【25-082】オピオイドの常用は認知機能の低下につながる
AsianScientist 2025年09月26日
新たな研究から、オピオイド常用者は認知症を発症するリスクが20%高いことが明らかになった。
人々の寿命がかつてないほど長くなるにつれ、認知症は世界で最も差し迫った健康問題の一つとして問題視されている。世界中で、既に何百万もの家庭がその壊滅的な影響に苦しんでおり、治療法の見通しが立たない中、研究者たちは管理や予防が可能なリスク要因の特定に力を注いでいる。
考えられる要因は数多くあるが、鎮痛剤が最初に思い浮かぶことはないであろう。しかし、新たな研究から、非がん性慢性疼痛(CNCP)の一般的な治療薬であるオピオイドを常用すると、認知症、特に血管性認知症のリスクを著しく高める可能性があることが分かった。
CNCPとは、がんとは無関係の3か月以上続く持続的な痛みのことを指す。世界人口の約30%が罹患しており、着実に増加すると予想されている。
この研究論文は「Alzheimer's & Dementia」誌に掲載され、長期にわたるオピオイド使用が脳に及ぼす影響を明らかにし、痛み、薬物療法、認知機能低下の複雑な関連性について新たな知見を提供するとしている。
この研究から、オピオイド常用者は、他の鎮痛剤使用者と比べて、あらゆる認知症を発症するリスクが20%高いことが明らかになった。強力なオピオイド使用者ではさらに高く、認知症発症リスクは70%以上になる。一方、非オピオイド鎮痛剤使用者の認知症リスクは、非使用者と同程度であった。
この研究では、英国の大規模生物医学研究データベースであり研究インフラでもあるUKバイオバンクを利用して、37歳から73歳までのCNCP患者197,673人を対象とする前向きコホート研究を実施した。追跡調査の平均期間は13.8年であった。
研究は、マサチューセッツ州チェルシー退役軍人ホームの医長であるジェド・A・バラシュ(Jed A. Barash)氏およびペンシルベニア大学のW・アンドリュー・コフク(W. Andrew Kofke)教授の協力を得て、中国科学院深圳先端技術研究所の准研究員であるシャ・フェン(Sha Feng)氏が中心になって行われた。
研究チームは論文の中で、「この研究結果は、オピオイドの長期使用が神経毒性を作り、認知症のリスク増加と関連していることを表している。これは、CNCPの管理においてオピオイド使用の認知リスクを評価することの重要性を裏付けるものである」と述べている。
1990年代半ば以降、オピオイドはCNCPの管理に広く処方されてきたが、不適切な使用、依存の問題、そして高効力オピオイドの誤用が公衆衛生上の懸念を引き起こしている。
論文には、「これまでの研究では、オピオイドの使用が内因性オピオイド系に影響を及ぼし、海馬やその他の中枢神経系領域に障害を与え、認知機能低下や認知症のリスクを高める可能性があることを述べていた」という記載がある。
脳スキャンの結果、強力なオピオイドの常用は、記憶に不可欠な領域である白質や海馬を含む脳全体の大きさの縮小と関連していることがわかった。オピオイド使用者は流動性知能の検査でも成績が悪かったものの、薬の服用や予定を忘れないでいることなど、未来に行うべきことを記憶する能力である展望記憶には大きな影響は見られなかった。
研究結果は、オピオイドが認知症やその他の健康リスクに与える影響について評価する際に、オピオイドの強度と使用期間の両方を考慮する必要性を示している。
発表論文:Regular use of opioids and dementia, cognitive measures, and neuroimaging outcomes among UK Biobank participants with chronic non-cancer pain
原文記事(外部サイト):
●Asian Scientist
https://www.asianscientist.com/2025/08/health/regular-opioid-use-may-lead-to-cognitive-decline/
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Source:Shenzhen Institute of Advanced Technology; Image: Shutterstock
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