【25-076】より新鮮で甘いライチの生物育種技術、広東省で研究進む
葉 青(科技日報記者) 2025年09月03日
広東省東莞市の「荔新公園」で、実がたわわに実ったライチの木。(画像提供:視覚中国)
中国ではこの夏、ライチが「果物界のトップスター」として注目を集めている。ドラマ「長安の荔枝(ライチ)」の放送に続き、同作品の映画版も7月18日に公開された。作品は、千里を超えてライチを届ける「宅配の物語」を描いているが、ライチは足が速い果物だ。詩人の白居易(白楽天)は「荔枝図序」の中で「もし本枝を離れれば、一日にして色変じ、二日にして香変じ、三日にして味変ず。四日、五日外は色・香・味尽く去る」と記している。古代では、速馬や氷冷による輸送を尽くしていたとしても、楊貴妃が口にしたライチは、もはや本来の風味や甘みが損なわれていたと考えられる。
しかし現代では、生物育種技術の進歩により、科学者たちはライチの味や貯蔵性などの特性を遺伝資源の段階から改善し、収穫期を延ばしている。そのため、現代の人々は、楊貴妃よりも美味しいライチを味わえるようになっているのだ。
分子マーカーによる補助育種
国家ライチ・リュウガン産業技術体系の初代首席科学者で、華南農業大学教授の陳厚彬氏は、「早熟・貯蔵運搬性の低さ・隔年結果など、ライチが抱える諸問題は、育種によって根本的に解決すべきだ」と語る。
ライチの新品種育成には現在、実生選抜と交配育種が主に用いられている。うち実生選抜は自然受粉による育種だが、収穫時期、果実の色、大きさなどの目標形質を人為的にコントロールできない上、遺伝資源が掘り起こされ続けるにつれ、優良な遺伝資源がますます少なくなっている。一方、交配育種は品種間の遺伝的差異を利用し新たな遺伝組み合わせを生み出す方法だが、ライチは遺伝背景が複雑で、関連形質の遺伝規則や分子メカニズムが解明されていないため、育種の進展は遅い。今年話題となった新種の「仙桃ライチ」は、育成には15年を要したという。
広東省のライチ・リュウガン産業イノベーションチーム育種専門家の厳倩氏は、「ライチの育種は、期間の長さと効率の低さという二つの大きな課題に直面しており、当面の急務は、育種期間の短縮と精度の向上だ。ライチ分子遺伝学の進展により、表現型に関連する分子マーカーが数多く開発され、補助育種に利用されている。分子マーカー育種により、ライチの育種の効率と精度が大幅に向上している」と述べた。
分子マーカーとは、個体や集団間のDNA配列の差異を示す特異的なDNA断片のことだ。各ライチ品種は固有の遺伝子配列を持っている。華南農業大学園芸学院の趙傑堂教授は、「熟期の異なる品種間では、分子マーカーに違いがある。われわれは早熟・中熟・晩熟の品種から遺伝子を抽出・比較することで、熟期を決定づけるマーカーを特定している。分子マーカーが得られれば、品種の性質を早期に予測できる」と説明した。
厳氏も「従来の育種は『運次第』で、ライチの幼木期が終わって果実が実るまで待たないと、その形質が分からなかった。しかし分子マーカーによる育種では、目標形質を持つ苗木を的確に選抜でき、苗の段階で性質検査ができるため、育種期間の短縮とターゲット育種が可能になる」と語った。
優良品種の量産に期待
今年6月には広東省農業科学院果樹研究所にある国家ライチ・バナナ遺伝資源圃(広州)で、「清風」「離娘香」「仙進奉」など、ライチの遺伝資源展示イベントが行われた。会場には100種類以上の育種素材が展示され、参加者の関心を集めた。評価によって確定された高耐病性のライチべと病菌遺伝資源、高アミノ酸含有量遺伝資源、高糖度遺伝資源、高酸度遺伝資源、多収性遺伝資源、貯蔵・運搬耐性遺伝資源などは、現代の生物育種による新たな成果だ。
厳氏は、「たとえば『清風』ライチはハート型で皮が鮮やかだ。人気品種『桂味』より7~10日早く成熟する上、品質も優れている。『桂味』の課題であった種の大きさの不安定さを解消し、種が小さく果肉が多い確率は99%以上となっている。これは実生選抜に分子マーカー選抜を組み合わせた成果だ」と詳しく説明した。
ここ数年、ライチの新品種が次々と登場しているが、分子マーカー補助育種技術の進展なしにはありえない。厳氏は、「現在、果実の熟期に関するマーカー開発は成熟段階にある。われわれが開発した種が小さく果肉が多い形質、果肉の糖組成、含有量に関するマーカーは、種が小さく、糖酸比が適切な優良株を早期に選出するために使うことができ、精度が高く、ほぼ期待通りの結果になっている」と語った。
ライチはムクロジ科レイシ属の常緑高木だ。ライチの重要な分子マーカーの開発を容易にするため、華南農業大学では、ムクロジ科ゲノムデータバンクを専門に設立している。趙教授は、「われわれはライチの種子の大きさ、糖酸比、熟期などの形質を決定する分子マーカーをすでに見つけている。今後は、ライチの病虫害耐性、矮化、貯蔵・運搬性といった形質についても分子マーカーの開発を進めていく予定だ。マーカーの数が増えれば増えるほど、早期の正確な選抜が可能になる。分子マーカーによる補助育種技術を活用することで、超早生・超晩生の高品質ライチ品種の育成が見込まれており、収穫期を分散・延長することで、ライチの旬の期間を延ばせることが期待される」と強調した。
※本稿は、科技日報「生物育种技术让荔枝更鲜甜」(2025年7月23日付)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。