【25-092】AIとエネルギー産業の相互促進を推進
劉仁厚、張 麗(中国科学技術協会革新戦略研究院) 2025年10月17日
計算コストの低下や利用可能なデータの増加、技術革新の推進により、AI(人工知能)は一つの学問分野から数兆ドル規模の市場を持つ産業へと発展している。その応用は先進製造業の発展や従来型産業のトランスフォーメーション・高度化にもチャンスをもたらしている。
「ダブルカーボン」(カーボンピークとカーボンニュートラル)の目標の下、中国のエネルギーシステムのグリーン・低炭素トランスフォーメーションは、経済・社会全体のグリーン発展を実現するための鍵となっている。AI技術はエネルギーのグリーントランスフォーメーションを加速させることができるが、その大規模な応用にはグリーンエネルギーの支えも必要だ。エネルギー産業とAIの関係を十分に認識し、両者の融合発展を推進することは、中国の科学技術強国建設に対して重要な保障を提供することになる。
AIが牽引するエネルギー発展
2022年に商用大規模モデルChatGPTが登場して以来、生成AIは急速に発展し、DeepSeek(ディープシーク)などの製品が各種ソフトウェアやアプリケーションに広く統合され、エンドユーザー数が急増している。同時にAIはエネルギー分野にも以下のような新たな変革をもたらしている。
AIの発展はエネルギー需要を大幅に増加させた。AIハードウェア製造はエネルギー集約型産業であり、そのインフラの基本的な物理構成要素には、グラフィックプロセッサ(GPU)、テンソルプロセッサ(TPU)、ストレージチップなどが含まれ、非常に複雑なサプライチェーンを有している。フロントエンドチップや半導体生産はいずれも高エネルギー消費の工程だ。さらに、AIモデルの訓練と利用には膨大なエネルギーを消費する。大規模言語モデルの開発加速とサービス需要の急速な増加に伴い、AIの訓練と運用に重点を置いたデータセンターの規模と数が拡大し続けている。国際エネルギー機関(IEA)の試算によれば、大規模データセンター1カ所の年間電力消費量は10万世帯分の年間電力消費量と推定され、現在建設中の世界最大規模のデータセンターでは200万世帯分に相当するという。例えば、ChatGPT-4大規模言語モデルの訓練時間は約14週間で、エネルギー需要は約42.4ギガワット時(GWh)に達し、これは先進国2万8500世帯または発展途上国7万500世帯の1日の電力消費量合計に相当する。
AIの応用はエネルギーシステムの効率を大幅に向上させる。現在、世界のエネルギーは多様化の方向に進んでおり、エネルギーシステムは日増しに複雑になっている。エネルギー供給側では「新旧が共存」し、風力、太陽光、水力、原子力、バイオマスなどの新エネルギーと石炭、石油、ガスなどの従来型エネルギーが相互に補完している。送電側ではデジタルネットワーク化が進み、現代の電力網はより高い比率の再生可能エネルギーの接続に適応する必要がある。使用側では電化が進み、最終エネルギー消費に占める電力の割合が徐々に増加している。AIはエネルギー全体のバリューチェーンに応用でき、高度に複雑なシステムにおいてその強みを発揮する。例えば、発電過程におけるコスト削減や炭素排出削減を実現でき、送電過程では送電線の最適化、調整予測や介入の強化、電力網の故障検知能力の向上が可能だ。さらに、端末応用では、シーンに応じてカスタマイズされたサービスを提供し、デジタルツイン技術を用いてプロセスを最適化し、エネルギー効率を高めることが可能だ。
AI技術はエネルギー技術革新の進展を著しく加速させる。第一に、AIはイノベーションチェーンを最適化し、新技術の検証から普及までの全ライフサイクルコストを削減できる。第二に、予測型AIモデルは特定の材料や候補物質の構造特性を予測でき、生成AIモデルは革新的な実験計画を提案できる。大規模言語モデルは文献を分析し、既存技術を統合することで研究開発プロセスを強力に支援できる。第三に、電池分野では、新しい電池材料の研究開発・試験には通常数年を要するが、AIを用いることで期間を一桁短縮でき、イノベーションサイクルを大幅に短くすることができる。
「双方向の歩み寄り」に立ちはだかる課題
エネルギートランスフォーメーション(EX)を支援する上で大きなポテンシャルを持つAIだが、中国がAIとエネルギーの「双方向の歩み寄り」を推進するに当たり、以下の課題が残されている。
第一に、新しいエネルギーシステムはAIの発展ペースにまだ追いつけていない。発展スピードの面では、短期的に電力供給が急増するエネルギー需要に追いつくのは難しい。AIの急速な発展に伴い、関連するエネルギー需要は急増している。IEAの報告によると、2015年から2024年にかけて、中国のデータセンターは大幅に拡張し、電力需要は年平均15%成長した。これは過去10年間における中国の他産業や社会全体の電力消費の平均成長率をはるかに上回る。また、供給の質の面では、中国におけるAIのエネルギー消費に占めるクリーンエネルギーの割合は依然として低いままとなっている。現在、中国のデータセンターの多くは東部地域に位置しており、その電力消費の大部分は化石燃料、特に石炭に依存している。今後、信頼性が高く、持続可能で、かつ手頃な電力供給の普及がAI発展の鍵となるだろう。
第二に、AIのエネルギー分野での応用は依然として限定的だ。AIは情報・通信技術分野での応用が多いが、エネルギー分野での応用は少ない。一方では、エネルギー分野におけるAIの応用シーンが限られており、現状の応用は主に電力網の運用計画と保守予測に集中している。他方で、高品質なデータの取得が難しい。中国のエネルギーシステムは巨大であり、エネルギー供給、電力伝送、末端負荷がそれぞれ独立しており、企業間でのデータ共有には障壁がある。高品質なデータセットの不足はAIモデルの訓練に影響を与え、結果の偏りや誤りを引き起こし、エネルギー業界におけるAI利用の意欲を低下させる。
第三に、スマート化に伴う新たな安全リスクが徐々に増大している。デジタル化・ネットワーク化への移行が進むにつれ、新しいエネルギーシステムは「技術+インフラ」に依存する度合いが高まり、システムの脆弱性が浮き彫りになっている。AIはエネルギーの「ワット・ビット連携」をさらに加速させ、エネルギーのデジタル資源への転換を推進するが、サイバーセキュリティリスクが大きな懸念となる。また、エネルギーとAIはいずれも銅、アルミニウム、シリコン、ガリウム、希土類元素などの重要鉱物への依存度が高く、両者で必要とする鉱物が重複しているため、サプライチェーンリスクが拡大している。さらに、AIチップの設計・製造の大半は、NVIDIA、Broadcom、AMD、インテルといった米国メーカーによって独占している。米中技術戦争の背景の下、AI産業チェーンの安全リスクは一層高まっている。
AIとエネルギー産業の深い融合を促進
課題に直面する中で、我々はエネルギー産業の変革とAIの技術革命の機会を捉え、科学的な計画、シナリオの開放、システムの安全性向上といった面で取り組み、両者の相互促進と融合発展を推進する必要がある。
第一に、統合的な計画によりAIのグリーン発展を推進する。中国のAIとエネルギー発展計画を統合的に策定し、AI関連産業チェーンのエネルギー消費を整理し、データセンターやスーパーコンピューターセンターの規模や数を合理的に計画し、発展のペースを把握する。AI技術の革新を強化し、技術的な限界を突破し、エネルギー消費を低減する。AIのグリーン電力の使用割合を高め、AI関連の主要なエネルギー消費インフラ建設を再生可能エネルギーの展開と連動させ、AI企業によるグリーン電力の調達を奨励し、産業チェーン全体のグリーン発展を推進する。
第二に、シナリオを順次開放し、エネルギーのスマート化プロセスを推進する。電力システムを基盤として、AIの応用シナリオを段階的に開放し、発電、予測、運用制御などでの応用を普及させる。エネルギー、電力、産業、交通など多分野の連携を推進し、データ資源の共有と流通を実現する。エネルギー分野のモデル開発と訓練を強化し、エネルギー技術革新とAI技術の深い融合を推進する。
第三に、システムのレジリエンスを強化し、安全性を高める。石炭の最終的な保障としての役割を重視し、エネルギー安全保障リスクを防止するための最低ラインと位置付ける。重要鉱物の確保能力を高め、サプライチェーンの安全性を向上させる。デジタル時代の安全保障を強化し、新しいリスク要因を整理し、リストと対応計画を策定し、安全な発展の新たな枠組みを構築する。
※本稿は、科技日報「推动人工智能与能源产业双向赋能」(2025年7月30日付)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。