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【25-052】「DeepSeek式ブレイクスルー」を目指す中国のコンピューティング(その2)

鄔江興(中国工程院院士) 2025年06月13日

中国は人工知能(AI)技術や産業の自主的かつ持続可能な発展という面では、依然として高性能や「縮小版」のインテリジェントコンピューティングチップといった物理デバイスへの依存から脱却できていない。今後、外部環境はさらに悪化する可能性があり、封じ込めや抑圧の常態化、サプライチェーンの不確実性などの問題は避けられないと予測される。

その1 よりつづき)

二流の部品で一流のシステムを構築する

 生成型可変構造コンピューティングの核心は、アルゴリズムのニーズに応じて計算アーキテクチャを動的に再構築することである。これにより、計算能力を担うハードウェアは、ソフトウェアによって物理構造を変化させることが可能となり、特定の計算構造が特定のアルゴリズムを実行する際の効率を大幅に向上させる。

 ソフトウェア定義システム・オン・ウェハー(SDSoW)が目指すのは、計算アーキテクチャを「硬直したパイプライン」から「ソフトウェアで形を変えられる柔軟な構造」へと進化させることである。これにより、生成型可変構造コンピューティングにおける、理論から技術・物理的な実装に至るまでのクローズドループを実現し、二流のデバイスや部品を使って一流のシステムを構築することが可能になる。

 具体的に見ると、SDSoWは五つの能力を備えている。

 一つ目はシステムブレイクスルー能力である。SDSoWは「コア部品がすべてを決定する」という思考から脱却し、「チップレット、チップ、モジュール、ケース、ラック、システム」といった階層を逐次的に積み重ね、それぞれの段階で挿入損失を引き起こすという従来の工学的テクノロジー・ロードマップを転換する。ウェハーレベルのヘテロジニアス集積によって、機能の分解とチップ上での再構成を実現し、機能等価とシステムとしての最適化を達成する。製造プロセス上の制約を、システム工学の手法によってシステム全体の性能に重大な影響を与えない副次的要因へと抑制することができる。

 二つ目は全体としての性能向上能力である。ウェハーレベルの高密度インターコネクト、超短距離通信、ヘテロジニアスパッケージングを活用することで、高帯域幅、低遅延、低消費電力といったシステム全体の利得が得られる。SDSoWシステムは、帯域幅を1桁拡大し、遅延を1桁縮小、消費電力を1桁削減することが可能であり、結果としてシステム全体の性能が最大で3桁向上する。

 三つ目は汎用性と専用性の融合能力である。ウェハーレベルのシステム・ハードウェアにおけるプログラマブルかつ再定義可能なアーキテクチャに基づき、ソフトウェアによるリアルタイムな構成変更、あるいは大規模AIモデルによってSDSoWの機能や性能を生成することが可能である。同一の物理プラットフォーム上で、異なるアプリケーションのニーズや使用シーンに応じて、「一つのプラットフォームで多様な構造を生成する」可変構造コンピューティングを実現できる。これにより、専門分野における高精度な計算要求に応えると同時に、柔軟性を求められる汎用計算のニーズにも対応できる。

 四つ目はオープンソースによる協調能力である。SDSoWはオープンソースコミュニティを構築し、基礎的なインターコネクトプロトコルや動的コントローラ、さらには生成型可変構造コンピューティングのためのツールチェーンなどを公開することにより、「中国が主導し、世界が参加する」エコシステムを構築することができる。オープン性によって独占構造を打破し、チップレット(小型チップ)ロードマップに対して比較優位性を確立する。

 五つ目は内在的なセキュリティ能力である。SDSoWは、オープンなエコシステムがもたらす新たな領域や新たな性質のセキュリティ課題に対し、根本から対応することができる。内在型セキュリティアーキテクチャを導入することによって、開放性と制御可能性の両立を実現する。たとえサプライチェーンに安全上の欠陥があったとしても、本システムはオープンな条件下において「アウト・オブ・ザ・ボックス(すぐに使用可能)」かつ「セキュア・バイ・デフォルト(初期状態で安全)」というネットワークレジリエンスを維持できる。

 総じて言えば、オンチップ生成型可変構造コンピューティングは、中国が計算能力チップにおける「プロセス技術というコクーン」を打破するための新たな道を切り開くものであり、「三流の素材、二流のプロセス」で「一流の能力」を実現するという、システム工学的な革新の方向性を示すものである。応用と設計、アルゴリズムと計算能力の垂直統合を通じて、中国の計算能力インフラ製品が最先端の半導体製造プロセスに過度に依存してきた現状から脱却し、アーキテクチャと製造技術の進歩から得られる複合的な利益を最大限引き出すことが可能となる。オンチップ生成型可変構造コンピューティングは、グローバルなインテリジェントコンピューティングの普及に対しても、中国発のソリューションを提供することが可能だ。

 ウェハーレベルの集積・パッケージングに基づく生成型可変構造コンピューティングは、アルゴリズムアーキテクチャのブレイクスルーと物理プラットフォームの革新、アルゴリズム工学的実装と計算パラダイムの刷新との深い結合を実現する新たな方向性を切り開いた。現在、基礎理論のブレイクスルーを早急に推進すべき段階にあり、オン・ウェハーの熱力学、ヘテロジニアス集積理論、リコンフィギュラブル・アーキテクチャの数学的記述といった中核的理論の重点的な研究開発が求められている。同時に、コア技術への継続的な取り組みとして、ウェハーレベル接合、3Dインターコネクト、ウェハーレベルのOS、生成型構造コンピューティングの言語およびコンパイラなど、鍵となる技術のブレイクスルーを図り、アーキテクチャ設計から物理実装、技術応用に至る独自のエコシステム構築を目指すべきである。さらに、スマートドライビング、エンボディドAI、産業デジタルツイン、AI一体型端末といった新興市場のニーズを牽引力とし、多次元的に基盤産業の育成を推進する必要がある。「シーンの開放」「システムの革新」「エコシステムの集約」という三位一体のアプローチを通じて、「スモールヤード・ハイフェンス」や「抑圧・封じ込め」といった構造的障壁を打破し、常識を超えたイノベーションと戦略的施策によって、中国の特色ある技術的平等と産業の持続可能な発展の道を切り開いていくべきである。


※本稿は、科技日報「中国智算如何实现"DeepSeek式突围"」(2025年3月31日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。

 

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