【25-099】量子ドット微球試験紙で食品中の農薬残留を迅速検出
魏依晨(科技日報記者) 朱文芳(科技日報通信員) 2025年10月31日
量子ドット微球試験紙を用いて検査を行う南昌大学食品学院のチーム。(画像は取材先提供)
1枚の試験紙で、わずか5~10分あれば、唐辛子に残留する農薬を検出できる......。南昌大学食品学院の実験室では、このような効率的な検出技術により、これまで複雑だった食品安全分析の手順が一気に簡略化していた。
この技術は現在、江西省内や中国各地の農産物市場やスーパーマーケットなどで応用が始まっており、中国の食品安全管理のあり方を変えつつあるが、その背後には、南昌大学食品学院の「春華秋実」食品安全迅速検出チームによる長年の技術的挑戦があった。彼らは、実験室で用いられる精密分析装置を「1枚の薄い試験紙」に凝縮し、食品中の農薬残留を迅速に検出することに成功した。
南昌大学食品学院の熊勇華研究員は、「私たちは、国が必要とするものを研究する。2002年、国内でほとんど存在しなかった食品安全迅速検出技術の分野に挑み、国内初の商用『痩肉精(塩酸クレンブテロール)』コロイド金試験紙を開発した」と語った。
熊氏は、「試験紙はまるで鋭い剣のように、当時蔓延していた『痩肉精』の問題に突き刺さった。コロイド金試験紙は操作が簡単でコストも低く、中国の食品安全迅速検出システムの構築に重要な貢献を果たした」と胸を張った。
しかし、国家による食品安全基準がより厳格になるにつれ、従来型のコロイド金試験紙の限界も次第に浮き彫りになった。熊氏は、「感度が追いつかず、微量の汚染物質を検出しにくい。目視で色を判断する方式は主観に左右されやすく、定量的な分析ができない。求められているのは、より精密で信頼性が高く、透明性のある検出技術で、消費者が安心して食品を購入し、口にできるようにすることだ」と率直に述べた。
技術的なボトルネックこそが、ブレイクスルーの出発点だった。
2012年、チームは当時中国国内ではまだ最先端分野に属していた「量子ドット蛍光微球免疫クロマトグラフィー技術」に注目した。量子ドット蛍光微球は検出の感度にどのような影響を与えるのか? 定量検出をどう実現するのか? その理論的な根拠は何か? 産業応用の際、どうすれば検出の正確性を保証できるのか?......研究の方向性を定めた後も、数々の難題がチームの前に立ちはだかった。だが10年にわたる研究の末、これらの問題はすべて解決された。
では、量子ドット蛍光微球とは何か。南昌大学食品学院の黄小林研究員は、「それは『超高輝度の蛍光球』のようなものだと考えるといいだろう。無数の量子ドットを一つの微球に封入することで、発光強度は従来の材料の何倍にもなり、検出感度を全体で3〜10倍高めることができる。この技術によって、これまで検出が難しかった微量の有害物質も、もはや逃れられなくなった」と語った。
さらに、この技術は定性検査から定量検査への飛躍も実現した。量子ドットが発する光子信号は外的ノイズに強く、複雑な食品基質中でも高精度な定量が可能である。このブレイクスルーにより、食品安全管理は「受動的な検出」から「能動的な予防・監視」へと転換した。
新技術によって処理工程も大幅に簡略化された。農産物市場やスーパーなどでも、専門機関に頼らずその場で検査ができるようになり、「迅速検査」が実現した。
現在、チームは農薬残留・動物用薬残留・カビ毒・禁止添加物の各カテゴリーにわたる100種類以上の検出製品を開発し、食用農産物における高リスク項目をほぼ網羅している。これにより、国内の食品安全を守る堅固な技術的防壁が築かれた。
江西維邦生物科技有限公司の劉文娟董事長は、「私たちの製品は年間50万枚を出荷し、江西省内の市場監督需要の90%以上をカバーしている」と語った。2020年、研究チームは同社と戦略的提携を開始し、研究室から産業化への「ラストワンマイル」を突破した。2025年にはさらに協力を深め、江西維邦同創生物技術有限公司を共同設立。中核特許技術の全面的な事業化を実現し、研究開発・製造・市場応用を一体化した産業チェーンを構築した。
現在、この成果は南京市・深圳市・寧波市などの計量品質検測研究院による検証を通過し、試験運用も始まっている。また、食品安全検査協同イノベーションセンターも浙江省紹興市に設立された。
※本稿は、科技日報「量子点微球试纸快速检测食品农药残留」(2025年10月20日付)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。