【25-068】「医学デジタルヒューマン」が上海で実用化 仮想患者への外科手術を実施
馮 妍、王 春(科技日報記者) 2025年07月31日
手術ロボットの操作台に座ると、目の前のモニターには仮想患者の腹腔内が映し出される。執刀医は操作用のハンドルを使うことで、牽引や切開などの動作が実行でき、画面に表示された点線や操作ガイドが、執刀医を誘導する......。
上海交通大学医学院附属瑞金医院は、シーメンスデジタルヘルスケア(上海)有限公司や上海元感知視訊科技有限責任公司と共同で、このような視覚・聴覚・触覚フィードバック型メタバース仮想手術システムを開発した。このシステムは、上海市が発表したメタバース重要応用シーン建設成果リスト第2弾にも選ばれた。
同医院では先日、メタバースを活用した医学デジタルヒューマンの応用体験イベントが行われた。
同医院学科計画処の左銘主任は、「この操作台は実際のものとまったく同じ構造だが、唯一の違いは、目の前にいるのが実際の患者ではなく、仮想の患者ということだ。このシステムではリアルな映像表現に加えて、『力のフィードバック』を再現するシミュレーション技術が用いられており、手術中の操作感覚が正確に再現できる。医学デジタルヒューマンを中核とする医療応用シーンでは、執刀医が操作台でハンドルを握ると、わずかに力を加えただけで、まるで実際に器具を使っているかのような力がフィードバックされて伝わってくる」と説明した。
同システムは、臨床手術をシミュレーションする中国初のトレーニングシステムだ。これにより、若手医師は実際の手術で応用可能な操作スキルを迅速に習得できるという。
医学デジタルヒューマンを応用することのもう一つの大きな利点は、豊富な症例リソースが利用でき、これらのリソースが継続的に更新・拡充されていく点だ。左氏は、「これにより、実習医師は臨床実習に入る前に大量の実践経験を積むことができる」と話した。
システムには10種類以上の手術トレーニングモードが搭載されているほか、個別にカスタマイズされたカリキュラムや評価システムも備わっており、医師が自らの操作上の課題を迅速に把握し、改善するのに役立つ。
瑞金医院では、計算医学や統合モデリング、フィードバックインタラクションなど、デジタルヒューマン構築における重要な課題を克服することで、医学デジタルヒューマンの発展を推進し、より多様な中核的医療応用シーンの構築を目指している。
左氏は、「たとえばEC販売のバーチャルキャスターなどの一般的なデジタルヒューマンは、人間の『見た目』を模している。しかし、医学デジタルヒューマンには、生理システムの仮想構造も必要で、それにより、患者の体内状態をシミュレーションできるようになる。当院が医学デジタルヒューマンの医療応用で掲げるもう一つの目標は、外科手術の先行試験だけでなく、革新的な内科的治療法についても、まずは医学デジタルヒューマン上で事前検証できるようにすることだ」と語った。
AI技術を組み合わせることで、医学デジタルヒューマンは今後、より高度な知能を持つ方向へと発展していくという。左氏は、「医学生がデジタルヒューマンと対話することで、症状を把握し、適切な薬を処方する。デジタルヒューマンが薬を服用すると、システムはその吸収、代謝、排出にかかる時間を示し、さらに副作用まで表示されるようになる。将来的には、医学教育や臨床実践に変革をもたらす多くのデジタルヒューマンが登場するのを期待している」と語った。
※本稿は、科技日報「外科手术在虚拟病人身上先行先试」(2025年7月2日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。