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【25-096】爬虫類から哺乳類へ-顎関節進化の過程を化石が明らかに

陸成寛(科技日報記者) 2025年10月24日

 博物館で数十年間「眠っていた」二つの化石が、進化の歴史における重要な「変形」の謎を解き明かした。科学誌「ネイチャー」にこのほど掲載された研究によると、中国の研究チームは哺乳類の顎関節進化について、初めて体系的な4段階のモデルを提示し、この重要な解剖学的構造がどのように変化してきたのか、その全過程を明らかにした。今回の成果は、脊椎動物の主要な特徴の進化を理解する上で、新たな視点をもたらしている。

 哺乳類が食べ物をかみ砕き、音を聞くことができるのは、顎関節と中耳の耳小骨が協調して働くためである。哺乳類と爬虫類を隔てる根本的な違いの一つが下顎関節にある。爬虫類では下顎関節を構成する骨が音を伝える役割も担っているのに対し、哺乳類では新しい下顎関節が進化し、聴覚と咀嚼の機能を分離させた。すなわち「機能の専用化」が実現したのである。しかし、化石資料が極めて乏しいため、その進化過程の詳細は長く謎に包まれていた。

 今回の研究で扱われた二つの化石はいずれも1984年に発見されたものだが、長い間ほとんど注目されてこなかった。ひとつは四川省自貢で出土した「川南多歯獣(Polistodon chuannanensis)」の化石で、当時の研究者は「関節突起」があると報告していたものの、詳しい分析は行っていなかった。今回の新しい研究では、高分解能CTスキャンと3次元再構築技術を用いた解析により、「歯骨顆-頬骨窩」から成る独特な二次的顎関節の存在が確認された。これは四足動物としては初めて確認された構造であり、二次的関節の形態に関する従来の見方を改める成果となった。

 もうひとつは雲南省禄豊市で発見されたモルガヌコドン目の化石だ。研究チームはこの化石を模式標本として、新属・新種の「禄豊曲髁獣(Camurocondylus lufengensis)」と命名した。その歯骨顆の構造は単純で、歯骨外稜の末端が上方に折れ曲がって形成されており、まだ球状には発達していなかった。この発見は、「哺乳類の歯骨顆は歯骨外稜の後端から起源する」という仮説を裏づけるものであり、進化過程における重要な中間的形態を補う成果となった。

 論文の責任著者である中国科学院古脊椎動物・古人類研究所の毛方園研究員は、「今回の新発見に基づき、私たちは初めて原始的な顎関節から二次的顎関節への4段階の進化過程を明確に提示した。これにより、爬虫類から哺乳類へと移行する顎関節の変化の過程を示すことができた。さらに研究では、顎関節の進化が複数回の独立した起源をもつことも明らかにした。従来、哺乳類の判定特徴とされてきた『荷重を支える歯骨-鱗骨関節』は、実際には哺乳形類を識別する特徴にすぎず、真の哺乳類冠群を区別する指標にはならないことを示した」と語った。

 注目されるのは、研究チームが進化を促す多様な要因を明らかにした点だ。従来の「小型化が進化を促した」とする仮説では、大型の草食性動物である川南多歯獣の進化を説明できなかった。化石の発掘地で洞窟構造とみられる痕跡が確認されたことから、チームは「環境によって誘発された発生的変異」、すなわち表現型可塑性が顎関節の多様化に重要な役割を果たした可能性を指摘した。

 毛氏は、「今回の成果は、哺乳類の顎関節進化に関する理解を刷新しただけでなく、原始的関節と二次的関節の進化システムを初めて体系化したものだ。咬合の生体力学や環境への適応、行動様式の変化など、複数の要因が相互に作用しながら顎関節の進化を形づくってきたことを示しており、脊椎動物における形態と機能の進化研究に貴重な事例を提供している」と述べた。


※本稿は、科技日報「哺乳动物颌关节演化路线揭示」(2025年10月9日付)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。

 

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