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【25-043】中国、2025年知的財産権強国推進計画を発表

松田侑奈(JSTアジア・太平洋総合研究センター フェロー) 2025年05月29日

 中国国務院は2021年、「知的財産権強国建設綱要(2021~2035)」を発表し、「2025年には知財の価値と保護体制を大幅に強化し、2035年には世界トップレベルの知財強国を実現する」という目標を挙げた。詳しくは下記の通りである。

・ 2025年までに、特許集約型産業の付加価値がGDPに占める割合を13%、著作権産業の付加価値がGDPに占める割合を7.5%、知的財産権の使用料の年間輸出入総額を3500億元とし、人口1万人あたりの高価値発明特許の保有件数12件の達成を目指す。

・ 2035年までに、中国の知財競争力が世界トップクラスに入るようにし、体系的に制度を整備し、イノベーションと創業を支援する。知財文化が社会に根付き、国際的な知財ガバナンスにも積極的に関与する体制を整え、中国独自かつ世界水準の知財強国の完成を果たす。

一、指標の達成状況

 2025年になった現在、これらの指標の達成状況は、どうなっているのか。

「知的財産権強国建設発展報告2024」によると、各指標の達成度の下記表の通りである。

表 2025年までの知的財産権強国建設における予測指標の進捗状況
(※「知的財産権強国建設綱要」では、上の4つの指標、その後公開された「第14次五カ年計画国家知的財産権保護および活用計画」では、全8指標を提示)
指標 2020 2021 2022 2023 2025年の目標値
特許集約型産業の付加価値がGDPに占める割合(%) 11.97 12.44 12.71 - 13
著作権産業の付加価値がGDPに占める割合(%) 7.39 7.41 7.41 - 7.5
知的財産権使用料の年間輸出入総額(億元) 3194.4 3783 3872.5 3765.2 3500
人口1万人あたりの高価値発明特許保有件数(件) 6.3 7.5 9.4 11.8 12
海外発明特許の許可件数(万件) 4 4.6 5 - 9
知的財産権質押融資登録金額(億元)
(※特許および商標を担保として融資を受け、その内容を登録する際の金額)
2180 3098 4868.8 8539.9 3200
知的財産権保護に対する社会の満足度(点) 80.05 80.61 81.25 82.04 82
知的財産権に関する民事第一審判決の履行率(%) - 90.5 89.8 91.9 85

二、2024年度の成果

「2024年中国知的財産権強国建設状況」記者会見で、中国国家知識産権局の局長申長雨氏は、制度的基盤強化、成果創出能力、成果の活用(産業化)、法制度による保護強化、公共サービス改善、国際協力の6分野での主要な成果を述べた。申氏は「AIは新しい科学技術革命と産業変革の核心的な原動力である」とし、「中国は世界全体のAI特許の60%を保有し、グローバルリーダーになった」と強調した。また、中国政府が「AI関連発明特許出願ガイドライン」の制定を通じ、AI特許の出願主体、保護対象、審査基準などの主要な問題に対応していると述べた。

 2024年度の主な成果を、下記表にまとめる。

表 2024年度知的財産権強国建設成果
分野 主な成果 指標/数値で見る成果
制度的基盤強化 1)部門間協議体の構築
2)「商標法」「著作権法」等の改正に向け準備中
3)AI・データなど新たな分野の保護規則の整備
1)AI関連の「発明特許出願ガイドライン(施行)」の発表
2)地理的表示統合認証制度の実施
成果創出能力の向上 1)特許・商標・著作権などの登録件数の増加
2)グローバルなイノベーション競争力の強化
1)発明特許104.5万件、登録商標478.1万件、著作権登録1063.1万件
2)PCT国際特許、ハーグデザイン出願数世界1位
3)グローバルイノベーション指数 世界11位
4)グローバルTop100科学技術クラスター 26カ所(世界1位)
成果活用 1)大学・研究機関の特許の大規模整理および価値分析
2)技術移転、ライセンス取引の活発化
3)産業化レベルの向上
1)約2700の大学で134.9万件の特許価値分析
2)特許の移転・許可61.3万件(前年比+29.9%)
3)企業の発明特許産業化率53.3%
4)著作権産業の付加価値9.38兆元(GDPの7.44%)
法制度のよる保護強化 1)行政・司法・税関・警察による包括的な保護強化
2)違反取締りおよび社会満足度の向上
1)不正事件4.4万件、特許侵害行政事件7.2万件、調整事件14万件を処理
2)海賊版リンク362万件削除
3)知的財産権保護に対する社会満足度82.36点(過去最高)
公共サービス改善 公共サービスインフラの拡充とアクセスしやすさを実現 1)国家知的財産権公共サービス機関483カ所達成
2)技術・イノベーション支援センター 202カ所達成
3)商標受付窓口367カ所達成
国際協力の拡大 1)多国間および地域協力の強化
2)国際規範制定への参加
1)「一帯一路」知的財産権ハイレベル会議の開催
2)WIPO主催の国際会議の成功裏の開催
3)遺伝資源・伝統的知識に関する条約の締結を主導
4)BRICS、ASEAN、EUなどとの協力チャネル拡大

三、2025年度の知的財産権強国推進計画

 国家知識産権局は2025年5月、「2025年度の知的財産権強国推進計画」を発表し、6分野の重点ミッションを提示した。

分野 重点ミッション
知的財産制度改善 1)商標法・集積回路設計保護条例の改正、著作権法施行条例および集団管理条例の改正
2)知的財産権の税関保護条例、営業秘密保護規定、商標法・著作権法関連の司法解釈の改正
3)データ知的財産保護規則の構築、ビッグデータ・AI・ブロックチェーンなど新興産業の保護規則およびインターネット知的財産権保護体制の整備、電子商取引関連の司法判例基準の補完
知的財産の保護を強化 1)懲罰的損害賠償の全面適用、悪意のある訴訟に対する監督強化
2)中国における営業秘密保護の革新モデル事業を推進
3)情報通信などの重点分野における標準必須特許、特許プールに関する独占禁止の事前・事中・事後の全プロセスにおける規制強化
市場メカニズムを改善 1)品質中心の指標体系と評価体系の改善、産業化の展望分析を中心とする特許出願前評価制度の確立
2)国家科学技術計画プロジェクトにおける知的財産権管理制度の補完
3)重点産業の知的財産権革新連合体、特許プール、知的財産権運営センターの建設を推進
サービスの質と効率の向上 1)核心技術ブレークスルーの実現支援のための公共サービス体制構築
2)知的財産保護情報プラットフォームの運営およびデジタル統合プラットフォーム・自主管理データベースの構築
3)知的財産プラットフォームと国家オンライン身分認証システムの連携・セキュリティを強化
人材育成 1)行政管理人員の専門性強化教育実施、高度な人材育成、国際性を備えた知的財産専門の法律人材の養成
2)大学における知的財産学位および学科の設立
国際協力強化 1)2025年 中・米・EU・日・韓 知的財産5カ国協力局長級会議の開催
2)EU、日本、ロシア、スイスなどとの経済・貿易分野における知的財産権の交流・協力推進
3)知的財産権に関する海外情報サービスプラットフォームの構築強化

 2025年度の知的財産権強国推進計画は、中国が知的財産権を強化し、経済成長を支えるために進めている重要な施策である。ここ数年、中国は、知的財産権の登録件数増加や、特許集約型産業、著作権産業のGDPに対する貢献強化に成功しており、特に、発明特許、商標、著作権の登録件数が増加し、産業化が進んでいる。さらに、国際競争力の向上も顕著で、PCT(特許協力条約)国際特許出願やハーグデザイン出願で世界1位となり、国際的な影響力を強化している。

 法制度の面では、商標法、著作権法、特許法の改正が進み、AIやビッグデータなど新たな産業に対応する規則も整備されている。また、デジタルプラットフォームや知的財産権保護情報システムの構築が進んでおり、管理の効率化と透明性の向上が図られている。これにより、知的財産権保護に対する社会的満足度も高まり、経済成長への貢献が認識されつつある。

 一方で、課題も残されている。特許や著作権の侵害問題が依然として存在し、これに対する法的対応の強化が必要である。特許の商業化に関しては、産業界と研究機関との連携がさらに求められる。新興技術分野では、AIやビッグデータなどに対する柔軟な知的財産権保護規則が必要であり、国際的な競争において遅れを取らないための戦略的な取り組みも重要である。加えて、知的財産権分野の専門人材の育成が進んでいるものの、産業界や学界との連携強化が求められている。総じて、知的財産権強国建設綱要の実施以来、中国は、知財面で多くの成果を上げているが、特許侵害の対策や新技術分野の保護、産業化の進展といった課題に引き続き取り組む必要がある。これらの課題を解決することが、今後の知的財産権強国戦略の成功にとって重要な鍵となるだろう。

 

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