【25-045】AIが「デジタルヒューマン」の日常生活への普及を推進する(その1)
都 芃(科技日報記者) 2025年06月02日

江蘇省無錫市で開かれた「ビジネス環境の最適化とデジタル行政の革新:無錫24時間サービス・デジタルヒューマンマトリクス」記者発表会で披露されたデジタルヒューマン(朱吉鵬/視覚中国)
2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)の中国パビリオンは、4月の開館以来、多くの観光客が訪れている。館内に入ると、「俺は孫悟空だ!」という元気な声が遠くから聞こえてくる。この声の主は、科大訊飛(iFLYTEK)が中国パビリオンのために開発した中日英3言語対応の「AI孫悟空」だ。外見や声は、名作アニメ映画「西遊記・大鬧天宮(大暴れ孫悟空)」の孫悟空を忠実に再現している。
この「AI孫悟空」の背景には、近年急速に発展しているデジタルヒューマン技術がある。AIやメタバースなどの新興産業とつながる重要な存在として、デジタルヒューマンはデジタル経済の発展の中でますます重要な役割を担っている。大規模言語モデルの応用が進む中、デジタルヒューマンは「使える」段階から「使いやすい」存在へと進化しつつあり、関連産業を新たな成長フェーズへと推し進めている。
3つの分野に応用拡大
デジタルヒューマンとは、モデリングなどさまざまなデジタルスマート技術によって作成されるデジタルエージェントだ。人間に似た外見や声を持ち、身体動作の模倣が可能で、思考能力を備え、大規模言語モデルのサポートにより学習・生成・対話といった機能も可能となる。
技術と市場の両面からの推進により、中国国内ではデジタルヒューマンの産業エコシステムが急速に整備され、応用規模も拡大し続けており、産業チェーンの上流から下流までの生産、運営、サービス能力が徐々に向上している。調査企業「天眼査」によると、2024年までに中国でのデジタルヒューマン関連企業は114万4000社に達し、同年の最初の5カ月間だけで17万4000社以上が新規登録され、市場の潜在力と活力を示している。
中国インターネット協会専門諮問委員会の武鎖寧委員は「デジタルヒューマンが単なる形式的なものに留まってはならない。資源の無駄遣いを避けるためには、適切な応用先を見つけ、点から面へと展開することが重要だ」と指摘する。
同協会が発表した「中国デジタルヒューマン発展報告(2024)」によると、現在のデジタルヒューマンの応用は「メディア型」「サービス型」「業界特化型」の3つの主要カテゴリーに分類される。そのうち「メディア型」は最も成熟した応用分野で、全体の50%を占めている。リアルな外見や流暢な会話能力により、情報発信のインタラクティブ性と娯楽性を大きく高めている。
例えば、中央広播電視総台が昨年初めて放送した年越し科学番組「中国テクノロジーイノベーション祭典」では、人気司会者の張騰岳氏とその「AIアバター」が一緒に番組を進行した。この「AI司会者」は、科大訊飛の「訊飛智作」プラットフォームをベースに開発され、声や表情、動作のすべてが本人そっくりで、張氏の話の内容をきちんと理解して自然に受け答えすることができ、そのスムーズなやりとりに視聴者の多くが「本物と区別がつかない」と驚いたほどだった。
同報告によると、メディア型以外にも、サービス型デジタルヒューマンも全面的にアップグレードされ、より強いインタラクティブ能力を備えている。利用シーンの割合は全体の30%に達し、行政や電子商取引、金融などの分野で広く活用されている。業界特化型デジタルヒューマンは現在、萌芽期に入っており、利用シーンの割合は全体の20%で、医療や教育、企業管理などの専門分野で次第に役割を発揮し始めている。
(その2 へつづく)
※本稿は、科技日報「AI推动数字人"飞入寻常百姓家"」(2025年5月12日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。