブロックチェーン、先端素材 6 1500
ベラルーシ 共同研究 ICT、先端製造、新素材 3 1500
ニュージーランド 共同研究 生命健康、気候変動、クリーンエネルギー 6 1080
アラブ諸国 共同実験室 生命科学、AI、グリーン低炭素、現代農業、空間情報 5 1000
マルタ 共同研究 医療、環境・海洋経済、デジタル技術 6 900
ベトナム 共同研究 伝統薬、サービスロボット、資源気候適応、災害軽減 4 800
韓国 共同研究 生命科学、ICT、再生エネルギー、医薬、航空宇宙、気候変動 6 600
スロベニア 共同研究 コンピューティング科学、エネルギー工学、ナノ材料、生命工学 5 500
イタリア 共同研究 極地を含む生物の多様性、医療機器 4 160

 上記表から、以下のような情報が読み取れる。

 まず、気候変動や水資源問題、エネルギーの効率化といったグローバルな課題の解決には、国際的な協力が不可欠であり、中国の推進する共同研究は、その一環として非常に重要な意味を持つ。

 中国の国際共同プロジェクトは、地域ごとの技術的強みと社会的課題に合わせた協力が行われている。アジアとは先端技術(AIやICT)の活用が進む一方、アフリカとは資源管理やエネルギー問題、ヨーロッパとは気候変動や循環型経済に焦点が当てられている。

 また、ほぼすべての国家と、AI、ICT、再生エネルギー、循環型経済といった先端技術における共同研究が行われており、これらの分野における積極的な投資と技術イノベーションを通じ、国際的な競争力強化を図っていきたいとの中国の意図が伺える。中国は、このような国際共同プロジェクトを通じて、技術的及び経済的なリーダーシップを強化しようとしている。実際、気候変動やエネルギー問題、再生可能エネルギー技術、AIなど、グローバルの重要テーマを取り上げることで、国際社会における影響力を増大させている。中国は、世界の大国として、単なる経済的なパートナーとしてではなく、技術イノベーションと社会課題解決のリーダーとしての地位を確立しようとしているだろう。

 中国が提供する共同研究の枠組みや技術協力は、単なる経済的・技術的な利益を超え、戦略的な影響力を行使する手段としても機能している。特に、アフリカやアジアの発展途上国との協力においては、経済的支援や技術移転を通じて、政治的・経済的な影響力を強化する狙いがあると考えられる。

 中国の強みを活かした再生可能エネルギーや農業技術、気候変動対応技術は、世界全体の持続可能な発展に貢献すると思われるが、国際協力というのは競争と協力の両面性をもっており、各国は、中国の技術を参考にしつつ、自国の優位性を保つことが重要である。技術の商業化や応用においても、国際的競争力を持つためには、戦略的な投資と人材の育成が絶対的に必要であると考えられる。

 

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