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【25-061】わずか20ミリの微生物電池、神経と血圧の制御に応用

羅雲鵬(科技日報記者)、朱詩穎(科技日報通信員) 2025年07月14日

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生物電池の実物写真。(取材対象者提供)

 生物電池は微生物燃料電池とも呼ばれ、電気活性を持つ微生物の代謝活動を利用して発電する新しいバイオエネルギー装置である。この「生きた電池」は、高い環境適応性と優れた生体適合性を備えており、生理学的モニタリングや埋め込み型医療機器への給電、持続可能なエネルギー供給の課題解決などにおいて、重要な役割を果たしている。

 技術の進歩に伴い、生物電池は小型化や携帯化が進んでおり、将来的にはスマートウォッチや心臓ペースメーカーといったミリワット級の低消費電力デバイスへの電力供給手段として期待されている。

 最近、中国科学院深圳先進技術研究院・定量合成生物学国家重点実験室の鍾超研究員のチームが、中国科学院深圳先進技術研究院・集成所神経工学センターの劉志遠研究員のチーム、深圳大学の王任衡博士のチームと共同で、3Dプリントによる生体ハイドロゲル技術を利用し、直径わずか20ミリの超小型ポータブル微生物燃料電池の開発に成功した。

 この燃料電池は、生体電気刺激装置を革新的に統合しており、神経細胞(ニューロン)を刺激することで電気生理および血圧の精密な制御を可能にしている。疾患治療への応用が期待される技術であり、ポータブル生物デバイスの進展を後押しするとともに、生体エネルギー材料の研究フロンティアを広げる成果となった。研究結果はこのほど、国際的学術誌「Advanced Materials」に掲載された。

優れた性能を持つ生物電池

 今回の研究では、研究チームがシュワネラ菌をベースに、革新的な3Dプリント対応の生体ハイドロゲル材料を開発した。このバイオマテリアルは独特の弾性を持っており、3Dプリント技術を活用することで、蜘蛛の巣状や葉状といった、1次元から3次元にわたる複雑な構造を自在に構築できる。

 研究チームはまた、微生物を装置内で常に活性状態に保つため、入念に設計したプロセスを採用した。まず、液体状態の微生物をアルギン酸塩系ハイドロゲルに封入し、その後、このハイドロゲルにナノセルロースと酸化グラフェンを加えた。この手法により、材料の機械的強度と導電性が大幅に向上した。

 従来のリチウムイオン電池の製造技術からヒントを得て、研究チームは陰極と陽極を分離した最適化設計を採用した。具体的には、生体ハイドロゲルを陽極に、フェロシアン化カリウムを含むアルギン酸塩ハイドロゲルを陰極に使用し、3Dプリント技術によって高性能電極構造を作製した。最終的に、直径わずか20ミリの超小型生物電池システムを構築することに成功した。

 実験の結果、この超小型電池は安定して450ミリボルトの電圧を出力でき、最大で10回の自己充電と放電を繰り返すサイクルを完了した。

 鐘氏は「電池が供給サイクルを終えた後でも、細菌の生存率は97%に達している。連続して100時間稼働させた場合でも、細菌は90%以上の高い生存率を維持しており、この電池の優れた生体適合性が示された」と説明した。

 さらなる性能試験により、この生物電池は優れたサイクル安定性を有し、エネルギー損失も極めて小さいことが確認された。また、従来の電池で使われるコバルトやリチウムといった希少金属や、有毒な電解質を一切使用しておらず、環境面で顕著な優位性がある。現在のところ、エネルギー密度は1リットルあたり0.008ワット時、出力密度は1平方センチメートルあたり8.31マイクロワットにとどまっており、市販のリチウムイオン電池とは差があるものの、すでに低消費電力デバイスの電源としては基本的なニーズを満たす水準に達している。

瞬間刺激という新たな応用シーンに照準

 論文の筆頭著者である王新宇氏は、「研究は『紙の上のイノベーション』にとどまらず、実際に応用可能なシーンを見つける必要がある。生物電池は技術概念としては新しいが、細菌の活性などの要因に制約されているため、継続的かつ安定的な電力供給が求められる場面では性能を十分に発揮できず、そのことが広く応用される上での大きな障害となっている」と説明する。

 生物電池のこうした特性を踏まえ、研究チームは瞬間的な神経刺激という精密医療の一分野に照準を合わせた。チームはコンデンサシステムの統合により電力の精密な制御を実現し、神経調節に適した生物電池の応用ソリューションを開発することに成功した。

 ラットの坐骨神経を対象とした刺激実験では、生物電池の出力強度が段階的に増加するにつれて、誘発される活動電位と筋電信号の振幅が、明確な用量依存的増加を示した。

 さらに、生物電池の出力を調整することで、ラットの血圧は明確に低下し、収縮期血圧は23.5%、拡張期血圧は18.7%下がった。刺激を停止すると、血圧は自然に基準値レベルまで回復した。

 これらのデータは、生物電池が神経介入治療に有効であることを示すとともに、その独自の優位性も明らかにしている。すなわち、細菌代謝の自然な変動特性が、瞬間的な神経刺激のニーズと高度に一致しており、高血圧などの疾患に対する精密な神経調節に、革新的なソリューションをもたらす可能性がある。

 王氏によると、研究チームは今後、生体ハイドロゲルをベースにした埋め込み型生物電池の開発を計画している。人体の血糖を持続的なエネルギー源として活用することで、医療機器の自律駆動を可能にするという。この研究は、合成生物学と材料科学の学際的なイノベーションを体現するだけでなく、環境負荷の少ない持続可能なエネルギー技術の発展に新たな方向性を示すものであり、医療用埋め込みデバイスや環境モニタリングセンサーなどにおいても応用の可能性を秘めている。

 将来的には、菌種の選定や材料設計の改良、電池構造の制御などの方法で、生物電池の性能をさらに高め、技術の実用化を推進していくという。


※本稿は、科技日報「细菌造电池能精准调控神经血压」(2025年6月11日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。

 

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