【25-048】中国調査で役に立つ生成AIは何を選ぶか
2025年06月05日

山谷 剛史(やまや たけし):ライター
略歴
1976年生まれ。東京都出身。東京電機大学卒業後、SEとなるも、2002年より2020年まで中国雲南省昆明市を拠点とし、中国のIT事情(製品・WEBサービス・海賊版問題・独自技術・ネット検閲・コンテンツなど)をテーマに執筆する。日本のIT系メディア、経済系メディア、トレンド系メディアなどで連載記事や単発記事を執筆。著書に「中国のITは新型コロナウイルスにどのように反撃したのか?中国式災害対策技術読本」「中国のインターネット史:ワールドワイドウェブからの独立」(いずれも星海社新書)など。
2025年は、2021年から始まる中国の第14次5カ年計画の最終年であり、中国製造2025の最終年でもある。この5年間は、世界の経済大国や技術大国に追いつけ追い越せの数十年間の中で、新型コロナウイルスの感染拡大によるゼロコロナ政策の実施や景気悪化など、今までにない5年間だった。最終年を迎え、5カ年計画や中国製造2025はどれだけ達成したのか、また、今後の中国の計画はどうするのか、さらには日本や他国にどうアプローチしていくのかなど、こうした話題は、気になるところだろう。
これまでは日本メディアの記事や、中国語が読める人は中国語メディアの記事、それに国家機関や調査会社や金融会社の調査部門などの調査報告書を読んで、知識を積み重ねていくのが、現代中国知識をインプットする手段であった。とはいえ、どこのメディアや組織、企業からどういった情報を出てくるかは日本語であれ、中国語であれ、経験が必要で、中国の最新情報を把握するというのは簡単ではない。
ところが近年になり、ChatGPTやDeepSeekをはじめとした、訊ねれば答えてくれる生成AIが登場した。大量のデータを学習し、そのうえで「この質問に答えてほしい」「絵を描いてほしい」といった言葉に応じて、文章を作成したり、絵を描いたり、プレゼンファイルを出してくれる。ただ、使ってみるとわかるのだが、生成AIには、調査する上で良いものと良くないものがあることに気付かされる。そこで長年、読者のニーズに合わせて中国の記事を見つけ、それを日本語で解説することを生業としてきた筆者による「私的なおすすめ生成AI」を、ITが苦手な人にもわかりやすい言葉で紹介したい。
「DeepSeek」は中国・杭州の製品だ。使っている人もいるだろうし、ニュースで名前だけでも聞いたことがある人もいるだろう。DeepSeekは中国のデータも多く学習していることから、中国に関するいろいろな質問に答えてくれる。しかも日本語で聞くと、日本語で答えてくれるのが素晴らしい。嘘が混ざっていてもいいので、だいたいどんな感じなのか知りたい時に訊ねたり、答えではなくアイデアのヒントを出すには都合がいい。
ただ困ったことに、DeepSeekに限った話ではないが、生成AIサービスはしばしば適当な回答をする。厳しい言い方をすれば嘘をつく。なので、話半分で聞くぐらいのスタンスがいい。生成AIには、情報ソースが表示されるサービスと、DeepSeekをはじめとした情報ソースを表示しないサービスがある。特に情報ソースを表示しないサービスは、回答をそのまま受け入れてアウトプットしてはならず、確認が必要だ。

DeepSeekの画面(スクリーンショット)。生成された回答は情報ソースが提示されておらず、そのまま受け入れて使用する場合は注意が必要だ。
ざっくりした中国のことを聞くのにはDeepSeekが向いているが、聞きたい内容が具体的に準備できているなら、検索にフォーカスした生成AIサービス「Perplexity AI」が素晴らしい。中国国内のことを調べるのを業務とする人々の間でも、活用すれば情報取得の効率を大幅に向上させることができる非常にスマートな検索ツールだと絶賛されている。質問をすると、そのニーズをよく理解した上で、調査レポートや権威ある組織の発表など、信頼できる情報源から、簡潔で明確な回答をしてくれる。出てきた回答には、情報ソース一覧と文章中の情報ソースの注釈があり、クリックやタップをすることでソースを確認することが可能だ。Perplexity AIは、正確で包括的な回答を提供するだけでなく、意外な角度から結論を探るのに役立つ関連質問を積極的に提供してくれる点も優れたポイントだ。中国語の読み取りに問題がなければ、調査におけるPerplexity AIの良さを感じるはずだ。
Perplexity AIは良くも悪くもクセがある。DeepSeekが日本語で質問しても中国語で質問しても同じ回答をするのに対し、Perplexity AIは言語ごとにソースを変え、回答が異なる。日本語で「中国製造2025」の進捗具合を訊ねると、日本語による分析を集めて紹介し、中国語で訊ねれば中国語の情報を調査する。他の生成AIだと中国語での質問の最後に「写日文(日本語で書いて)」などと書けば、中国語ベースで調査したものを日本語に翻訳した状態で出てくるが、Perplexity AIはそれができない。中国語の各種ソースからまとめる場合は、具体的な質問内容をGoogle翻訳やDeepLで中国語にした上でPerplexity AIに質問し、出てきた回答について前述の翻訳サービスで日本語に戻す必要がある。ただこれを理解して使いこなせるようになれば、日本でどう分析されているのか、中国でどう伝えられているのか、英語圏ではどうなのか、といった比較が可能だ。


Perplexity AIの画面(スクリーンショット)。日本語で質問した場合と中国語で質問した場合ではソースが変わるため、回答が異なる可能性がある。
中国の生成AIサービスでは、百度(Baidu)や微博(Weibo)アプリに入ったDeepSeekも使える。百度はGoogleより検索精度は悪いが、それでもPerplexity AIと同じ要領で中国語で質問をすると、収集した莫大な中国のニュースやブログ、掲示板などのWEBページから収集してまとめた文を示してくれる。微博は「中国版X(旧twitter)」と言われるが、個人はそれほど書き込んでおらず、企業や組織のプレスリリースなどで活用されていることから、その莫大なデータをまとめ上げたものに個人の感想はそれほど混ざらない。百度のAIも微博のAIも、Perplexity AI同様に引用したソースが書いてあるので比較的信用できる。

百度の画面(スクリーンショット)。Perplexity AI同様に引用したソースが表示される。
生成AIで定番のchatGPTやグーグルのgemini、マイクロソフトのCopilotは、筆者は普段の疑問に使ってはいるが、中国関連の疑問ではこれまで挙げたものと比べて優れていないと感じている。これらサービスがダメというわけではないのだが、中国の調べ物をまとめるとなると、前述した各サービスに軍配が上がるのだ。微博以外はアプリなどの登録なしで利用できる。ぜひこれらのサービスに、まずは知っている中国のトピックを入力して回答を確認して、その性能を体感した上で、今後の作業に役立てて欲しい。