科学技術
トップ  > コラム&リポート 科学技術 >  File No.25-102

【25-102】第15次五カ年計画の科学技術戦略:4中全会で示された方向性

松田侑奈(JSTアジア・太平洋総合研究センター フェロー) 2025年11月07日

 中国共産党第20期中央委員会第4回全体会議(20期4中全会)は、2025年10月20日から23日まで北京で開催された。会議では、次の5年間(2026~2030年)の計画となる「国民経済と社会発展の第15次五カ年計画」の制定に関する中国共産党中央委員会による提言(建議案)を審議・採択し、習近平氏が提言について解説する演説を行った。五カ年計画は、中国共産党中央委員会総会で採択された建議案が、翌年の全国人民代表大会(全人代)で承認され、正式な計画として確定する。その際に、建議案の内容にいくつかの修正や追加が加えられたうえで、確定する場合が多い。

一、第15次五カ年計画の全体目標

 4中全会ではまず、第15次五カ年計画(以下、「十五五」)における全体目標が示された。2035年までの経済力、科学技術力、国防力、総合的な国力の強化、及びグローバル影響力を大幅に拡大し、一人当たり国内総生産(GDP)を中等先進国レベルに引き上げることが強調された。「国防力の強化」と「グローバル影響力の拡大」は、新たに追加された目標であり、第14次五カ年計画(以下、十四五)との違いでもある。

二、7つの主要目標と12の重点課題

 20期4中全会で提示された、十五五(建議案)の7つの主要目標は下記の通りである。

1.質の高い発展
2.科学技術の自立自強
3.改革の深化
4.社会文明水準の向上
5.民生の改善
6.グリーントランスフォーメーション(GX)
7.国家安全の強化

 建議案の目次において、実質的な施策項目は「重点課題」と呼ばれている。本稿では、十五五の12の重点課題(参考資料7参照)について、十四五の建議案(参考資料6参照)と比較を行った。

 これらの資料(参考資料6・7)は、それぞれ第14次及び第15次五カ年計画の建議案をもとに、中央サイバーセキュリティ・情報化委員会弁公室が主要な戦略任務や重点課題を整理・図解した解説資料である。したがって、本稿では、主要施策項目(重点課題)の変化を把握するための参考として、これらを用いた。

 中国の五カ年計画では、課題の記載順がその重要度を示していると一般に考えられている。そのため、前回の重点課題と比較することで、政策上の重点や方向性の変化を推測することができる。

 12の重点課題について、十五五と十四五を比較すると、項目の記載順や政策上の強調点にいくつかの変化が見られる。十五五では、「科学技術イノベーション」関連は依然として中核的課題となったが、記載順は前回の1番目から「現代的産業体系の構築」関連に次ぐ2番目となった。「現代的産業体系の構築」の他では、「対外開放」関連が5番目、「社会民生」関連が9番目にそれぞれ上昇した。

 こうした変化は、政策の重点が単なる技術革新から、産業の高度化や国際経済との接続、そして国民生活の向上により重きを置く方向にシフトしていることを示している。また、科学技術イノベーションが依然として中核的課題であることからも、中国が技術自立・自強を基盤としつつ、産業・社会全体の調和的発展を目指している政策的意図が読み取れる。特に、対外開放の順位上昇は、グローバルな技術・資本・人材の交流を通じて内外の協力を強化し、経済成長とイノベーションの相乗効果を高める狙いがあると考えられる。

表1 建議案における12の重点課題の記載順変化

出典:参考資料6、7を参照し筆者作成

記載順 14次五カ年計画(建議案) image 15次五カ年計画(建議案)
科学技術イノベーション 現代的産業体系の構築
現代的産業体系の構築 科学技術イノベーション
国内大市場の強化 強力な国内市場の形成
高水準の社会主義市場経済体制 改革の深化・高水準社会主義市場経済体制の構築
農村振興 対外開放の拡大
地域発展 農村振興(農業・農村の現代化)
文化建設 地域発展の調整
グリーン発展 文化建設
対外開放の拡大 社会民生の保障及び共同富裕
社会民生の改善 グリーン転換及び生態文明の建設
国家安全の強化 国家安全の強化
国防・軍隊の現代化 国防・軍隊の現代化

三、科学技術分野の新たな方向性

 科学技術分野では、「新質生産力」の育成、「基盤技術の革新」、及び「コア技術のブレイクスルー」、「宇宙強国」の建設等、いくつかの新たな方向性が示された。

「新質生産力」の育成とは、単に生産量を増やすのではなく、技術革新や効率向上を通じて、より高度で質の高い生産力を育てることを意味する。これには、製造業やサービス業における付加価値の向上、環境負荷の低減、新しい産業モデルの創出などが含まれ、産業・経済の長期的な持続可能性を支える基盤となる。

「基盤技術の革新」は、産業や科学技術全体に広く応用可能な基盤的な技術分野の研究開発を強化することを指す。具体例として、情報通信技術、材料科学、製造プロセス、計測・制御技術などがある。これらの技術は多くの応用分野の基礎となるため、革新を進めることで産業全体の技術レベルの底上げや、新たな産業創出につながる。

「コア技術のブレイクスルー」とは、国家戦略上不可欠な重要技術分野での優位性確立を目指す取り組みである。例として、半導体、量子技術、人工知能(AI)、航空宇宙、バイオ医薬などが挙げられる。海外依存を減らし、自国での独立・自立的な開発能力を確保することが目的であり、経済安全保障や国際競争力強化にも直結する中核的施策である。

 これらの方向性は、12の重点課題の中でも重要な位置を占めており、各重点課題の具体的な推進内容を整理したものが、下記の表2である。

表2 12の重点課題の主な推進内容

出典:参考資料3を参照し筆者作成

重点課題 主な推進内容
① 現代的産業体系の構築 製造強国・品質強国・宇宙強国・交通強国・ネットワーク強国の建設
② 科学技術イノベーション 新質生産力の育成、基盤技術の革新、コア技術のブレイクスルー
③ 強力な国内市場の形成 民生の恩恵拡大、消費促進、人材投資の強化、全国統一市場の形成
④ 高水準社会主義市場経済体制の構築 要素市場化の促進、市場経済制度の整備、高品質成長体制の強化
⑤ 対外開放の拡大 多国間貿易の活性化、「一帯一路」の高品質推進
⑥ 農村振興(農業・農村の現代化) 都市・農村の融合発展、農業競争力の強化、農民所得の増加
⑦ 地域発展の調整 地域間の均衡発展、新型都市化の推進、海洋開発・保護の強化
⑧ 文化建設 文化強国の建設、文化産業の育成、社会主義核心価値観の普及
⑨ 社会民生保障及び共同富裕 社会保障の強化、所得分配の改善、「健康中国」の実現
⑩ グリーン転換及び生態文明の建設 カーボンニュートラル推進、新エネルギー拡大、グリーン生産・消費の定着
⑪ 国家安全の強化 国家安全体制の強化、公共安全ガバナンスの向上
⑫ 国防・軍隊の現代化 機械化・情報化・知能化の融合発展、軍事力現代化の推進

1)科学技術イノベーションの4項目

 4中全会の記者会見で、科学技術部の陰和俊部長は、十五五期間中の科学技術イノベーションに関する4つの主要項目について、下記の通り発表した。

表3 科学技術イノベーションの主要項目
※注:表中の新型挙国体制とは、国家の発展と安全を最優先目標とし、社会的資源を集中させ、制度・メカニズムを最適化することで国家総合競争力を高め、国家安全を確保する革新的な発展体制を指す。

出典:参考資料2を参照し筆者作成

主要項目 狙い 内容
基盤技術(源泉技術)革新及びコア技術ブレイクスルーの強化 新型挙国体制を基盤に国家戦略技術を重点育成 1)集積回路(IC)、工作機械、高精度精密機器などの分野でブレイクスルーを実現
2)国家重点科学技術プロジェクトを新たに実施
3)戦略的・先導的な基礎研究を強化し、長期的・安定的支援を拡大
4)科学・技術研究の革新イノベーションを牽引し、代表的成果を創出
科学技術イノベーションと産業革新の深層融合の推進 技術体系と産業体系の連携を強化し、新産業を創出 1)国家戦略的科学技術力量の強化
2)科学技術成果の移転・知的財産保護の強化
3)イノベーションの主体としての企業育成、企業主導型イノベーション連合体の構築、国家プロジェクトへの参加拡大
4)先端・革新型中小企業の育成、R&D費用控除率の引き上げ
5)グローバル競争力を有する開放型イノベーション生態系の構築
教育・科学技術・人材の一体的発展の推進 人材・科学技術・教育の三位一体型イノベーションメカニズムを構築 1)教育・産業・科学技術政策の連携・調整・資源体系を整備
2)国家戦略的人材群の育成を加速
3)イノベーション能力・品質・実績・貢献度を中心とする評価制度改革を推進(プロジェクト評価、機関評価、人材評価、利益分配等を含む)
デジタル中国建設の深化 デジタル技術を基盤とした新たな経済構造を形成 1)全国統一データ市場(データ取引や流通を全国で統合する市場基盤)を構築(開放・共有・安全)
2)実体経済とデジタル経済の融合を加速
3)AIなどデジタル化・スマート化技術イノベーションを強化
4)演算力・アルゴリズム・データ供給体系を確立
5)「AI+行動計画」を全面的に実施し、産業全般にAI技術を普及

 これらの項目は、科学技術自立自強の実現や新質生産力の育成を軸に、基礎研究から産業応用まで一貫した技術革新体制の構築を目指すものであり、中国の国家戦略における科学技術の中心的役割を明確に示している。中国は、この4つの項目を通じて、教育・研究・産業・デジタル化を一体的に推進し、AIや量子科学などの先端技術分野で世界的リーダーシップを確立しようとしている。

2)新興産業及び未来産業の育成

 同じく、4中全会の記者会見で、国家発展改革委員会の鄭柵潔主任は、十五五期間中に新エネルギーなどの新興産業及び未来産業を重点的に育成する方針を示した。

・新興産業:新エネルギー・新素材・航空宇宙・低空経済などを中心に、約1兆元(約21兆円)規模の市場生態系を形成し、産業クラスターを育成することを目標とする。

・未来産業:今後、量子科学・バイオ製造・水素エネルギー・核融合エネルギー・脳―機械インターフェース・エンボディド・インテリジェンス・第6世代移動通信(6G)など、基礎と応用を融合した未来産業を重点的に育成する予定である。

 こうした新興産業及び未来産業の育成は、中国経済の質の高い成長や産業構造の高度化に直結しており、エネルギー安全保障や先端技術分野での国際競争力強化に繋がる国家戦略の一環であると思われる。新エネルギーや量子科学、6Gなどの先端分野を含む育成戦略は、科学技術イノベーション、産業革新、デジタル経済の発展と密接に連動しており、産業クラスター形成による経済的波及効果も期待できる。

3)宇宙強国建設:新たな項目の追加

 十五五では、新たな重点課題の項目として、「現代的産業体系の構築」内に「宇宙強国建設」が加わった。中国では2024年10月に「国家宇宙科学中長期発展計画(2024〜2050)」が公開され、「宇宙大国」から「宇宙強国」へ転換するための3段階ロードマップが提示された。

<参考> 表4 「宇宙強国」への3段階ロードマップ

出典:国家宇宙科学中長期発展計画(2024〜2050)

段階 期間 主な内容
第1段階 2024〜2027年 月探査任務、天宮宇宙ステーションに注力
第2段階 2028〜2035年 他惑星探査任務、天宮ステーション拡張、月面国際研究基地設立、金星試料採取任務開始
第3段階 2036〜2050年 30件以上の宇宙科学任務を遂行し、宇宙科学の中核分野で世界的リーダーシップを確立

 宇宙強国建設が追加されたことは、中国が単なる宇宙活動国に留まらず、宇宙科学・技術の分野で国際的な主導的地位を確立し、国家戦略の一環として科学技術力と総合的な国力を強化する意図を示すものであると考えられる。

 第15次五カ年計画は、経済力・科学技術力・国防力の強化を軸に、社会・民生の向上やグリーン転換を含む幅広い分野で国家戦略を具体化したものである。特に科学技術分野では、宇宙強国の建設、新質生産力の育成、基盤技術の革新、コア技術のブレイクスルーといった新たな方向性が明示され、産業革新と教育・人材政策との統合的推進が図られている。また、新興産業及び未来産業の育成により、量子科学や6G、核融合エネルギーなど先端分野での国際的競争力の確保を目指しており、中国の総合的な国力と国際的影響力を一層高める意図が見て取れる。今後、この計画の実施が国内の経済構造や産業生態系に与える影響は大きく、科学技術の進展が社会全体の発展に直結する形で、2035年までに中等先進国への成長と世界的なリーダーシップの確立を目指す中国にとって、この5カ年計画が重要な意味を持つことになりそうだ。

 

上へ戻る