【25-073】高温超電導材料産業の革新的発展を推進すべき
馬衍偉(中国科学院電工研究所副所長) 2025年08月20日
(画像提供:視覚中国)
近年、超電導技術がエネルギー、医療、交通などの分野で応用上のブレイクスルーを果たしたのに伴い、高温超電導産業は材料と応用が互いに促進し合い、発展の勢いを示している。この産業は大きな発展のチャンスを迎えている一方で、多くの課題にも直面しており、産学研(産業、大学、研究機関)が連携して力を発揮し、産業化の発展を加速させ、最先端技術を開発することで、高磁場・強電分野の戦略的需要を満たすことが急務となっている。
発展の機会を迎えた高温超電導材料産業
超電導材料はゼロ抵抗や完全反磁性といった性質を持ち、従来の材料では実現不可能な大容量無抵抗送電、超強磁場などの応用を実現できる。これらは経済的・戦略的に非常に重要な先進材料だ。中国の「国家戦略的新興産業発展計画」や「未来産業の革新的発展推進に関する実施意見」など複数の国家発展戦略計画で、超電導材料は未来の新興産業における重点突破方向として位置づけられており、超電導材料などの最先端新材料の革新的応用を加速させることが明確に打ち出されている。現在、中国の高温超電導材料産業は大きな発展のチャンスを迎えており、主に以下の側面に現れている。
一つ目は、高温超電導材料の大規模製造技術がブレイクスルーを遂げたことだ。実用的な高温超電導材料には、主に銅酸化物超電導材料、二ホウ化マグネシウム超電導材料、新型鉄系超電導材料がある。イットリウムバリウム銅酸化物(YBCO)に代表される銅酸化物高温超電導線材の大規模生産では、長江デルタ地域の複数の企業が、すでに数千メートル級の線材生産能力を持ち、国際的な先進レベルの仲間入りを果たした。二ホウ化マグネシウム超電導材料の分野でも、中国は数千メートル級長線技術のブレイクスルーを実現した。新型鉄系超電導材料の実用化研究開発分野でも、高性能長線製造技術が進展し、1000メートル級長線製造プラットフォームを構築し、実用的な高温超電導材料産業に新たな競争分野を切り開いている。
二つ目は、高温超電導材料をベースとした産業応用が日々成熟していることだ。高温超電導電力応用分野では、中国は配電級超電導ケーブル、超電導変圧器、超電導限流器、超電導蓄電システムなどの超電導電力設備を開発した。超電導変電所を建設し、系統連系実証運転を実現した。また、1.2キロメートル高温超電導ケーブル商業化実証区間が上海で稼働し、独自開発した10キロボルト三相同軸高温超電導交流ケーブルが深圳で稼働した。超電導磁石応用分野では、26テスラ/50ミリメートル開口部高磁場超電導磁石が懐柔国家重要科学技術インフラで利用されている。独自開発したメガワット級高温超電導誘導加熱装置も稼働し、高温超電導磁気浮上単結晶シリコン成長装置は、先進シリコン結晶製造分野における複数の空白を埋めた。さらに、初の高温超電導電動浮上全要素試験システムが車両浮上運転を実施した。これらの応用は、高温超電導材料の応用シーンがますます豊富になり、産業エコシステムが持続的に改善されていることを示している。
三つ目は、高温超電導材料の市場需要が爆発的に増加していることだ。近年、高温超電導材料の継続的な発展により、小型化・低コストの商業用核融合炉が現実のものになった。将来、商業用核融合炉は20テスラ以上の磁場強度で運転されることが想定されており、各炉に必要な高温超電導線の総延長は5000〜10000キロメートルに達するだろう。核融合炉の商業化の推進により、高温超電導材料は産業発展の歴史的かつ重要な機会を迎えており、世界の市場需要は2020年以降10倍以上増加し、毎年数千キロメートルに達している。現在、世界の商業核融合分野の企業総数は40社を突破し、合計で70億ドル(1ドル=約148円)以上の投資を集めている。将来、核融合の主要技術がブレイクスルーを遂げれば、市場規模は毎年数千億ドル級になるだろう。このほか、高エネルギー加速器分野では、欧州は16〜20テスラ高磁場超電導磁石を次世代加速器に利用する計画であり、中国が提案する次世代高エネルギー加速器の磁場強度は16〜24テスラと国際最高水準に達するだろう。これらのビッグサイエンス装置は数千個の高磁場超電導磁石で構成されており、いずれも数千トンの超電導材料を必要とし、高温超電導材料の産業化発展を大きく牽引するだろう。
産業の「質の高い発展」が直面する多くの課題
現在、中国の高温超電導材料産業の質の高い発展は、材料の費用対効果の低さ、重要技術の弱点、産業チェーンの不完全さなどの問題に依然として直面している。主な課題は以下の通りである。
一つ目は、材料製造コストが高く、大規模応用が制限されていることだ。高温超電導材料は、実用的な性能、大規模製造、生産コストなどの要因により、依然として大規模応用の初期段階にある。例えば、YBCO超電導線材は主に成膜プロセスで製造されており、2023年の「サイエンス」誌の報道によると、その市場価格は150ドル/キロアンペアメートル前後であり、業界で広く認められている50ドル/キロアンペアメートルという大規模応用目標にはまだ隔たりがある。二ホウ化マグネシウムと新型鉄系超電導材料については、粉末装管法で線材を製造することでコストを削減できるが、その高磁場での電流容量はさらに向上させる必要がある。そのため、電流容量を持続的に向上させ、製造コストを削減することが、高温超電導材料の産業化応用の鍵となる。
二つ目は、重要技術に弱点があり、産業化能力が不足していることだ。中国の先端超電導磁石は長年にわたり輸入に依存しており、産業化の発展が比較的遅れている。例えば、大口径高磁場超電導磁石は、先端医療機器、工業用および特殊機器などの分野で重要な設備だが、中国では商用の大口径高磁場超電導磁石の製造技術は未熟であり、関連産業は先進国と競争することができない。核磁気共鳴分光器は生命科学、医薬品開発、材料科学などの分野における先端分析機器であり、近年中国の市場需要は急速に伸びている。しかし、核磁気共鳴分光器市場は長年にわたり海外メーカーが独占しており、中国の商用核磁気共鳴分光器は発展の初期段階にあり、応用における重要技術の研究を強化し、その産業化発展を推進する必要がある。
三つ目は、産業チェーンが不完全で、国産化されていないことだ。中国は高温超電導材料の研究開発および応用分野で豊富な技術的蓄積と比較的完全な産業配置を持っているが、イノベーションチェーンと産業チェーンが不完全で、関連する技術にも弱点がある。例えば、高温超電導材料の研究開発に必要な一部の科学研究設備は、依然として海外からの輸入に依存しており、部品の購入期間が長く、メンテナンス費用が高いといった問題に直面している。高温超電導線材の製造に必要な一部の高純度原材料や高品質ターゲット材なども、海外からの輸入に依存しており、供給停止のリスクに直面しているため、さらなるイノベーションの強化が必要だ。
産学研融合が産業を新たな段階へ押し上げる
上記の課題に対し、中国は、中核技術の研究開発、産業協調発展、イノベーションエコシステム構築の3つの側面から着手している。産学研が相互に協力し、融合発展するイノベーションシステムを形成することで、高温超電導材料産業の発展を共同で推進すべきだ。
第一に、トップレベルデザインを改善し、中核技術の研究開発を統括すること。高温超電導材料は最先端新材料であり、その実用化開発は複数の学際分野にまたがるため、国家科学技術イノベーション戦略の展開とトップレベルデザインを改善し、優れた研究チーム、国家研究拠点プラットフォーム、重要科学技術インフラを統括し、目標指向型研究を強化する必要がある。高性能高温超電導材料の製造および高磁場・強電応用の重要コア技術を重点的に進展させ、産業化発展の基盤を固める必要がある。
第二に、産業協調を強化し、継続的にチェーンの強化と効率向上を推進することが必要だ。高温超電導材料産業の上流では、高純度化学原料、高品質ターゲット材、高強度合金などの原材料の国産化を強化する。産業の中流では、低温冷却技術と設備、材料成形精密加工設備、先端試験分析機器などの関連設備と技術支援を強化する。産業の下流では、エネルギー、電力、交通、医療などの分野における重要な需要に焦点を当て、「市場検証-技術進化-材料高度化」という応用主導型のフィードバック閉ループを構築し、「原材料-関連技術-産業応用」のチェーン全体での協同発展を形成する。
第三に、イノベーションエコシステムを構築し、産業の質とレベルの向上を促進する。国家レベルの支援を基盤とし、地方政府、有力企業が高温超電導材料および応用技術の研究開発への投資を積極的に誘導・奨励し、社会全体が共同で参加・支援する多様な研究開発システムを形成する。業界のリーディング企業が牽引し、産業チェーンの上下流企業、大学、研究機関が参加する協同イノベーションプラットフォームの構築を加速させる。資源共有と優位性の相互補完を実現し、技術標準と業界規範を整備し、産学研が連携した効率的な産業イノベーションシステムを形成することで、高温超電導材料産業の急速な発展を推進する必要がある。
※本稿は、科技日報「推动高温超导材料产业创新发展」(2025年6月30日付)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。