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【25-042】中国、科技金融体制構築を発表 キーワードは創業投資誘導基金とイノベーションポイント制度

松田侑奈(JSTアジア・太平洋総合研究センター フェロー) 2025年05月28日

 2024年7月に開催された中国共産党第20期第3回中央全体会議(三中全会)のコミュニケでは、科学技術イノベーションにふさわしい科学技術金融体制を構築する必要性が強調された。これを受け、2025年5月には科学技術部をはじめとする7つの省庁が、「科学技術金融体制の構築を加速し、ハイレベルな科技自立自強を力強く支えるための若干の政策措置」(科学技術金融体制構築方案)を発表した。

 この「科学技術イノベーションにふさわしい科学技術金融体制」とは、国家の重要な科学技術課題や、科学技術系の中小企業に対して効果的に金融支援を行い、科学技術イノベーションを後押しできるような体制を指す。

 本方案では、このような金融体制の構築に向けて、①創業投資、②通貨・信用貸付、③資本市場、④科学技術保険、⑤財政政策、⑥中央・地方の協力、⑦イノベーション・エコシステムの構築、の7分野にわたる具体的な政策措置が示された。中でも注目すべきキーワードは、「創業投資誘導基金」と「イノベーションポイント制度」である。中国は本方案を通じ、新たに国家創業投資誘導基金を創設するとともに、既存のイノベーションポイント制度の拡充を図った。

 本稿では、まず本方案の主要な内容を紹介し、その後、注目すべき「創業投資誘導基金」と「イノベーションポイント制度」についても詳しく説明する。

一、科学技術金融体制構築方案

 本方案の主要な内容を下記表に示す。

表 方案の主要な内容:(7分野・15措置)
7分野 15措置 重点内容
1.創業投資 ① 国家創業投資誘導基金の設立
② 創業投資の資金調達ルートの拡大
③ 国有創業投資の評価体系の最適化
④ 創業投資のエグジットチャネルの改善
国家創業投資誘導基金の運営
・Sファンド(プライベートエクイティのセカンダリーマーケット)の発展促進
・創業・産業投資向けの債券発行を支援
2.通貨・信用貸付 ⑤ 構造的な金融政策手段の積極的活用
⑥ 銀行による科学技術金融の特別支援体制の構築
⑦ 金融機関による技術革新資金の供給を強化
・技術革新・技術改造向け再貸付政策の最適化
・長期的な科学技術ローンに対する成果評価制度の導入促進
・政策金融機関による技術支援の拡大
3.資本市場 ⑧ 資本市場による技術革新企業の支援を強化
⑨ 債券市場の技術革新支援メカニズムの改善
・核心技術を持つ企業の優先上場を支援
・地域株式市場のサービス能力向上のための政策整備
・債券市場における「科学技術セクション」の設置を推進
4.科学技術保険 ⑩ 技術保険の商品・サービスの革新 ・高品質な発展に向けた意見の制定、共同保障方式によるリスク保護の試行
・重要技術課題への対応におけるリスク分散の実施
・保険資金の国家プロジェクトへの参加を誘導
5.財政政策 ⑪財政・税制政策を通じた科学技術革新への金融支援の促進 ・貸付利息補助・リスク補填などの財政手段の積極活用
・科学技術担保制度の継続的推進
・エンジェル投資および創業投資に対する税制優遇の実施
6.中央・地方協力 ⑫ イノベーションポイント制度の拡大
⑬ 北京・上海・粤港澳(広東・香港・マカオ)などにおける地域金融イノベーションのモデル拡大
・地域科学技術金融の革新モデル
イノベーションポイント制度の拡充
・地域の科学技術金融政策の実施効果の評価
7.エコシステム構築 ⑭ 国際科学技術金融協力の拡大
⑮ 科学技術金融の総合的推進体制の整備
・総合推進体制の構築
・国際協力の拡大
・科学技術企業による海外資金調達ルートの拡大

二、国家創業投資誘導基金

 国家戦略レベルで設立されたこの基金は、資金調達およびその拡大、投資方向の強化、事後管理の体系化、回収ルートの改善などについて、詳細な規定を設け政策ガイダンスを提供しており、戦略性、対象範囲、具体性、支援強度面で充実させている。国家発展改革委員会は、「新たに設立された国家創業投資誘導基金は、科学技術スタートアップ企業が発展初期に一般的に直面する資金不足の問題を効果的に解決し、創業投資がイノベーション支援に果たす重要な役割をより一層発揮できるように後押ししている。これにより、重要な科学技術成果実用化の促進、科学技術による自立自強実現の加速、『新質生産力』発展の推進が早期に実現することを期待する」としている。

表 国家創業投資誘導基金の内容
項目 内容
設立目的 早期段階、小規模、長期、先端・基盤技術(ハードテクノロジー)への投資を誘導
ファンド規模 地方政府・民間資本などを含め、約1兆元(約20兆円)の資金を誘致予定
対象企業 人工知能、量子技術、水素エネルギー・エネルギー貯蔵、バイオ製造、エンボディドAI(具身知能)、6Gなど先端分野のシード期/初期段階の企業
投資分野 基礎的・破壊的技術、核心技術のブレークスルーを果たせるプロジェクト
運用期間 20年(一般的な株式型投資ファンドよりも長期運用が可能)

三、イノベーションポイント制度

 イノベーションポイント制度とは、企業の技術イノベーション活動をポイント(スコア)で評価し、その得点に基づいて政府支援や金融優遇などの各種インセンティブを差別的に提供する制度である。政府は、全国でイノベーションポイント制度の適用を順次拡大し、主要評価指標体系を最適化するとともに、企業のイノベーション能力を正確に把握し、技術改良に向けた再貸付や専門保証制度の実施につなげていくとしている。

表 イノベーションポイント制度の主な評価指標と指標ごとの重み設定
大指標
(分類)
小指標(個別項目) 小指標の評価の重み(設立期間)
≦5年
(初創期)
5<N≦10
(成長期)
N>10
(安定期)
(1)技術イノベーション指標
(7項目)
研究開発費用(金額) 0.08 0.08 0.08
研究開発費用の増加率(%) 0.06 0.05 0.04
研究開発費用が売上に占める割合(%) 0.08 0.07 0.06
従業員全体のうち科学技術人材が占める割合(%) 0.08 0.07 0.06
主力事業関連の発明特許申請数(件) 0.07 0.07 0.07
主力事業関連のPCT特許申請数(件) 0.06 0.06 0.06
技術契約取引額(万元) 0.06 0.05 0.04
小計 0.49 0.05 0.05
(2)成長経営指標
(6項目)
ハイテク製品の売上高(万元) 0.05 0.05 0.05
売上高(万元) 0.05 0.05 0.05
売上高成長率(%) 0.06 0.05 0.05
修士以上の学位取得者の比率(%) 0.05 0.04 0.03
研究開発費用の加算控除による法人税減免額(万元) 0.06 0.06 0.06
自己資本利益率(ROE)(%) 0.05 0.06 0.07
小計 0.32 0.31 0.30
(3)補助指標
(5項目)
大学新卒者の採用人数(人) 0.03 0.04 0.05
省レベル以上の研究・イノベーションプラットフォームの構築実績(件) 0.05 0.06 0.07
省レベル以上の科学技術賞の受賞件数(件) 0.04 0.05 0.06
省レベル以上の科学技術プロジェクト受託件数(件) 0.04 0.05 0.06
ベンチャーキャピタルからの調達資金額(万元) 0.03 0.04 0.05
小計 0.19 0.24 0.29
1.00 1.00 1.00

 イノベーションポイント制度は、2020年から国家級ハイテクパーク(国家高新区)で試験的に導入されている。2023年末時点で、この制度を導入した試験的ハイテクパークは全国で133か所(国家級ハイテクパークが101か所、省級が32か所)、全国25の省に広がっている。

 主要銀行を中心に「イノベーションポイント融資」と呼ばれる金融商品も登場し、2022〜2023年には約20の銀行が試行地域と連携し、対象企業へ2000億元以上の融資を行った。イノベーショポイント制度の導入は、企業が政策支援を受けやすくなる有力な手段となっている。

 政府も支援に乗り出し、財政・税制、科学技術資源、産業資源、金融資源の支援ルートを開通させ、技術・資金・人材・データ・土地といった生産要素を効率的に集約し、「先端・基盤技術企業」や「優れた若手企業」が台頭できるよう後押ししている。

 この仕組みは、科学技術のハイレベルな自立・自強の実現、経済の安定成長と質の高い発展に、強力な支援基盤を提供している。

 

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