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【25-109】脱炭素と石油増産の難題に取り組む-大慶油田CCUS-EOR拡大試験の記録

朱 虹(科技日報記者) 伊麗娜(科技日報通信員) 2025年11月21日

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大慶油田採油第七工場の敖南油田にある非混相圧入型CCUS(二酸化炭素の回収・利用・貯留)全産業チェーン実証拠点。(撮影:徐立志)

 大慶油田採油第七工場の敖南油田CCUS-EOR(二酸化炭素の捕集・利用・貯留と原油回収率向上)拡大試験エリアに入ると、生産監視・早期警報プラットフォームには各生産ユニットのデータが点滅していた。採油第七工場CCUSプロジェクト管理部の技術者である王兆泓氏は、「独自開発したこのCCUS早期警報ソフトウェア専用モジュールは、すでに2カ月間、安定して稼働している。井戸や井戸間、ステーションをこれで集中的に監視し、『人が故障を探す』から『故障が人を探す』という管理方式への転換を実現した」と語った。

 CCUS-EORは、二酸化炭素の捕集・利用・貯留(CCUS)と原油回収率向上(EOR)技術を融合させた、排出量削減と原油増産を両立させる技術だ。大慶油田採油第七工場の敖南油田CCUS-EOR拡大試験エリアでは最近、収集・輸送システムが稼働した。中国国内のCCUS-EORの先行事例である同油田は、典型的な二酸化炭素圧入非混相油層に属しており、1996年に二酸化炭素圧入法の模索を開始し、2014年には大慶周辺の楡樹林油田で超低浸透率貯留層の開発という難題を克服し、9年連続で安定生産を達成した。

 敖南油田では2024年、CCUS-EOR拡大試験が開始した。現在までに、この試験エリアでは累計8万5300トンの液化二酸化炭素が地層に圧入されている。この数字の裏には、技術開発から生産開始に至るまでの一定の成果があった。

技術対応で品質と効率の向上を図る

 CCUS-EOR技術は、産業排出された二酸化炭素を捕集し、それを油層に注入して原油回収量を高めるとともに貯留を行うことで、炭素排出量の削減と石油増産という二つの目標を同時に達成する技術だ。

 もし大慶油田敖南油田で進められているCCUS-EOR拡大試験が実行可能であることが証明されれば、脱炭素と石油増産という二つの効果が実現し、周辺油田が再び活力を取り戻すことになる。

 しかし、この「二重の利益」をもたらす「金の鍵」は、大慶油田で大きな難題に直面した。CCUSプロジェクト管理部の技術者である白雪峰氏は、「大慶油田は油層が浅く、圧力が低めで、原油の粘度が高く、地下の岩層の隙間が不均一で、混相圧入が成立しないため、最終的な原油回収効果が低下してしまう」と語った。

 そこで、CCUSプロジェクト管理部は昇圧・混相促進技術に着目した。ガス注入圧力、休止井、油井の流動圧制御の組み合わせにより、地層圧力を可能な限り混相圧力に近づけることを目指した。当時、中国内外に産業化応用の前例はなかったため、彼らは敖南油田で1つの試験圧入井群を選定し、先行試験を実施した。1年以上の模索を経て、一部の採油井で初期的な効果が見られ、これが技術の適合性を検証し、拡大試験を実施するための基礎を築いた。しかし、拡大試験において、技術者たちは、元の計画の一部の井戸エリアで圧入井と採油井の距離が遠すぎ、原油を押し出す力が伝わりにくく、注入採油システムを調整しなければ、試験開発効果を保証できないことを発見した。

 このため、同部は複数の補完的な拡大試験案を作成し、経済性と工期を総合的に検討した結果、既存の油井をガス圧入井に転用し、井戸網をほぼ維持したまま最適な開発効果を確保する計画へ最適化した。

 同部の技術者である張興広氏は、「このソリューションの導入により、採油第七工場はわずか113日で、日量800トン規模の液化二酸化炭素圧入ステーション、および22本の圧入・採取井とそれに付随する収集・輸送プロセスの建設を完了した。プロジェクト稼働前には、累計4万6600トンの液化二酸化炭素を地層に圧入し、地層圧力も混相圧力に近づいた」と語った。

 同じく技術者の孫華璽氏は、「地層に圧入されるのは液化二酸化炭素であり、圧力が高く温度が低いため、井戸口のパイプラインが凍結・閉塞しやすい。これは、CCUS-EORプロジェクトが日常管理で直面する共通の難題だ。我々のような非混相圧入による開発では、このリスクがさらに高まる。生産開始作業の推進に伴い、井戸口に戻る流体の温度が低くなる事例も増えていった」と述べた。

 円滑な稼働のために、大慶油田CCUS専門チームおよび関連部署の組織の下、CCUSプロジェクト管理部は新たな道を見出した。それは、「水ガス交互注入+休止井による拡散+単井ごとの動態調整+高産液井・末端井の優先立ち上げ」という生産開始方式を採用することで、拡大試験エリアの38本の生産井を一度に稼働させることに成功した。

 孫氏は、「水ガス交互注入とは、まず水を使ってガスが噴き出す通路を遮断し、その後に二酸化炭素を、元々水が行き着かなかった場所へ押し出し、原油を駆動させることだ。一方、休止井による拡散は、乾いたスポンジを水に浸すのに似ている。もしスポンジをすぐに取り出せば内部はまだ乾いているが、水中でしばらく閉じ込めれば、水がゆっくりと拡散し、スポンジの全ての微細な穴に徐々に浸透していく。これを油層に当てはめると、ガス圧入後に井戸を閉じて一定期間閉じ込めるのは、二酸化炭素が地層の細孔内で拡散し、原油と十分に作用するための十分な時間を確保するためだ。このプロセスは、井戸口からのガス産出量を効果的に減らし、低温の二酸化炭素が集中して産出されることによる集油ラインの凍結・閉塞リスクを回避することができる」と説明した。

継続的な研究開発で「眠れる原油」を呼び覚ます

 同プロジェクト部マネージャーの夏沢成氏は、「新しい道を切り開くには、技術が鍵となる」という。研究者たちは、複雑な地下の迷路で精密な「ガス圧入」操作を行うだけでなく、圧入パラメータの設計、圧入プロセスの制御といった前例のない課題にも直面しつつ、二酸化炭素のガス噴出、腐食、凍結・閉塞といった生産管理の難題にも対処しなければならない。

 このため、CCUSプロジェクト管理部は技術を推進力とし、管理を保証とすることで、拡大試験を活用し、専門的な技術開発と生産管理の経験を蓄積した。現在、彼らはすでに複数の科学研究プロジェクトに参加しており、「敖南油田低浸透率貯留層のガス吸収下限に関する研究」など6項目の研究課題に取り組み、二酸化炭素圧入におけるガス噴出制御技術、二酸化炭素圧入における坑井腐食防止技術など5項目のプロセス技術研究を重点的に進めており、今後、効果が確認された後の工業化普及に向けた基盤を整備している。

 現在、彼らは二酸化炭素圧入油層、採油、地上設備、生産安全の四つの側面を網羅する適用可能な標準規範を策定・整備しており、独自の知的財産権を持つ技術体系の構築に注力し、再現・普及可能な二酸化炭素開発管理体系を構築しようとしている。

 夏氏は、「我々は引き続きエンジニアリング思考を強化し、大慶油田の質の高い発展を中心として、4つの注力点をしっかりと実行し、低炭素化の4つの道を歩んでいく。また、『共創共有、協力ウィンウィン』の発展理念を堅持し、外部との円滑なコミュニケーションと、内部の効率的な協力を両立させる技術発展の道筋を確立し、CCUS工学技術の一体化した発展を促進していく」と述べた。

 地中で二酸化炭素の流れが力を発揮し、「眠れる原油」をゆっくりと呼び覚ますとき、この技術は、単なる一つのプロジェクトを超越する。それは「古い油田」に「新しい生命」を吹き込むだけでなく、炭素捕集・利用の分野で、エネルギー産業の低炭素化に向けた確かな一歩を刻んだのである。


※本稿は、科技日報「啃下降碳增油"硬骨头"」(2025年10月28日付)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。

 

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