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【25-090】血管の老化と心筋線維化のメカニズムを解明

朱 虹(科技日報記者) 衣暁峰(科技日報通信員) 2025年10月15日

 人は年齢を重ねるにつれ、動脈硬化や心筋線維化、心不全などの疾患がしばしば複合的に発生し、心血管の健康を脅かす。中国工程院院士(アカデミー会員)で、ハルビン医科大学薬理学教授の楊宝峰氏とその研究チームはこのほど、国際的な心血管医学分野の学術誌「European Heart Journal」に研究成果を発表した。これらの研究は、RNAエピジェネティック調節とRNAスプライシングという最先端の微視的領域から出発し、血管の老化と心臓線維化の複雑なメカニズムを解明し、難治性心血管疾患の治療に理論的基盤を提供している。

血管老化の鍵分子を特定

 楊宝峰チームはこの研究において、重要なRNA調節分子であるMETTL14に注目したアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター技術と最新の遺伝子ノックアウト技術を用いて、高齢マウスの血管内皮細胞におけるMETTL14の発現を特異的に低下させたところ、マウスの血管機能が著しく改善し、血管弾性が回復するなど、抗老化効果が認められた。

 さらに研究を進めた結果、血管老化の過程において、内皮細胞でのMETTL14発現が上昇すると、免疫認識受容体TLR4 mRNAの特定部位が修飾され、この修飾が持続的な慢性低炎症反応を引き起こすことが分かった。こうした慢性炎症状態が最終的に血管内皮細胞の老化プロセスを加速させ、血管硬化や拡張機能異常をもたらすという。

 この発見は、RNAエピジェネティック調節が血管老化において果たす重要なメカニズムを明らかにしただけでなく、将来的に、血管老化を抑制する精密な標的経路の開発に新しい方向性を提示するものとなった。

抗心筋線維化の新たな標的を発見

 多くの心疾患は悪化が続けば、最終的に心筋線維化を引き起こす。これは、弾力に富む心筋細胞が徐々に硬い線維組織に置き換わり、心臓が「硬化」して、血液を送り出す能力が低下し、最終的には心不全を誘発することになるという。

 楊氏の指導の下、ハルビン医科大学薬理学教授の梁海海氏率いるチームは、RBMS1と呼ばれるRNA結合タンパク質に着目した。この種のタンパク質は「分子のはさみ」と見なされ、遺伝子のRNA産物をさまざまな方法で「切り取り」、機能の異なるタンパク質変異体を生成し、細胞の生理活動を精密に制御する。

 研究チームは、心不全の患者およびマウスの心臓でRBMS1の含有量が著しく増加していることを発見。薬物抑制あるいは遺伝子ノックアウトによってRBMS1含有量を低下させると、心不全の進行を効果的に抑制できることが分かった。さらに、RBMS1がLMO7遺伝子の正常な働きを妨げ、この遺伝子に変異を引き起こすことも判明した。この変異が、線維化を促進する中核因子であるTGFβ1の発現を過度に活性化させ、心臓組織を「硬化」させ、最終的に心不全を引き起こす。

 拡張型心筋症患者の心臓組織でも同様のパターンが観察された。

 したがって、「分子のはさみ」であるRBMS1の活性を標的として抑制するか、LMO7遺伝子の変異を精密に阻止することが、心筋線維化の進行を阻止する新たな突破口になる可能性がある。専門家は、この発見は心臓線維化の中核メカニズムを深く理解するための新たな視点を広げただけでなく、世界中の数百万人の心不全患者に、心筋線維化に立ち向かい、心臓機能を改善する新しい希望をもたらしたと評価している。

 研究チームは次の段階として、RNA調節メカニズムの標的介入に焦点を当て、抗線維化・抗血管老化の三位一体の新戦略の開発に取り組み、高齢化の課題に対応し、国民の健康水準向上により多くの知恵と科学技術の力を貢献するとしている。


※本稿は、科技日報「血管衰老与心肌纤维化机制揭示」(2025年8月26日付)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。

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ハルビン医科大学

 

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