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【25-084】AIが支える新材料開発 産学研協力の可能性と課題

朱 虹(科技日報記者) 邱彩依(科技日報実習生) 2025年10月06日

 先日開かれた第7回中国国際新材料産業博覧会で、「人工知能が未来の材料技術革新を加速させる」をテーマにした円卓対話が行われ、業界の注目を集めた。大学などの高等教育機関や企業、投資機関の専門家・学者らが一堂に会し、AIがどのように材料開発のロジックを再構築し、コスト削減や効率向上を実現できるかを議論した。また、データ共有や人材不足といった業界の課題について、政策支援や技術開放など、多面的な解決策も提案された。

 これまでの試行錯誤型から、設計図に沿って狙いを定める方法へと、AIは現在、新材料産業の全工程に深く関わるようになっている。北京理工大学材料学院の程興旺党委員会書記は、「私たち材料研究者には『正方向の材料設計』を実現したいという夢がある。材料設計や計算材料学、統合計算材料工学、さらには材料ゲノムやマテリアルズ・インフォマティクスに至るまで、研究者たちは長年にわたりその夢を追い続けてきた。研究者はAIを活用することで、フォワード設計や逆方向からの最適化を行い、目標達成を加速できる」との見解を述べた。

 企業の実務においても、AIの価値が徐々に高まっている。華為(ファーウェイ)副総裁で、石油・ガス・鉱山部門の最高経営責任者(CEO)である韓碩氏は、「製鉄の現場では、高炉は多様な要因が複雑に作用する『ブラックボックス』のような存在であり、溶けた鉄の温度やケイ素の含有量の予測を難しくしている。しかしAIの導入により、華為と宝武集団が共同開発したシステムでは、高炉の温度やケイ素の含有量の予測精度が92%以上に向上し、生産効率も上がった。その結果、溶けた鉄1トン当たりの生産コストが3~4元(1元=約21円)削減された」と説明した。AIを活用することで、中国石油・錦州石化では単一装置で年間700万元のコスト削減を実現し、雲南雲天化のガス化炉ではエネルギー消費を1.5%削減する効果があった。韓氏は「AIは材料研究開発を『海に落とした針を探すような作業』から、『高精度のマッチング』へと変えつつある」と述べ、この変化が単発的な応用から工程全体の最適化へと広がっていると指摘した。

 将来性は大きいものの、AIによる新材料開発には、依然として多くの課題が存在する。中でも最も大きいのは、データの問題だ。研究開発ではデータ収集やクリーニングに膨大な時間がかかり、論文データの品質にもばらつきがある。また、工業データはソースが分散しているため、基盤となるデータの信頼性が低く、どんなに先進的なAIモデルでも機能しなくなると考える専門家も多い。

 ハルビン工程大学材料科学・化学工程学院の楊飄萍院長は「鉄鋼やセメントといった従来の材料はデータが比較的豊富だが、生体材料や高強度材料などの新しい材料はデータが不足している。さらに業界全体に『データを共有せず、公開しない』という傾向があり、AIモデルの訓練に必要な質の高いデータが欠けている」と語った。

 このほか、倫理や人材に関する問題も徐々に目立ってきている。程氏は、「AIモデルに依存しすぎると、科学研究者の『格物致知(自然や事物を探究して知識を得る)』の精神が損なわれ、長期的には業界全体の研究開発能力が低下してしまう可能性がある。また、アルゴリズムの提供者と、材料研究開発者の貢献の境界があいまいなため、知的財産権の帰属をめぐる意見の食い違いが、潜在的な倫理的リスクになり得る」と懸念を示す。

 韓氏は、産業界において3種類の複合型人材が強く求められていると指摘する。すなわち、AIツールを開発する人材、成果を検証する業界の専門家、そしてAIを現場に応用できる人材だ。彼は、「現在、この3タイプの人材はいずれも不足しており、産学研(企業・大学・研究機関)連携推進を制約している」と強調した。

 専門家らは、業界のウィークポイントについて、国や企業などのさまざまなレベルでのソリューションを提案している。プラットフォームや基礎研究については、楊氏は「国家級実験室の建設を強化し、安定した支援を通して、『AI+材料設計』のメカニズムの研究を進めるとともに、データの壁を打破し、全国的なデータ共有メカニズムを構築する必要がある。蘇州大学AI高通量研究開発センターのモデルを参考にして『クラウド実験室』を構築し、スパコンとクラウドコンピューティング資源を集約することで、中小企業に低コストのシミュレーションサービスを提供することができる」と提案した。

 技術の開放と協力が中小企業にとっての突破口となる。韓氏は「中小企業に低コストのデジタルトランスフォーメーション(DX)ツールを提供し、AI応用の技術的ハードルを乗り越えられるよう支援する計画だ。華為は計算基盤や非機密のアルゴリズムツールキットを開放し、知的財産を共有する協力モデルの構築を進める方針だ」と述べた。

 専門家らは「AIによる新材料開発は産業高度化の必然的な流れであり、産学研が連携してデータ、人材、倫理の課題を解決してこそ、AIは材料分野の質の高い発展を支える『加速器』となり得る。今後、政策の具体化や技術開放、エコシステムの整備が進むにつれ、AIと新材料の融合はさらに展望が開ける」との考えで一致した。


※本稿は、科技日報「产学研合作推动AI赋能新材料」(2025年9月11日付)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。

 

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