【25-058】環境に溶け込み衝撃に耐える 真珠層を模倣した新素材を開発
呉長鋒(科技日報記者) 2025年07月02日
中国科学院院士(アカデミー会員)で、中国科学技術大学化学・材料科学学院教授の兪書宏氏率いる研究チームが、構造と機能を一体化した真珠層模倣型の複合材料を開発した。
この複合材料は、独自の色調調整機能と優れた電磁波透過性能を備えており、軽量、高強度、高靱性、耐衝撃性能といった多様な特性があるという。関連する研究成果は、国際科学誌『Advanced Materials』に掲載された。
現代の工業においては、防護用構造材料の設計には多面的な性能が求められている。すなわち、軽量化を実現しつつ、優れた力学特性を兼ね備え、さらに用途に合わせたさまざまな機能にも対応できる必要がある。
自然界の生物が持つ「鎧(よろい)」は、防御に必要な機械的強度を維持しながら、周囲の環境の色に溶け込むようなカモフラージュ効果も実現している。例えば真珠層は、アコヤガイなど一部の貝類に見られる内殻層であり、精巧な多層微細構造によって、構成成分を大きく上回る破壊靱性を示し、人工材料の設計に対して重要なバイオミメティクス(生物模倣)的示唆を与えている。しかし、材料工学の分野において、このような自然構造のバイオミメティクスの応用、特に優れた力学的性能を維持しながら機能の統合を実現することは、長年にわたり困難な課題とされてきた。
研究チームは「二種酸化物界面設計戦略」を提案し、蒸発自己組織化と高温焼結により、新たな真珠層模倣型の酸化アルミニウムセラミック基複合材料を作製した。この設計戦略では、酸化アルミニウムのマイクロシート間に「ミネラルブリッジ構造」を構築することで、機械的強度と靱性を大幅に向上させると同時に、固相反応によって組み立てたマイクロシートの界面化学組成を調整し、制御可能な着色を可能にしている。
研究の結果、このバイオミメティクス複合材料は、市販されている酸化アルミニウムセラミックスの3倍以上の破壊靱性と、4倍以上の衝撃エネルギー吸収能力を持つことが示された。さらに研究チームは、真珠層の構造から着想を得て、電磁波伝送に関する新たな設計理念を打ち出した。その設計により示された効率的な電磁波透過性能は、以下の三重構造の相乗効果によって実現している。すなわち、①層状のセラミックスフレームと低誘電率ポリマーによって形成されるマイクロスケールの電波透過チャネル、②非晶質シリカによるミネラルブリッジ、③単結晶酸化アルミニウムマイクロシートにおける光軸の垂直配向、である。この構造設計により、力学的性能と電磁波透過性能の相乗的な向上が実現している。
研究チームは今回の研究で、バイオミメティクス構造材料において、機械的ロバスト性、色彩によるカモフラージュ機能、電磁波透過機能といった複数の特性を統合する上で重要な進展を得たとしている。こうした設計戦略は、機械的性能と機能特性を融合させるものであり、「ステルス性」と防護性能を兼ね備えたバイオミメティクス層状構造材料の開発に向けて、新たな道を切り開くものと考えられる。
※本稿は、科技日報「仿珍珠母新材料可"隐身"能防护」(2025年6月12日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。